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スナイダーカット日本版ブルーレイの封入特典が海外で批判される理由

『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』の日本版の初回仕様特典に対して主に海外組から批判的なツイートが複数上がっている。商品説明画像を拡大すると分かるのだが、封入コミックブックが2012年に発行されたNew52のジャスティスリーグの第1話らしいことが原因だ。このノートでは、なぜこの特典が批判の対象になってしまうのかについて解説する。
注意:値段がべらぼうに高いのは転売価格のためです。

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ややネガティブな内容になるので苦手な方はご注意ください
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▼結論

最初に結論を書いておくと、この封入コミックブックの作者がスナイダー(そしてレイ・フィッシャー)の不幸を作り出した最大の原因だからです。以下では順を追って解説していきます。

▼背景

この特典コミックは2012年に発行されたNew52と呼ばれるシリーズのジャスティスリーグの第1話。作者ジェフ・ジョンズ、作画ジム・リーとクレジットされています。つまり二人による共作です。そして、この二人はアメコミ界のレジェンドです。

リーは最も人気のあるアメコミ作家の一人で、スナイダー監督とジャスティスリーグのストーリーボードを共同制作した、いわばスナイダーバースの立役者でもあります。彼の作画は文句なしにクールです。

一方でジョンズは2005年頃から優れた作品を連発して当時低迷していたDCコミックスを立て直した伝説のライターであり、2010年以降のDCの経営者でもあります。しかしながら、彼はスナイダーカット支持者から大いに嫌われる経営判断を下した人物でもあるのです。今回の特典に海外で反発が起きた原因はここです。

DCにはコミック部門と映画部門があります。好調だったコミックと異なり2016年頃までDC映画(マン・オブ・スティール、バットマンVSスーパーマンの2作)の売り上げは苦戦していました。これに対して、ジョンズはDC映画の低迷の原因は「スナイダーの作風が暗すぎるから」と判断して『コミックブックのように明るいテイストに軌道修正』を決断した(=つまり言い換えるとスナイダーをクビにしてスナイダーが作った世界を壊した)主要人物の一人なのです。彼らの2017年の決断により、映画『ジャスティスリーグ』はジョス・ウェドン監督により大幅に脚本が書き直され、追加撮影され、再編集されました。

なお、この軌道修正はうまく行かず、結果的には、評論家からは酷評され、一般客の心を掴むこともできず興行的にも失敗したことで、ジョンズがDCの経営から退く原因の一つになりました。しかも、ジョンズが「お手本」にしていたMCUは程なくして『シビル・ウォー』や『インフィニティ・ウォー』といった作品でシリアスな路線に突き進み、批評と興行の両面で大成功を収めたという皮肉なオチまでついています。

さらに、2017年当時のジャスティスリーグ追加撮影でのウェドン監督のキャスト及びクルーに対する人種差別・女性差別・その他パワハラを2020年にレイ・フィッシャーが告発したときに、ジョンズはウェドンを擁護する立場をとりました。このため、経緯を知ったスナイダー支持者からジョンズはひどく嫌われることになり、しばしば「ヘビ」と揶揄されるようになりました。

キリスト教圏でヘビは「純粋無垢なイヴを騙して林檎(罪)を食べさせた張本人」であり、悪意・欺瞞・陰険・冷酷の象徴とされていることから、これは相当に酷い悪口です。日本のようなアニミズムの文化圏出身者(ヘビが御神体とされている神社さえある)には想像できないレベルで敵意のある表現なのだと類推されます。

▼問題

今回はそんなヘビ野郎=ジョンズが作ったものが、事もあろうに『ジョンズに壊された世界の復興』の象徴であるスナイダーカットの封入特典とされたのだから、一部の海外勢の胸中たるや穏やかではありません。

しかもそのコミックブックの作画がみんな大好きジム・リー先生(先述した通りスナイダーと物語を共同作成した人物の一人)なので、単純にバッシングするのもあまり心地の良いものにはならず、ファンは一層フラストレーションを溜めることになりました。

もし意図的にこれを選んだならかなり卑劣ですね。(たぶんワーナー・ブラザース・ジャパンの中の人たちはそこまで考えていません。悲しいですが)

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↑アマゾンの商品説明画像を拡大

▼考察

そもそも、このコミックは映画の原作ではありません。このコミックが発行された2012年はちょうどDCEUプロジェクトが始動した時期でもあり、コスチュームデザインなどにある程度の類似性は見られるのですが、このコミックはスナイダーが制作した『ジャスティスリーグ』と物語上の関係は一切ありません。同じ時期に作られたコスチュームが似てるだけの作品です。

従って、スナイダーカットに付録するという行為自体がまずナンセンスなのです。よく通販番組で出てくる「さらに今なら●●●も付いてお値段変わらずです!」という宣伝文句に似ています。そんなの付けなくて良いから値段を下げてくれ!って思ったことありませんか。笑

