見出し画像

手の温もり

先日、叔父の葬儀に参列した時の話

人は肉体の死を迎えると体温がなくなり冷たくなる
そして身体は硬直し全身の色が変わる

セレモニーホールで行われる葬儀
段取り通りに進んでいく

ご焼香が終わり、皆棺の前に集まり棺の中に花を添えて行く

そんな中、亡くなった叔父の妻である叔母の姿が見当たらない

なんとなく棺の部屋の外に行くとそこに窓の外を眺める叔母の姿があった

どうしたの?と声をかけると叔父の亡骸の姿を見ることができないと言う
叔母が座っている横に腰を下ろし泣いている叔母の背中を擦りながら寄り添う

この叔母と叔父はここ数年とても仲が悪かった
ほんとに熟年離婚を通り越して老年離婚してしまうんではないかと周囲が気にかけるほどだった

60年以上寄り添い歩いてきた夫婦でも何が起こるかわからないなとその息子達が心配していた

それでも叔父が亡くなるとやはりどんな状態でも悲しいというかそんな感情を通り越して長い年月の中で築いてきた歴史に思いを馳せ、愛が巡るのであろう

そっと手を差し伸べると細く皺が多くなった叔母の手が私の手を強く優しく握る

そしてまた外を眺めながら泣いている
その背中をさすることしかできない私
叔母の両手は私の手を握っている
そこには温かい血の通った手の温もりが感じられる
叔母はもう叔父の手の温もりを感じることは出来ない

そんな事を考えていたら私も涙が出てきた
しかし私がここで泣く訳にはいかない
涙を叔母に見せないように窓とは反対方向に顔を向ける

人にはその人と関わった多くの人との歴史ができる
その中でも夫婦は自分の親よりも長い時間を共にする

そこにあるのは愛なのか情なのかは私にはわからない
しかしとても他人には計り知れない多くの歴史があるのだろう

そんな事を考えさせられたとても良い葬儀であった

1人で死を迎えることをなんとも思っていなかったが少しだけ誰かにこんな風に見送られたら嬉しいなって感じた瞬間だった

生前とても私のことを心配してくれ、勇気をくれた叔父と叔母に感謝
今日も最後まで読んでくれた貴方に感謝
「有難うございます」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?