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なぜWebtoon原作デビュー作で「異世界ものの皮を被ったヒューマンドラマ」を作ろうと思ったのか  〜愛する人を殺す時、私は何を思うだろう〜


自己紹介

ライター、広報(他バックオフィス系全て)、研修トレーナー、チームのマネージャーなど幅広い業務に携わってきた経験から、2022年に「和泉杏咲」の名前で商業デビューさせていただきました。

ペルソナマーケティングをよく駆使して仕事してます。

Webtoon原作デビュー作 「愛する人を殺す時、私は何を思うだろう」 とは

2022年8月〜2023年4月まで、LINEマンガにて連載した女性向け異世界Webtoonです。

サムネイル紹介

1枚目のサムネイル
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あらすじ

14歳の誕生パーティーの夜、すべてが始まった。
鎧の男率いる帝国軍に襲撃され、国民たちが次々と殺されてしまう。
そして、この世で最も愛する母もまた、目の前で「鎧の男」によって命を奪われたのだ。

たった1人生き残ってしまったエリカは、母や友を奪った「鎧の男」を殺すことを決意する。
そんなエリカの心の拠り所は、偶然出会い仲良くなった少年・ラウールと過ごす時。
少しずつ惹かれていく2人だが、ラウールの正体こそがエリカの仇「鎧の男」だった……。このお話は、そんなエリカとラウールが苦しみと向き合いながら共に成長し、結ばれるまでの物語。(全45話)

どこで読める?

現在以下のサイトにて読むことができます。時々キャンペーンで35話くらいまで無料になることもあります。

LINEマンガ

めちゃコミック

コミックシーモア

comico

ピッコマ

Amebaマンガ

BookLive

海外版もあります

中国、英語、フランス語にも翻訳されています。

我与爱人共沉沦 (日本語訳:私は恋人と一緒に沈みます)

To Kill My One and Only Solace(日本語訳:私の唯一の慰めを殺すために)

Me venger de l'homme que j'aime(日本語訳:愛する男に復讐する)

LINEマンガのみで読める裏話について

「作者コメント」をご依頼された時に「何を書いていいか分からない」と本気で悩んだ結果、
「シナリオにはあったけれどWebtoon原稿になった過程で削ぎ落とした部分を裏話として見せよう」
と考え、LINEでしか見られない作中のエピソードを色々載せさせていただきました。裏話を読まないとストーリーが繋がらないというものではないのですが、あった方が伏線の意味は分かりやすくなってしるかもしれません。

Xで更新している「#愛する人裏話」について

連載時に「とにかく顔がいい」と人気だった「シャルル」という登場人物がおりまして。連載が50話以上続く場合は彼についてもう少し深掘りしたかったのですが、それは残念ながら諸々の都合で深掘りエピソードをお見せすることができなかったので、「シャルル」というキャラ視点での原作者が書く二次創作を「#愛する人裏話」という形でちまちま勝手に載せてました。怒られたら止めようと思ってましたが、特に怒られることもなかったので、もうしばらく続けようかなと笑

ちなみに⬇️こんなやつです。今度裏話をまとめた記事も作ろうと思います。怒られたら止めます笑

この記事をnoteに書こうと思った理由

実はLINEでの連載開始の後に「ORICON NEWS」のインタビューのご依頼を受けまして。文字でお戻しするものだったのですが……質問に対してものすごい長文でお戻しをしていたため、カットされた箇所が多く……。ライターさんにご迷惑をおかけして申し訳無かったなぁ……と思う反面「せっかくなので、どこかでこの内容を書けないかな……」と思っておりました。そんなこんなで、noteを整理して「で、何を書こう」と悩みまくってる私には非常に良いネタになっていただけそうでしたので、加筆修正してこちらに載せることに決めました。
当時インタビューしてくださったライターさん、改めてありがとうございました。

Q:ヒューマンドラマに「異世界の皮を被せた」理由とは?

