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「 卓上の芽生え 」

 妻が、大きく切り落としたニンジンのお尻を水栽培し、葉を芽生えさせた。
 それを目にした途端、まだ青ささえ薄い動物の子供のような若葉の色と勢いに、そして何より可愛らしさに、仕事思考で険しい顔をしていたはずが思わず笑顔になってしまった。
 まさか外界から隔絶された室内で、夏のはじまりを目にすることになろうとはと。

@自宅

●撮影ノート
「Ai-AF Micro-Nikkor 55mm f/2.8」+「Nikon D850」
焦点距離:55mm
FNo:8.0
シャッター速度:1/60
合成ISO:1100
合成露出補正:+0.3EV
 こういう写真は、普段ならF16あたりまで絞って撮ります。
 というのも、接写の領域になると、奥行きのある被写体は通常の撮影より遙かにボケやすくなります。
 なので全体をきっちり写そうと思ったら、思いきり絞らないといけないわけです。

 ですけど、この写真は実はF8で撮っています。
 理由は、ともに色鮮やかで目立ちやすいニンジン本体と葉っぱの両者で、気持ち的に主役である葉っぱがやや目立って欲しかったからです。
 ただ、この「やや」の塩梅はわりと難しくて、完全にボケて欲しくはないんだけど、それでも主役が分かる程度にはボケて欲しい。――というわりと微妙なさじ加減が必要になります。
 今回の場合はF8が、ピン位置にいる葉っぱに対してニンジンが軽くボケてくれる丁度よい絞りだったというわけです。

 ちなみに今回は一眼レフのいわゆるOVFで撮っていますが、ミラーレスカメラのEVFなら、この点で「程よさ」を現場で割り出すのが少しだけ楽になります。
 EVFなら、大雑把なボケかたの調整くらいまではファインダー像を見ながらできますから。
 ですけどそれとて完璧ではないので(出来上った写真とEVFの像って、双方の画像処理過程の違いやらコントラスト差やらがあって結構違いますよね)、時間があるなら絞りを変えて数枚撮っておくと良いと思います。
 そうして比較してみて、この距離でこのくらいの大きさのものは、絞りによってこのくらい奥行きのボケかたが違うんだな。――ってあたりをある程度掴んでおくと、次回から微妙な表現が出来るようになると思いますし。

 他、撮影時のアングルは、現場で最初に感じた「葉っぱが大きく手を広げているような印象」を表現したくて、葉っぱたちが成す放射状の形が良く見える位置、それでいて茎の部分もチラ見えしている位置を選びました。
 構図的に下の空間がやや空き気味なのは、考えすぎて全体のバランスまで頭が回らなかった結果ですね。――次から気をつけよう。

 なお現像時は、まだ若葉である葉っぱの青くなりきっていない微妙な色とニンジン本体からのオレンジ色の照り返しを忠実に出したかったので、そこを基本として全体の色温度を決めています。

 それと、こういう爽やかな印象のブツをマクロレンズで撮るときのお約束ですが、コントラストと解像感は少し下げ気味な方が現実味は出ると思います。
 というより、あまり解像感だのを増しすぎると(ヤロウは解像感大好きなんですよねえ)、細部のグロテスクさばかりが悪目立ちしてロクなことにならないんですよねえ。
 まあ、だからといって解像感を落としすぎて夢々しくしてしまっては、今度は自分が見て感動したものとは別のファンタジックななにかになってしまいます。
 なので、日常の記録みたいなもの、あるいは記憶のインデックスのような写真を残したいのなら、そこのバランスには真摯であるべきかなあと私は思っています。

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