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【アンダー・ザ・ウォーター】ネタバレ感想・考察

2017年製作/88分/スウェーデン・デンマーク・フィンランド合作
原題:QEDA
英題:Man Divided(分裂した男)
邦題:アンダー・ザ・ウォーター(水面の下で)
配給:クロックワークス
本国劇場公開日:2017年11月16日
日本劇場公開日:2018年1月6日

▼冒頭の字幕について:

この映画はデンマーク語と英語で話すので私には全く聞き取れない場面も多くありますが、タイトルが言語圏によってバラバラなので、まずは冒頭の舞台説明の字幕が、翻訳者によって妙にアレンジされていないか確認しておきます。

デンマーク語を英語にGoogle翻訳することで正当性を評価します。ほんの少しのニュアンスの違いですが、本作のように科学的設定が凝っていたり、あまり情報を出さない映画では結構重要になる場合があります。

日本語字幕:2095年、海面上昇で大陸は海にのまれている。動植物は《塩病》にかかり絶滅していた。真水は贅沢品である。

I 2095 er Jorden forurenet af salt fra de stigende oceaner. Dyr og planter er uddøde, hele kontinenter er forsvundet. Ferskvand er blevet en luksus. 

In 2095, Earth is polluted by salt from the rising oceans. Animals and plants are extinct, entire continents have disappeared. Fresh water has become a luxury.(2095年、大地は海面上昇の塩に汚染された。動植物は絶滅して、大陸は全て消えた。真水は贅沢品になった。

《塩病》という造語は、日本語翻訳でのアレンジだった可能性が高くなりました。

日本語字幕:今や時空移動が可能な時代。実行できるのは量子網分離官(QEDA)だ。彼らは2人に分裂でき、現在と移動先とで繋がり合う。

Man har udviklet en teknologi til at rejse i tiden. Metoden kræver en QEDA, en agent som er delt i to og forbundet med sig selv på tværs af tid og rum.

A technology has been developed to travel through time. The method requires a QEDA, an agent that is split in two and connected to itself across time and space.(時間旅行のため、ある技術が開発された。この手法はQEDA、つまり自分を2つに分裂させて時空を超えてつながり続けるエージェントを必要とする。

《量子網分離官》もまた、映画の中で出てくるのかもしれませんが、字数を削るために翻訳者が苦心したことが窺えます。この日本語訳のおかげでQEDAのQはquantumなのかなと予想がつきやすいです。ただしここは物語の全編を通してほとんど説明されないので、量子力学やシュレーディンガーの猫などの科学的知識がある人でないと難しく感じるかもしれませんね。

日本語字幕:だが歴史が変わる危険性がきわめて高いと判明。時空移動は禁じられ、QEDAも存在を封じられた。

Men risikoen for at ændre i sin egen tid har vist sig at være alarmerende høj. Tidsrejser er blevet forbudt tog QEDA'er bandlyst.

But the risk of changing in his own time has proven to be alarmingly high. Time travel has been banned, QEDAs banned.(しかし歴史が改編される危険性が極めて高いと証明された。時間旅行とQEDAは禁止された。

「存在を封じられた」なんて仰々しく書かないで、シンプルに「禁止された」で良かったと思いますけどねー。というのも、他ならぬ主人公がQEDAですし、劇中には違法行為をしたQEDAを収監している描写もあるので、別に存在を封印はしてないんですよね。

単純に禁止しただけです。1920年代アメリカでは禁酒法が施行されましたけど、別に酒そのものは存在を封じられたわけではなくて、司法の目をすり抜けて飲んでる人は居ましたよね?

以降、ネタバレありで語ります。

▼あらすじ:

海。男が何か後悔しながら浮いている。

2095年、今や禁止されたQEDAであるファン・ルン大尉は、政府から密命を受けて自身の分身を2017年にタイムスリップさせて、塩水を真水に変える技術(ある細菌かバクテリアかの遺伝子情報)を獲得しようとする。実は彼の曾祖母が研究者だったが、研究完成前に飛行機事故で亡くなっていたのだ。

2017年の美しい自然に感動する分身の男。分身の男は本来は過去の人間との一切の接触もしないつもりだったが、情報を得るためにやむをえず研究者とその娘と顔見知りになる。