ヒューマンドラマを書く方が自然だったバックグラウンド


そもそも私は、シナリオ学校に通い、ただひたすら「ヒューマンドラマ」の書き方を勉強し続けていた人間で、いつも「職業もの」「家族もの」ばかり課題で提出しているような人間でした。会社員としてライターをしていた時も、フィクションを書くことはありませんでした。

そんな人間がありがたいことに、異世界恋愛ジャンルを執筆させていただくご縁を頂戴することができまして……いろいろ頑張った結果、最終的には普段から意識していたヒューマンドラマの要素が非常に強くなってしまいました……が、おそらく最も正しいのかな、と今でも思っています。

ただ、そんな中で、「異世界ものだからできる、テーマの伝わりやすさ、届けやすさ」について、私なりに考えてみました。

Q:舞台を現代とするよりも、伝わりやすい・届きやすいこともあるのか?

某企業でトレーナーとして業務する際に参考になった自己啓発本


まず、私個人の体験ですが、「異世界=ファンタジー(ゲーム含む)」に置き換えたことでわかりやすくなったのが、社会人として生きるために必要な、あらゆるノウハウでした。

世の中にはたくさんの自己啓発本があり、私も社会人としてスキルアップを目指すために様々な種類のものを読み漁ってはいたのですが、仕事で疲れた頭にすんなり入るものを見つけることは、難しかった気がします。

単に仕事で文字を読み過ぎていたので、脳が文字を拒否していたのかもしれませんが……(笑)
 
そんな中、偶然出会ったのが、仕事のノウハウをRPG(ロールプレイングゲーム)に置き換えることを推奨する本でした。


元々RPGは子供の頃に夢中になって遊んでいたため、子供の頃に染みついたRPGのルールは何も読まなくてもすんなりと言える状態でした。
まさに慣れ親しんだRPGのルールと、現実のスキルアップの方法、辛い時の考え方をミックスさせることで
 
「ああ、この出来事はRPGで例えると、これだな」
 
と、すんなり自分の中で納得し、乗り越える工夫ができるようになったのには、私自身本当に驚きました。

ちなみに人生初のRPGはこれでした。おかげで2023年は激アツな年となったのは言うまでもなく。

RPGの概念を使った研修を作った結果


後に、私はトレーナーとして同じ部署の方達のための研修を作る業務にも携わったのですが、自分のこの「RPGに例えたらあっという間に仕事のスキルが身についた」体験を思い出し、RPG要素を自分なりにアレンジして社内研修に取り入れてみました。すると
 
「面白くて、すんなりノウハウが頭に入った」
 
という声を多くいただきました。
その中には、成績を伸ばし表彰された方もいらっしゃいました。
 
このように、「ファンタジー世界」を利用することで、ファンタジーの世界に親しみを感じている受け手にとって、全く同じことを説明しているにも関わらず、受け取りやすさがぐんっと変わるのだということを、学ぶ立場とトレーナーの立場の両方で経験させていただきました。

異世界もの×仕事ものはそもそも相性が良い、という仮説も…?

また別の視点からも……。
現在、刊行されている異世界ものと呼ばれる作品の中には「何らかのノウハウ」を楽しみながら自然と身に着けられる作品もたくさん出ており、中には大ヒットした作品も多いと思います。
私も異世界の物語から、知らなかった知識を身につけた経験は数えきれない程あります。

すぐに思いつく有名作品はこのあたりでしょうか

このように「異世界=ファンタジー」の概念を利用したことで、何らかの情報を受け取るべき人が、受け取りやすくなるという事例が数多くあることから考えても、異世界を使うことによる「届きやすさ」「伝わりやすさ」というのはあると考えてます。

「異世界」「現代」というジャンルの先にある作家の熱意について

私に限った話ではなく、作者さん一人ひとりには書く動機が存在し、その動機のために日々試行錯誤していることと思います。

異世界を使うか、現代にするかもまた、作者さんが書きたいもの、伝えたいものによって取捨選択が変わると思いますので、一概に「異世界だから」「現代だから」というのを語るのも難しい気もしています。それこそ、実は現代でやった方が届きやすいというテーマも、きっとあるでしょう。
 
ただ、そう言ったとしても、最終的には「伝わりやすさ、届きやすさ」は、そもそもスタートに「作者さんがこの方法で届けたいんだ!」という熱い想いがなければ始まらないので、異世界のストーリーを描くか否かは、この熱い想いに左右されると思いますし、その結果、異世界が好きな人に届くという好循環が生まれるのだとも、私は思うのです。
 
なので、

「異世界が好きな人が書き、異世界が好きな人に届く」
「現代ものが好きな人が書き、現代ものが好きな人に届く」

というごくシンプルな流れが、作者さんも読者さんも幸せになる1番の方法なのかなと思ったりもしています。

創作をする人も受け取る人も、みんなそれらを通じて「幸福」だと思えることこそが、実は1番尊いことな気はします。

Q:異世界を舞台とした作品の人気はマンガアプリ読者特有のものか?

