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気ままビジネス分析 #1 韓国ドラマ制作会社 スタジオドラゴン(後編)

前回に引き続き、韓国ドラマ制作会社スタジオドラゴンについてご紹介して行きたいと思います。
今回はスタジオドラゴンが良質な作品を生み出せる理由と今後の韓国ドラマビジネスについてお話していきます!
またまた、長文になってしまったので気になる箇所を読んでいただけたら。

良質な作品が生まれる仕組み

スタジオドラゴンの凄さと言えば、なんと言っても作品のクオリティーの高さ
太陽の末裔、トッケビ、愛の不時着・・・と社会現象を巻き起こすほどの作品を立て続けに連発できるのにはどんなカラクリがあるのか。
ここでは韓国ドラマに共通する要素も含め、良作が生まれる仕組みを制作工程、制作費、俳優の演技力の3つに焦点を当て紹介します。

①脚本重視、クリエーター中心の作品作り

大金を投じれば誰でも面白い作品がつくれるか、と言われるとそう簡単な話ではない。
特に韓国のドラマ市場は「ストーリー第一主義」が徹底しており、視聴者の目線も厳しい。いくら旬の人気俳優や豪華キャストをそろえようと、地上波のゴールデン・プライムタイムに編成されようとも、ストーリーが面白くなければ視聴者はそっぽを向く。時に厳しい批判がSNSやネット上で飛び交い、最悪の場合打ち切りにまで追いやられるケースもある。
評判の悪い作品に出演することは演者にとっても死活問題となり、必然的に韓国では「脚本選び」が重要視されているのだ。

そんな中、スタジオドラゴンが取った手は脚本家の囲い込みである。優秀な脚本家が所属する制作会社を次々に買収していったのだ。そして、現在、傘下にある「ファエンダムピクチャーズ」にはキム・ウンスク(「太陽の末裔」「トッケビ」「ザ・グローリー」)、「文化倉庫」にはパク・ジウン(「愛の不時着」「星から来たあなた」)といったトップクラスの売れっ子脚本家が勢ぞろいしている。しかし、売れっ子脚本家だからと言ってドラマを作れるかというとそうではないのがスタジオドラゴンの面白いところ。脚本家同士が競い合い、良い脚本のみがドラマ化する仕組みとなっていて、新人にもチャンスがある環境が整っているのだ。実際に、2022年Netflixでヒットした「二十五、二十一」という作品の脚本家は本作が2作品目となる新人だった。

そして、加えてスタジオドラゴンでは企画からキャスティング、撮影、宣伝、販売、管理まで社内で一括して行うため、作品全体の戦略と軸にブレが生じにくい。他社に対しても強気の交渉が可能となる。複数の会社が出資・役割を分担する、日本の「製作委員会方式」とは違う構造になっているのだ。
こうして、韓国では脚本家中心の一貫した作品作りが可能になり、それが良作を生み出すことに繋がっているのだ。

②莫大な制作費はこうして生まれる

韓国ドラマを見たことがある人なら、一度は『これいくらかけてるの?』という壮大な映像に驚いたことがあるはず。映像は映画のように綺麗だし、CGもふんだんに使って、海外ロケも当たり前の韓国ドラマ。一体、いくら資金をつぎ込んでるの?どこからその資金生まれるの?と気になる方も多いですよね。
近年の韓国ドラマの制作費は20億円を超えるのは当たり前で2023年には40億円を超える作品も出てきている。一話あたりに換算すると約1.5億円以上はかけており、日本ドラマの約2000万円の7倍以上もの資金をかけてドラマが作られている。

<韓国ドラマの制作費>
愛の不時着:約30億円
ヴィンツェンツオ:約20億円
ザ・グローリー:約30億円
星たちに聞いてみて(2024年公開予定):約40億円

この膨大な制作費の資金の源泉は大きく3つ、編成(約4割、国内での一次放映)、販売(約4割、OTTへの放映権販売・IPビジネス)、広告費(約2割、スポンサー・PPL)だ。
今回は、近年制作費を引き上げる大きな要因になっているIPビジネスPPLをご紹介したい。