しかし無事に未来で待つファンが遺伝子情報を受け取った後で、分身の男との繋がりが途切れた。

#ネタバレ

2095年では研究成果をファンの妻が引き継ぎ、研究を完成させる。これで人類の生存に光明が見えた。彼の娘もまた塩病に罹って瀕死だったが、これできっと助かるだろう。

しかし過去の男は帰って来ない。過去の男が研究者と接触したことで未来では歴史の乱れが観測され始まる。これ以上の歴史改変を止めるためにファンに自殺命令が下る。しかしファンは収監されていた時空犯罪者の片方を射殺して、自身の死が分身の死には直結しないことを証明し、そのまま政府から逃亡して自身も2017年に飛ぶ。

2017年で、ファンは過去の男を見つける。過去の男は研究者と娘と三人で仲良く楽しく暮らしていた。過去の男は「この世界を満喫しないことこそが罪だ」と言い出す始末。ファンは過去の男を説得して未来に帰ることに同意させる。

しかし過去の男が研究者と交流したせいで歴史が少し変わり、研究者が事故に遭った飛行機に娘が一緒に乗り込んでしまう。本来は娘は飛行機に乗らず、一人生き残るはずだった。なんとか止めようと空港へ急いだが間に合わず飛行機は飛び立ってしまう。

ファンはひどく後悔しながら、過去の男と共に未来が回収してくれるのを海に浮かんで待っている。

▼考察:

ラストシーンが冒頭に繋がるタイプの映画でした。

典型的なタイムパラドックス物というか、父殺しのパラドックス(祖母殺しのパラドックス?)をそのまま映画にした物ですね。

ファンは曾祖母の娘、つまり祖母が飛行機事故で死んでしまったので、未来に生まれなくなったことになります。しかしこの映画ではパラドクスを認めてそのままファンが過去で存在し続けています。

しかしファンがやってきた未来はすでに存在しません。未来ではファンが生まれませんし、当然ファンの娘も生まれません。ファンが未来に帰ることができても、そこにファンの娘は居ないでしょう。

それ以上に、そもそも未来ではファンが存在しないので、未来の政府が過去のファンを回収することもありません。ファンはこのまま過去に取り残されるのでしょう。

気になるのはファンが送った情報ですよね。こちらも最初からファンの功績は何もなかったことになるので、おそらくリセットされて情報の無い未来になっているのでしょう。

その意味では、未来は変えられないという運命決定論のような物語でもあると言えます。時間旅行を使って歴史を修正しようとしても人類は必ず同じ結末にたどり着いてしまう、みたいな。

たぶん未来から今度は別の人物が送られてきて、同じように科学者が持つ情報をゲットしようとするのでしょう。今度は成功するのでしょうか?

●なぜファン・ルン大尉が選ばれたのか

科学者の直接の子孫だからでしょう。

過去は変えてはいけません。なので細心の注意を払う必要があります。ましてやそれが自分の先祖ならば、歴史の改編はそのまま自身の存在を脅かすことになりますから、いっそう気をつけるようになるはずです。

それなのに、曾祖母と男女の関係になったファンの分身は相当バカですけどね。(苦笑)

(Back to the Future, 1985)

●分身の男のパーソナリティ

未来に残ったファンと、過去に送ったファンで、性格というか思慮の深さが異なるのが不思議でした。過去の男の方が明らかにバカでした。

それで思い出すと、未来に居たもう一人(二人?)の分裂して過去を変えようとしたから収監された男も、片方が穏やかで知的な雰囲気があり、もう片方は好戦的でした。どうやら量子もつれで分裂されたもう一人はバカになる傾向があるのかもしれません。

コピーだから少し出来が悪いということでしょうか。(笑)

(Multiplicity,1996)

しかし量子もつれを使って分裂させたなら、そもそもどちらがオリジナルだと言えるのでしょうか、という問題がありますよね。本作ではどうやらどちらがオリジナルなのか明確な定義があるようですが。

そういえばファンが射殺した男もバカっぽい方でした。分裂した方だと明らかに判るから、そして分裂した方には人権が無いと考えることができる(ただし議論の余地はありそう)から、あんなにあっさりと射殺できたのでしょう。

▼ネットの反応から:

全く邦題はなんなんでしょうね!バカなの?
原題はQEDA(Quantum Entangled Divided Agent:「量子もつれ」で分割されたエージェント)なんですが、日本の配給会社の人の理解を超えていたのでしょう凸。私だったら邦題は「エンタングルメント」とかにしたいところ。

arlecchinoさん - 2022年6月12日 - 映画.COM

完全に同意します。(笑)

主人公が最終的に歴史にもつれ(エンタングルメント)を起こしてしまうのが映画のオチなので、良いタイトル回収にもなっています。

(了)

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