成長過程で触れる「コンテンツ」の影響で異世界ものを読むハードルはそもそも下がっている説


元々私たちは生まれてから育っていく過程で「おとぎ話」「児童文学」というファンタジーの世界観に触れる機会が多いように思います。さらに物心ついたころに加わるのがアニメやゲーム、最近だとYouTubeコンテンツですかね。
私たちは、幼少期に親しんだものを基準に、取捨選択をするケースが多いかと思います。少なくとも私は、子供の頃の記憶……児童文学やおとぎ話、漫画で得た知識や感動は全て、現在の私が持つ価値観……例えば物事の選択基準に、大きな影響を与えてくれています。
 
そう考えた時、子供の頃から触れてきた世界観を具現化した、現在の「異世界ジャンル」にもハマる方がたくさんいても、私は何ら不思議ではないと思います。
Sだからこそ、「同じものを読んで育ち、同じ要素が好きになった人が書く作品だから、同じように好きになる」というコンテンツを通じてつながった縁があるとも、私は考えています。互いに顔や名前を知らなくても、「好き」で繋がれるというのは、本当にとても素敵なことだなと改めて思います。

そもそもの「接触回数」を手軽に増やしやすいから説


「マンガアプリ読者特有かどうか」について問われると、これは専門的に学んできた訳ではないので、これも仮説レベルでしかないのですが……。
 
読者候補が情報に接触する回数や、そもそもの接触のしやすさというのも、少しあるのではないかなと思ったことはあります。

例えば、SNS上で異世界マンガの広告も拝見するので、私個人はこの広告経由でコンテンツのタイトルを知る機会も多かったなと記憶しています。
 
ただ、WEB小説投稿経由で書籍化した異世界作品がアニメ化され、話題になるというルートの方が、日本でよく見かける印象ではあるので、「マンガアプリ」というよりは「スマホ」と、大きな括りで考えた方が良いのかなとも思いました。

そうすることで、異世界を舞台にしたゲームや異世界をモチーフにした映画やアニメを見られるサブスクサービスも含めることができますし。
 
「より手軽に没入したい」
「現実に近いより空想の世界に入りたい」

だからマンガアプリでは異世界が流行するのかという話もあるとは思いますが、視点を変えると

「スマホを使い、コンテンツを視聴者、読者に楽しんでいただく」

という一見単純なルートの中にはUIやUX、マーケティングなど、企業が誇るブレイン集団の知恵が存分に入っており、その結果

「没入しやすい」
「空想の世界に入りやすい」

と顧客に思わせる仕掛けが、知らない間に私たちに作用している……というのも、私はあると思います。

子供の頃に培った「スキ」が何より重要

 
ただ、どんなに企業側が頑張ったとしても、潜在的に

「ファンタジーに慣れている」
「ファンタジーの世界が好き」

という欲や心の準備ができていない場合は成立しないとも思います。
やはり、子供の頃から接してきたコンテンツが現在に至るまでの好みに大きく影響するからこそ、異世界のコンテンツは比較的盛り上がりやすいのではないかと考えています。

Q:「異世界恋愛」を描く楽しさやこだわれる場所は?

現代物では決して演出できない美しい場面を創造できる

「異世界恋愛」を描く楽しさで言えば、「現代恋愛」では決して描けないような恋愛イベントを色々編み出せることではないかなと思います。

例えば、現代恋愛では「馬」を使った恋愛イベントは結構特殊だと思いますが、異世界であれば「馬」が引き起こすアクシデントからのドキドキシチュエーションを、違和感なく創造することができるのは面白いかなと思います。

