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【医療マガジン】エピソード7 蒼と百田のランデブー(1/4)

多忙な百田寿郎にとって、月に一度のオフがやってきた。昼過ぎに娘の蒼と合流して、いつも通り、ゆっくりめのランチを共にすることになっていた。厳しかった残暑もようやく潮時となり、これから、百田と蒼の季節になっていく。ふたりともに、さそり座。チームサソリを結成し、百田の離婚後は、一緒に誕生会をやっている。
 
蒼が幼かったころ何度も連れていった調布の深大寺で蕎麦を食べ、同じく調布飛行場に立ち寄るのが今日のプランである。東京都内でも屈指の歴史を持つ古刹・深大寺は蕎麦が名物で、参道付近には蕎麦屋がズラリと軒を連ねている。
 
天ぷらに、アユの塩焼き、笹かまぼこに卵焼き。愛娘の蒼とおしゃべりをしながら昼飲みをする百田の表情は緩みっぱなし。何よりの幸せなひとときだ。昔のように蒼がお酌をしてくれたら、百田はもう宇宙の果てまで飛んでいってしまうほどに舞い上がり、別れ際には上機嫌でお小遣いを手渡すのだった。
 
蒼が生まれた時、百田はどうしても仕事を休むことが叶わず、九州に出張中であった。そのことをずっと悔やんでいた百田だが、それから8年後、こんどは家族と離れて実家で暮らすことになる。別居中も、百田は小学校、学童保育、学習塾へとマメに足を運んだ。小学校が休みに入ると、勉強も見てやった。妻には悟られぬよう、念入りに計画を立てて。とにかく蒼のことが可愛くて、もちろん気がかりで、顔を見ずにはいられなかったのだ。
 
結局、丸一年をかけて調停離婚が成立。さいごまで蒼の親権にこだわった百田であったが叶わなかった。晴れて離婚が成立した後はじめて蒼と会った時、彼女に「離婚が成立してよかったね!戸籍がどう変わったって、パパはパパだもんネ。乾杯しよッ!」と言われ、百田はその夜、ひと晩じゅう涙ながらに酒をあおったものだった。そして今もこれからも、医者になるという蒼の目標実現に向け、全身全霊の支援を厭わない。
 
成績に関わらず、医者になるのであれば大学はどこでもいい。偏差値が全国最低の医科大学で構わない。もちろん、蒼が東大や慶応の医学部を望むのであれば、当然それはそれで全面的に応援はするが。医者として生きていくために重要なのは、むしろ大学卒業後の医局選びだ。
 
これが百田の持論であったが、現時点で蒼もその考えに同意している。そんな基本方針のもと、ふたりは、「川崎医大、埼玉医大、北里大学、聖マリアンナ医大、獨協医大」をターゲットに定めて情報収集に励んでいる。高校受験もまだなのに早すぎではと思われる向きもあるだろうが、「そなえるのに早すぎるということはないんだよ」と、百田は常日頃、蒼に伝えていた。蒼も百田のことばを信じていた。
 
「Victory, Success and Happiness love preparation !」 は、チームサソリの戒めのひとつだ。
 
ちなみに、高校受験は公立でも私立でも大差はない。どちらでも構わない。そんな父親の言葉も含めて考えた結果、蒼は公立を受験することを決めていた。父娘にとっては、高校受験よりも、その先の医学部合格のための予備校をどこにするかが、すでに最大の検討事項になっていた。百田の夢は医者になった蒼と協働すること。蒼もそれに合意してくれている。まさしく異床同夢。共通の目標を持つ父娘は、最強のパートナーであった。
(To be continued.)

【参考図書】
Amazon.co.jp: 目指すは!“かかりつけ医”より“かかりた医”でしょ!: 患者も医者も知っておきたい20の“常識” : 山崎宏: 本

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