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Webtoon原作者として「氷プリ」に賭けた挑戦のお話 「これを書いたよ」と、やっと堂々と言えるようになった事情と今後のビジョン

縁あって「Webtoonの原作者」を2022年頃から私はしている。
にも関わらず、実は周囲は誰もWebtoonを読まないという環境に生息していたりする。

横読み漫画でいえば、「鬼滅の刃」「進撃の巨人」「ワンピース」あたりは大体知っているけど、「君に届け」はギリ分かるか分からないか。
そんな方達がスマホで読む「Webtoon」の存在を知っているはずはなく……。

とはいえ、幼少期に読んだ児童書や遊んだゲームについては「わかるわかる〜」と盛り上がる。あとは「アンパンマン」や「ドラえもん」あたりはまるで通過儀礼と言っても過言ではないくらい、当たり前に通じる。

そんな環境に身を置いている私だが、これまでの社会人人生、どの会社の採用面接でも「作家目指して勉強中です、どや(`・ω・´)」と言ってしまい、それが理由で採用されてきたという経緯がある以上は、デビューが決まった時は、そりゃあたくさんの方々に報告させていただいた。

さて、問題はここから。
いざ自分のデビュー作を紹介しようと思っても、何度も躊躇してしまう。
理由は「好きな人は好きかもしれないが、大衆向けではない」から。
そのために、一応作品名と載っている場所は口頭では説明するものの、絶対に読んでほしいとは言えず
「こういうの好きそうな人に勧めてほしい」
がギリギリ。
ちなみにその時の作品はこちら。
好きな人は好き、の中に自分はもちろん入っているのは言うまでもなく。

WebtoonやWeb小説にはトレンドがあり、それがずれていると読んでもらえないのは、関係者の間では周知の事実。
そしてそのトレンドを好んでいる人間が、残念ながら私の周囲には存在しない。
これが、私にとって大きなジレンマだった。
夢だとずっと言っていた作家になれたのに、応援してくれた人たちが我慢をしなくては読めない作品になってしまったから。

そんな中、4月18日(木)よりピッコマにて、私が漫画原作を務めた作品が無事に公開された。

タイトルはキャッチーになるように流行に合わせた。「悪女」「舐める」はまさにWeb小説でもよく見かけるワードだ。
けれど、この作品は絵柄からも分かる通り、優しい物語にすることができた。

これは本当に偶然に偶然が重なったことだが、たまたまこの企画を立ち上げる直前、「異世界でのお店作り」をテーマにした作品がピッコマで人気があったことから、企画として立てることができた。その作品があのタイミングで公開されていなければ、この作品を生み出すことはできていなかったかもしれない。それほど、この企画自体異例のものだった可能性が、今思えば高い。

さて、そんなこの作品だが、一応「悪女転生もの」のフォーマットはしっかり踏襲させてもらった。
それは、現実世界を生きる主人公が突然異世界の悪女に転生し、悪女が残した負の遺産と向き合う、という流れである。

主人公の小雪が仕事の休憩中、うたた寝をしていると……


物語の悪女フリージアになり、大混乱の主人公小雪

本当にトレンド通りに作るのであれば、この後婚約者からの婚約破棄や家族からのイビリを冒頭に入れるべきだっただろう。
だが、この作品で私がやりたかったことは2つだった。

1つは、この悪女フリージアを殺す予定だった義弟セシルが、小雪が憑依したフリージアによって救済され、恋心を抱き、ひたすら義姉のために努力をし続ける、魅力的な少年を丁寧に描くこと。

物語の中では自分の母親を痛めつけていた悪女フリージアを殺してしまうセシル
ピンチに駆けつけたフリージア(小雪憑依版)によって救済され、恋に落ちるセシル

この辺りの話は、1〜4話の間で終わらせており、5話からは恋に落ちた(?)セシルが恋するフリージア(小雪憑依版)のために奮闘する物語を組み立てている。

そして、もう1つやりたかったことが、「とんでもない冤罪と立ち向かわなくてはいけない現実」にどう向き合うべきかというテーマと真剣に向き合うことだった。

悪女転生ものストーリーのパターンの1つとして「善人が悪女になった」場合がある。

心の自分は決してやっていないのに、体がやってしまっているので、冤罪を訴えることができないという、究極の状態こそが悪女転生である。

こう考えた時、物語だからとそのままここをスルーして無双ものを作ることも選択肢としてはあったものの、あえて私は「この理不尽さと向き合う主人公」を丁寧に描くことに決めた。

大きな鍵になる登場人物が「ルカ」という少年。
彼は6話で初めて登場する美青年なのだが、フリージアによって痛めつけられ、心に深い傷を負っている。
そんな彼に、自分の落ち度ではないことにも関わらず、加害者として謝罪をする場面を7〜8話に差し込んでいる。

これは、非常に理不尽極まりない状況だ。
犯罪の罪を押し付けられたあげく、逃げ道すら用意されていないわけだから。

もしこれが自分だったら?