また、現代恋愛ではスマホはあって当然の概念ですが、異世界ではスマホの存在すら作家の手に委ねられます。

スマホを使わず、遠距離にいる恋人とどう連絡を取るかも含めて、創造の幅がぐんっと広がる面白さがあると思います。

他には、「現代では着せられない衣装」「現代では見られない幻想的な景色」も作者の裁量によって自由に作っていける楽しさもあると思います。

潜在的に持っている「これが見たい」「こうなりたい!」を個性豊かに書けるフィールドがある

「異世界」を取り扱う作品そのものにフォーカスを当てた時、私たちが潜在的に持っている欲求にダイレクトに刺さるものが多いなと、私自身は考えております。

異世界転移であれば、「自分を評価してくれる人や場所が欲しい」という、承認欲求、所属欲求、自己実現欲求をとても分かりやすく満たしてくれる作品が多いと思います。

異世界転生であれば「今の自分だったらあんなことしないのに」という、後悔との向き合い方でしょうか。

大好きな世界観で、自分が持っている欲望、苦しみを、異世界を通じて昇華していけるというのが、コンテンツが存在する意義ではないかと、私自身常々思っております。

そう考えると、この異世界というジャンルに救われた人たちが、コミュニティを形成し、より異世界ジャンルを活性化させていくことそのものにも、やはり意味はあると思います。そうすることで、また救われる人も増えるのではないでしょうか。

人気のテーマと向き合うからこその難しさとやりがい

「自分にしか書けないオリジナリティとはなにか?」と同時に「どういう作風であれば興味を持っていただけるのか」の両輪を走らせないといけないのが、まず創作活動そのものの難しさだと思っています。

そして、人気のテーマであればある程、この精度を要求されると考えております。
 
異世界については「文化を作家自身で作れる」という特性上、どこまでもシンプルにも、複雑にもできるなと思っております。

世界観設定を分かりやすく伝えようとした結果、人間ドラマが疎かになってしまうこともあるため

「人間ドラマを魅せること」
「世界観をいかに分かりやすく伝えるか」

がどれだけバランス良くできるのかが、面白い異世界コンテンツを作る上で欠かせないテクニックの1つであり、難しさでもあるのかな、と最近特に思います。

復讐を扱うことは特に難しい

まず、復讐心が生まれる過程は「大切な●●を奪われた」という喪失体験からくるケースが中心だと思います。

他者かもしれませんし、物かもしれませんし、もしかすると自分自身の生活や心かもしれません。

すでに発表されている復讐をテーマにした作品も紐解くと、おそらくこの考えで作られているものが多いのではないかと思います。私が存じ上げる作品は大体当てはまっていました。

「喪失体験」と「人間として生きる」ことは決して切り離すことはできないものです。
つまり、誰もが「復讐心」を持つ可能性を秘めていますし、実際行動まで起こした方も、この世界にはいらっしゃるかもしれません。
 
「エンタメとして魅せる復讐」
「この復讐を表現する意味は何か」

それを異世界もので落とし込むというのは、非常に勇気もいりましたし、理性も求められるのではないかと考えることも多いです。
 
何かを発信するということは、意図していなかったとしても、誰かを傷つけてしまうということと表裏一体です。

それは何気ない普通の会話や行動でも生じることです。なので、完全に誰かを傷つけない表現……大きく言ってしまうと、生き方は、不可能です。
それは、個々が持つ歴史、価値観が人によって全く違うからです。

特に、「人間の闇」を扱う作品であればあるほど、誰かの心に刃として刺さってしまう確率は増えていくことでしょうし。
 
とはいえ、復讐をテーマにした作品は古くから作られ続けているので、やはりコンテンツの題材としては優れているものなのだな、と改めて思います。

まとめ

色々小難しく書いてみましたが、企業の人間として様々な経験を積んだ後で、「異世界もの」というジャンルに飛び込んだからこその考察を、徒然なるままに書かせていただきました。

結局は「この物語は誰の心を動かすことができるんだろう」という根幹部分を考え続け、届ける手段が「異世界」の方がやりやすい、届きやすいのであれば、「異世界」というジャンルを選び、そうでなければそれ以外のジャンルを選ぶという考えが、非常にしっくりはきています。

企業人の広報やライター、マネジメントなどを細々やりながら、割と一気に創作の世界に飛び込んだ、リアリストな私ではありますが、その観点で気づいたことがあれば、がっつり考えてみたいと思います。

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