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夕陽に告げる歌

失くした色を取り戻しに
地球の向こう側で新しい旅を始めたのになぜ
残っている色をふりしぼって
イグアスの滝に
虹をかけようとするのか
なぜまた夕陽になりに
ここに戻って来るのか太陽よ
風に頬を震わせながら
ぎしぎしと回っている地球よ
私は一匹の蟻として
地面を這いずり回っている

喜望峰の岩と風でできた丘で
葉書を赤い郵便ポストに放り込んだ
枯木灘で夕陽を見ている君に
届いただろうか
暗い目をした君よ
私の葉書を読んだら
折りたたんだ時刻表に
挟んでおいて欲しい
あしたからは
知らない世界を記憶することになるから

暗い目をした君よ
君が奪われたものは
最も君らしいものだ
悲しいという言葉は
最も悲しみから遠い
あるいは
こう言えばいいのかも知れない
私たちの世界を
明るさで隠すことはできない


暗い目をした君よ
私はこれまで生きてきたことで
少しは変わることができただろうか
感じたことの全てを
保存することができたなら
つまらない懺悔などいらない
ただちいさな更新を繰り返すだけ
黴のような虚妄を
根こそぎ引き剥がすことができたなら
けちくさい世界史などいらない
ただ私たちのいちにちを書くだけ

夕陽が帰ってきたら
夕陽に向かって言え
虹の色はきのうより美しくなったかと
美しい空に向かって言え
私は私を始めると

 (詩集『月のピラミッド』中の「再生のための十篇」より)




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