IPビジネス
IPビジネスは最近話題のため聞いたことがある人もいるのではないではないだろうか。IPとは知的財産のことで、各国の動画配信サイトでの配信やTVでの放映の権利を販売するなど、韓国ドラマでは知的財産を使い収益を得るということで制作費を獲得している。このIPビジネスにいち早く乗り出したのがスタジオドラゴンだった。スタジオドラゴンは現在、NetflixやDisney+を初め多くのOTTへ版権販売を行っている。また、近年では、韓国ドラマはアジアだけでなく欧米にも人気が広がっているため、版権料が年々高くなっておりそれに伴い制作費も増えているのだ。

PPL
PPLとはProduct Placementの略のことで、映画やドラマなどで、役者が使う小道具として実在の商品や商標を登場させる間接広告のことを言う。韓国ドラマを見ていて、やたらと同じ商品が出てくるなと気づいている方もいるかもしれない。その商品こそがPPL商品である。作品の規模にもよるが、PPLは1シーンにつき900万円以上と言われており、複数商品が登場することも多々ありそこで制作費を獲得しているのだ。
日本ではドラマの間にスポンサーのCMが流れる形式になっているが、この場合対象は国内市場のみとなりその程度の広告費しか得られない。一方でPPLの場合、ドラマ内に広告が入りそれが全世界配信されるため効果も絶大であり、かなりの広告費が稼げる仕組みとなっている。近年は韓国ドラマの全世界的な人気が拡大しており、グローバルでビジネスを展開する企業がこのPPLに注目しており、PPLの価格も必然的に高まってきているのだ。

PPLに頻繁に登場するSUBWAY

また、PPLを行いたい企業が増える中、最近ではK-POPアイドルに続くようにして、韓国の俳優がハイブランドのグローバルアンバサダー(世界的なブランドの顔)に就任することが増えている。理由は、韓国俳優の世界的影響力が高まっていること、そして俳優の出演作でのPPLの権利を獲得できるから。俳優が出演するドラマが全世界でヒットすれば広告閲覧数も急増するとなれば、ブランドからすると広告投資しない理由がないのだろう。

<ハイブランドのグローバルアンバサダーを務める俳優>
ソン・ヘギョ:FENDI、CHAUMET
ジョン・ホヨン:LOUIS VUITTON
シン・ミナ:GUCCI
イ・ミンホ:FENDI
ヒョン・ビン:ロロ・ピアーナ
パク・ボコム:CELINE

実際、グローバルアンバサダーを務める俳優は過去ヒット作に数多く出演する手堅い俳優が多い。
例えば、「ザ・グローリー」で主演を務めた女優ソン・ヘギョは過去出演したドラマの平均視聴率が30%を超えており、その作品選びの目利きもあってかブランドからの信頼も高く、かなり長くグローバルアンバサダーを務めている。(もちろん、その美貌が一番の理由だとは思うが)
そして、彼女が出演した作品には彼女がアンバサダーを務めるFENDI、CHAUMETの商品が多数登場している。「ザ・グローリー」でも同様FENDI、CHAUMETの商品が多数衣装として使われており、本作はNetflixで全世界配信され累計視聴時間は公開1カ月で4億時間を超えていることから、ブランドはかなりの広告効果を得ていると言える。

ソン・ヘギョ主演作「ザ・グロリー」に登場するFENDIの商品

③視聴者と共に成長する俳優たち

韓国ドラマに初めて触れた視聴者は「みんな演技上手!」と感じたことがあるだろう。俳優たちの演技力の源泉はどこにあるのか。まず、初めにあるのは育成方法の違いだろう。韓国には日本でいう宝塚のような俳優育成学校が多数存在し、俳優を目指す人は基本的にその専門学校を卒業している。