未読の方のために注記すると、今回付録でついてくるコミック(New52の第1話)は「夜のゴッサムシティでバットマンがパラデーモンを追跡してマザーボックスみたいなものを見つける」話です。2017年版映画ジャスティスリーグの冒頭シーンとかなりシンクロすると思います。

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公開された映画の脚本を書いたのはジョス・ウェドンとクレジットされていますが、やけに似ています。「物語の冒頭である」という全体の構成および位置付けや「パラデーモンが爆発するとマザーボックスが現れる」という展開は同じなので、何らかの形でジョンズが影響している可能性は高いでしょう。もしかしてウェドンがジョンズのご機嫌取りで書いたのかなーとかいくらでも勘繰りはできて、ブラックジョークとしてはよく出来ています。苦笑

スナイダーカットではウェドンが撮影したこのシーンは完全に削除(そもそもスナイダーとクリス・テリオのオリジナルの脚本には存在しなかったエピソードなので当然)されたのですが、今回の封入特典はわざわざ脚本書き換え問題を蒸し返すような内容とも受け取れます。

▼ただし作品自体の評価は別ではある

なお映画の戦略について判断ミスがあったとはいえ、偉大なライターであることに変わりはないジョンズの名誉のために、コミック自体は良作であることを書いておきます。

コミックでは「パラデーモンが怪しい動き(爆弾の設置と見せかけて実はダークサイドの地球侵略準備だったと後でわかる)をしていたが、危険すぎて警察では対処しきれなかったのでバットマンが捕まえようとしている」というシナリオなので、筋は通ってるし良い導入部だと私は思っています。2017年の映画のような無理矢理くっつけた感じがありません。

2012年に発刊された今作を2017年の映画の前に予習として読んだ私は、素直に良い作品だと思いました。2017年にミスジャッジがなければ、スナイダーの解雇も、ウェドンによる暴挙も、それらによるファンの悲しみも生まれることはなかったでしょう。私だってジョンズによる良質なコミックを今でも素直に楽しめたかもしれないのに残念です。(2021年にスナイダーカットが無事に公開されたことで『別の世界の物語』として読めるようにはなりましたが、心にわずかなしこりが残っています)

誰がこのコミックを特典にしようと提案したのか知りませんが、上記のコンテクストを知っていれば絶対に採用しない選択肢だったと思います。その程度の下調べもできない、または興味がない人が決定権を持っているのが私は悲しいです。

しかしこのコミックはモノ自体は良いのでまだ救いようがあります。スナイダーカットにそこまで強い想い入れがない人なら、むしろ特典コミックが新しい世界を知るきっかけになって良い部分があるかもしれません。

救いようが無いのが、同じく特典のオリジナルミニポスターです。

▼実はポスターの方がやばい

特典ポスターは2021年6月6日現在で、スーパーマンが青のスーツを着ています。素材には既視感があるので2017年のものでしょう。無理に明度を下げているので顔色がとんでもないことになっています

そしてスナイダーカットで出番が大幅に復活したサイボーグとフラッシュは、ここでは随分遠くに小さく追いやられています。アクアマンと比較しても明らかに小さい。

バットマンも青みがかかっているので悪名高きウェドン版です。

ここから想像できるのは、どう考えても既存の宣材を切り貼りして、作品の内容を知らない人がやっつけ仕事で仕上げた感じが満載です。全く持って不要なゴミだし、資源の無駄だし、これを口実に価格に上乗せされていると考えると怒りが込み上げてきます。

この点はある意味で付属コミックより私は残念です

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………要らねえ。笑

センスなさすぎだろ。

ある意味レアアイテムになって価値が上がるかもね。

珍事件の記録として。笑

いや、ないか。笑 

無神経にチョイスしたコミックブックにせよ素人レベルの二次創作ポスターにせよ何も考えていないワーナーブラザースジャパンには本当にがっかりさせられます。

通常盤が出てるのでこれから円盤を買う方はこちら一択でしょう

あと補足として、消費者体験としてはアップルで買うのが一番良いかもしれません。お値段は半額近くで、特典映像はブルーレイと同じインタビュー(24分)に加えて、アップルでは「モノクロ版(4時間)」もついてきます。さらにディスクを途中で交換する手間も発生しません。PCまたはタブレットに10GBの余裕があれば本編はダウンロードもできます。

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本当に、ワーナーは何か理由があってディスク発売に逆プロモーションでもかけてるんですかね。笑

(実際のところはApple社は直接Warner Bros.本社から作品と特典映像を購入して自分たちで価格設定しているのに対して、他の配信サービスやブルーレイ販売はワーナー本社からある程度ジャパン法人にディレクションがあってそれに従っているのかな、などと予想はできる)

了。

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