そう考えただけでゾッとする。
下手をすると、心の自分は何も悪くないのに、体が犯した罪によって処刑されるということすら起きるわけだから。
まさに究極の冤罪である。

主人公の小雪は、もともと現実世界では1つの店を任されている店長という仕事を経験しているため、アルバイトが犯したミスのカバー……時には土下座をしに訪問するという仕事の経験自体はある。
だが、小雪がしてきた失敗のカバーは、例えばアルバイトの商品の入れ忘れや、お客様に失礼な態度を取ったなど、比較的よくあるケースばかりだった。
ところがフリージアがしたことは違う。
度重なる暴力と暴言によって、死ぬ寸前まで追い詰めたのだ。

これは、立派な脅迫罪と暴行罪だ。

その罪を、体ごと背負うことになったのだ。
逃げ場もない。
味方もほとんどいない。
そんな中で、立ち向かっていかなくてはいけない。
それこそが、主人公に与えられた試練だった。

さあ、もし悪女転生したのが自分だったら、どうすれば乗り越えられるのか?

私はこのテーマの、この話の中での結論に非常に迷った。
物語だからと、簡単に被害者が納得させることがもしかするとトレンドにはあっているのかもしれない。
だが、私にはそれはできなかった。
何故なら、確かにそれらは現実でも起こりうるから。

悪女は許されるべきか、許されないべきか

たった1点に絞り、最終的に私が出した結論を8話で主人公に言わせた。
この言葉を選ぶことは、非常に重い決断だった。
でも、この言葉しか選んではいけないと思った。
理由は冒頭に戻るが、この作品を本当の意味で勧められるものにしたいと思ったからだった。

人生の理不尽さに向き合うことは、時に重い覚悟が求められる。
それは準備している時ではない。突発的に、予測不可能な形でやってくることがほとんどではないだろうか。
私はそんな理不尽な状況に対して、芯を持って向き合う主人公を描くことで、理不尽さと向き合わなくてはいけない現実を抱えている読者に寄り添いたいと思った。
いや違う。

私も共に、理不尽さと戦いたいと思った。

そう考えたからこそ、私はあの言葉を選び、結果8話に掲載された。
賛否両論はあるかもしれないが、後悔はない。

こうして、2つの軸を持って生まれた「悪女は氷のプリンスくんを舐めつくす」という作品だが、絵柄の可愛さ、色彩と背景の美しさに恵まれ、私が文字上だけで考えていたものより、ずっと素晴らしいものになった。

最初は私の周囲の人に勧められる作品を作りたい。
胸を張って「この作品を世に出した」と言えるようにしたい。
そんな動機だった。
でも、そんな動機を叶えるだけでは勿体無いクオリティーに編集さんの力もあり仕上げてもらった。

どうすれば、この作品が届くだろうか。
もっと広まるだろうか。
理不尽と戦っている人々に寄り添えるだろうか。

考えた結果、「物語を知るきっかけ」のルートを増やすということを始めるべきではないかと思った。

今SNS社会であり、玉石混交とはいえ、情報をSNSを通じて拾える時代だ。
この作品をもっと多くの人に届けるには、SNSを駆使するしかない。

だから私は、始めたいと思う。
SNSという個人の力を結集できる場所の力を借りて、この作品を届けるべきところに届けることを。

#いま始めたいこと

ヘッダー画像:©︎和泉杏咲/SORAJIMA

追記
その1
2024年5月31日まで、公式Xアカウントにて新連載キャンペーンを行なっているので、よろしければぜひ。
線画担当の先生による、世界でたった1枚の色紙が手に入るチャンス!!

その2
昨日(4月22日)の夜に、仕事仲間でお子さんがいらっしゃる方とご飯を食べながら、「氷プリ」についても話をした。
この方にも、前作のことは話したものの、内容の残酷さもあり、積極的に

「これあなたに読んでほしい!」

ということができなかった。
でも今回はちゃんと自信を持って進めることもできたし、お子さんにも読ませられそうという太鼓判も頂いた。

まず、1つ叶った。
その時食べた大人のためのお子様ランチの味は一生忘れない。

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