しかし、俳優の演技力が担保されているのには他にも理由がある。それが、ファンの存在、視聴者の声だ。韓国ではドラマ・映画の批評文化が定着しており、ドラマ放送に合わせ視聴者掲示板が設立され視聴者はそこで脚本、演出、俳優の演技など事細かく批評を行う。
韓国では「ファンだからこそ厳しい意見を言う」というファン文化が定着しており、俳優はいくら顔が売れていようが、下手な演技をすれば視聴者からの厳しい声に当てられ、次回作のオファーにも影響が及ぶ。そのため、俳優は自分に合う役を徹底的に考え作品を選ぶし、役への集中力も高い。かっこよければ・可愛ければそれでいいが通用しない環境に置かれているため、必然的に俳優の演技力が向上していくのだ。

韓国で最も使われているポータルサイトNAVER の「愛の不時着」掲示板

そして、ファンはドラマ批評だけでなく、ドラマに自らの資金を費やし広告や差し入れを行うなど応援も行っていく。最近では、ファンがファンダム広告(応援広告)や差し入れを行うのをサポートするアプリも登場している。アプリでは、マスター(ファンの中のファン)がクラウドファンディングのように応援のための資金集めをできる仕組みを提供しており、ファンはポイントや投げ銭を使ってマスターの応援をサポートできるのだ。
このように、韓国ではK-POPアイドル同様、俳優もファンと共に成長していく仕組みが整っている。

ファンダム広告(応援広告)をサポートするアプリ「IDOL CHAMP」
日本のファンからの差し入れにお礼を伝える俳優パク・ボゴム

スタジオドラゴンが描く未来、打倒Netflix

ここまで読んでいただき韓国ドラマ、とりわけスタジオドラゴンの凄さが強い理由を理解いただけたと思います。最後に、スタジオドラゴンが今後どのようなことを考えているのか、直近の動向から分析してみたいと思います。

Netflix卒業で独自OTTへ

前述した通り、スタジオドラゴンはNetflixと戦略的パートナーシップを結び、Netflixを通して全世界に多くのコンテンツを配信している。
この戦略的パートナーシップの裏には、スタジオドラゴンの綿密な戦略が隠されているのだ。

2020年、スタジオドラゴンの親会社であるCJ ENMは韓国大手ケーブルテレビ局JSSL(旧JTBC)と共に独自OTT『TVING』を立ち上げている。
そして、2020年スタジオドラゴンがNetflixと結んだ戦略的パートナーシップの期間は3年。この3年という期間が肝で、スタジオドラゴンはNetflixを通じて全世界にファンを作ったのち、Netflixから引き上げ、独自OTTに視聴者を集める策略なのだ。
CJ ENM、SLLがタックを組んだOTTでは、彼らが制作するドラマ「愛の不時着」「梨泰院クラス」「夫婦の世界」「財閥家の末息子」「ザ・グローリー」などなど近年ヒットしたほぼ全てが見れるということになる。韓国ドラマファンからすれば、これさえ登録しておけばいいと思えるOTTになり、NetflixからTVINGに乗り換えるユーザーも一定数いるだろう。

早ければ今年には日本、台湾、米国に進出予定の『TVING』。日本では、LINEと提携しサービス展開を進めることを発表している。
LINEといえば、今年4月Yahoo!、Zホールディングスと合併する意向を発表したばかり。10月に新設されるという新会社LINEヤフーがPaypayを交えたキャンペーンで『TVING』をスタートさせたら・・・と考えると、もう登録しちゃいそうですよね。
今後、『TVING』がNetflix、Disney+2強のOTT業界に切り込みをかけていけるのか注目です。

