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では、そのお答えを

ここ数日、熊谷の実家に逗留していた。
2月、3月と気の抜けない仕事が立て込んでいて、4月に入ってふっと隙ができたのか、どっと疲れが出たようだ。

母にあれこれ世話を焼いてもらいながら、養生をする。
そうやってすこしずつ回復し、朝起きる時に身体がだるくなくなった日(12日間かかった)。
この日は、大切な友人たちが熊谷にやってくることになっていた。

2人の友人をもてなすために、父と母と連れていきたい場所について話し合った。ワインバー? 近所のマグロの寿司からバスクチーズケーキまで食べられる居酒屋? 熊谷といったらホルモンでしょう。……実家が熊谷にうつって3年。3年前には想像もできないほど、ここにはすすめたい店が増えた。
ただ、今回ははじめてやってくるひともいるので、なるべく家で過ごしてもらおうと、母が最近発見したお菓子屋と気に入りの魚屋を見せる、ということで落ち着いた。

***

2人は、いつも通りという感じで熊谷にやってきた。そうして、「こう過ごすのがいいよ」と家人たちにレクチャーするように、おのおのがリラックスして過ごしていた。
庭に用意したテーブルに好きな時に行き、タバコをくわえたり、鳥の鳴き声に耳をすませたり、庭の植物を観察したりしていた。

さらにはわたしの両親とも古くからの友人であるかのように大いに語らい、世界で起こっていることへの私見を述べあっていた。

「ここに来るまでに読んでいた本で、ものすごいところがあるので読みます!」
リビングでそう宣言すると、4、5ページ分はある文章を朗読した。

父である著者が、息子からの抗議を不意打ちで食らってしまったことから始まり、「怒り方を知らない」ことが饒舌に語られた文であった。

これを聞いていた母は「では、そのお答えを」と言い、本棚から1冊の文庫本を取り出し、読んだ。

リビングでくり広げられた朗読の交流は、また観たい。

『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』 スズキナオ著 新潮社刊

『遠い太鼓』 村上春樹著 講談社文庫刊

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