IPビジネスは多角化の動き

IPビジネスの中でも近年注目を集めているのがストーリーIPだ。ストーリーIPとは、ドラマや映画などのストーリーコンテンツを主体とするIPで、著作権から保護された原本としての価値があり、さらに多様な形で活用、変形、修正、再加工できる。ジャンルやプラットフォームの壁を乗り越えられる拡張の可能性が無限にあるため、さらなる収益の拡大が見込まれるのだ。
現在、IPビジネスは海外での配信・放映権の販売が主流であるが、今後はストーリーIPを用いた各国でのリメイクや舞台化などで多角的に収益を得ていく動きが拡大していくことが考えられる。
スタジオドラゴンは昨年2022年に、米国と日本に制作スタジオを立ち上げており、日本ではエイベックスと戦略的パートナーシップを結び、人気ドラマ「ヴィンツェンツオ」の舞台化を行うことを発表している。まさに、ストーリーIPを活用した新たなビジネスとなっており、今後日本でも様々な形で韓国コンテンツに触れる機会が増えていくことが予想される。

日韓合作コンテンツの増加

先日6月9日からAmazon Primeで配信が開始された山P主演映画「SEE HEAR LOVE」をご存知だろうか。
この作品、主演は山下智久さん、新木優子さんと日本人なのだが監督は「私の頭の中の消しゴム」のイ・ジェハン監督、原作は韓国ウェブ漫画「見えなくても聞こえなくても愛してる」となっていて、日韓合作のコンテンツとなっている。

日韓合作映画「SEE HEAR LOVE」

実は、このような日韓合作のコンテンツが近年増えているのだ。
昨年カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した「ベイビーブローカー」も是枝監督と韓国俳優陣がタッグを組んだ作品となっていて、昨年末話題となったDisney+オリジナルシリーズ「コネクト」も三池監督と韓国俳優陣がタッグを組んだ作品となっている。
これらの作品は双方スタジオドラゴンが出資し制作した作品となっており、日本のコンテンツ市場を開拓する先駆けとしての取り組みと言えるだろう。
スタジオドラゴンは昨年日本に制作スタジオを設立していることから、今後さらにこの日韓合作での作品が増えていくことが予想される。
そうなると、日本TV局は韓国制作会社と真っ向勝負していかなくてはいけなくなり、今まで以上に厳しい環境に置かれることになりそうだ。

AI活用による多言語吹替・字幕自動生成でコンテンツのボーダーレス化が促進

最後に技術の進化が韓国ドラマに与える影響を見ていきたい。
つい先日、YoutubeがAIによる「自動翻訳吹き替え」機能の搭載を発表した。これにより、他国のコンテンツを自身の言語で簡単に視聴可能となり、今まで以上にコンテンツのボーダーレス化が進んでいくことが予想される。

現在の自動翻訳吹き替えでは数パターンの声質での音声生成になっているが、既に話者の声質に合わせた吹き替え生成技術も生まれてきている。
もちろん、ドラマ・映画などのコンテンツでは、シーンや登場人物の感情に合わせた抑揚、スピードでの吹き替えが必要になるのでさらに技術的な難しさはあるものの、昨今のAI進化のスピードを見ているとドラマ・映画での吹き替えの自動生成が可能になるのも時間の問題であると言える。

現在、韓国ドラマの吹き替えは声優が行っているため人気作のみに限られているが、俳優の声質をそのままに吹き替えを自動生成することが可能になると、すべての作品を多言語吹き替え付きで配信可能となる。
韓国ドラマはこういった技術を活用することで、今後さらに各国での視聴者を拡大することができるだろう。


以上が私が韓国ドラマにハマった勢いで調べた韓国ドラマ制作会社・スタジオドラゴンのビジネス分析になります。
最後までお読み頂きありがとうございました!

スタジオドラゴンを紐解くことで、韓国ドラマの成功の理由や今後コンテンツ業界で予測されることを理解いただけたでしょうか?
ぜひ、今後韓国ドラマを見る際に制作にも着目してみてください。
また、韓国ドラマを見たいことがない方はぜひ一度スタジオドラゴンの作品を見てみて、韓国ドラマの凄さを実感していただきたいです!


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