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【雑記】はじめてのキャラクターデザイン

オリジナル対戦格闘ゲーム用に「中華系の暗殺者」という設定で、キャラクターデザインを描いてください』と言われたら、どんなキャラクターデザインを描きますか?

キャラクターは8人。
全員、「中華系の暗殺者」。
時代は、西洋文化が入り始めたばかりの頃の中国。

こんな感じの設定です。

20年以上前、私がゲーム業界に初めてデザイナーとして就職した時に、最初に割り当てられた仕事が、オリジナル対戦格闘ゲーム用のキャラクターデザインでした。

その時のキャラクターデザインの設定が、上記の「中華系の暗殺者」というものです。


憧れの正統派キャラクターデザイン

キャラクターデザインの仕事を割り当てられ、同期の新人デザイナー全員で分担して、8体分のキャラクターデザインを考えることになりました。

まだ、ほとんど何も設定が決まっていない状態なので、様々なデザイン案を出して、キャラクターイメージを探っていくという方針です。

この少ない設定から、皆さんなら、どういうキャラクターデザインを考えますか?

当時、まだ二十歳だった私が最初に考えた『中華系の暗殺者』の一人が、下記のキャラクターです。

(頑張って当時に考えたデザインを思い出して、ドット絵で描いてみました。)

まだ私が初々しい二十歳の頃のデザインなので、誰よりも『格好いいキャラクターを生み出したい』という思いが先走っています。

少年や青年キャラクターを描くのが得意だった私は、中国の哪吒太子を参考に、正統派の少年キャラクターとしてデザインしました。

世間知らずの当時の私の中では、なかなかの自信作です。

しかし…!

このデザインを当時の会社の社長に見せたところ、
「う~ん、太らせてみたら、面白いんじゃない?」
という衝撃の一言が返ってきました。

え??? …はい?
太らせる?

せっかくこんなにいい感じにデザインできた少年キャラクターを、『太らせる』って、どういうこと???

未経験の新人デザイナーだった私にとって、社長の一言は絶対です。

同期のデザイナーからも、少年キャラクターに対して、
「太らせるなら、後頭部は刈り上げがいいかも」
「クイズ王西村みたいしたら、ええんちゃう?」
「汗かかせて、フーフー言わそう」

等と好き勝手な発言が飛び出します。

ああああ…。格好いい少年キャラクターの暗殺者の筈が…。

戸惑いながらも必死で平静を装い、少年キャラクターを頑張って太らせてみました。

デザインしたかった少年キャラクターは、こんなんじゃない…!!!!

もっと格好いい少年の暗殺者をデザインしたかったのに、なんだこれは…。どこが暗殺者やねん!

しかし無情にも社長からは、
「いいね!これでいいんじゃない?」
とOKが…。

8人の暗殺者のうち、『少年枠』のキャラクターデザインがこれで埋まってしまいました…。

このキャラクターは、一体誰が喜ぶんだ…。

そんな葛藤を抱えながらも、他のキャラクターデザインに取り掛かることになりました。


残りの暗殺者デザインは『7枠』

つ…次こそは、正統派の格好いいキャラクターをデザインしないと…。
太らせなくてもいい、格好いいキャラクターを生み出すんだ…!!

そんな想いを抱きながら、新たにキャラクターデザインを起こしました。


そして、なぜか私の中から生まれてきたキャラクターデザインは、お婆ちゃんの暗殺者です…。

そして、社長からは、
「いいね。これでいこう!」
と、お婆ちゃんのデザインにもOKが…。

何かがおかしい…。

正統派の格好いいキャラクターデザインを生み出したかったのに…!

何かが狂い始めている気がします…。


残りの暗殺者デザインは『6枠』

一刻も早く、格好いいキャラクターデザインを考えないと、他の同期のデザイナーに、先に正統派キャラクターをデザインされてしまいます。

このままでは、私のデザインしたキャラクターが、太った汗かきの男の子と、ギョロ目のお婆ちゃんというイロモノ暗殺者だけになってしまいます。

キャラクターデザイナーとして、一番人気になりそうな格好いいキャラクターを生み出したかったのに…!

気持ちが、どんどん焦ります。

他の同期のデザイナーが考えなさそうな、格好いいキャラクターデザインって、どんなのだろう?

まだ世に出ていない、画期的な格闘ゲームのキャラクターってどんなのだろう?

ストⅡにも、バーチャにも、ヴァンパイアシリーズにも、サムスピにもキンターズにも出てきていないようなキャラクター…。

「そうか!見えた!!!!」

全身を電流のようなものが駆け巡り、キャラクターデザインがついに閃いたのです。

一気に描き上げたキャラクターデザインを、すぐに社長に見せに行きました。


口にはオシャブリ。首にはヨダレかけ。
巨人の腕を移植手術された赤ちゃん暗殺者『 アサシン・ベイビー 』です。

中華系の髪型、暗殺者らしい腕の特徴、愛らしい赤ちゃんのフォルム、シンプルかつ特徴的な服装等、押さえるべきところを全部しっかり押さえた、完璧なキャラクターデザインです。

格闘ゲームのキャラクターの新しい扉を開けるのは、赤ちゃんしかない…!

このキャラクターデザインを見た社長は、
しばしの沈黙のあと、
『苦笑』
だけで、終わりました。

そ…、そんな…。

デザイナーとしての、ぶれないコンセプト

当時は、このデザイン以外にも、中華系の暗殺者用に、たくさんのイロモノ系のキャラクターデザインを考えました。当時どころか、その後何十年も、私は、イロモノ系のキャラクターのデザインばかりをたくさん描いている気もします。

最初のキャラクターデザイン経験が、その後のデザイナーとしての方向性を決定付けるのかもしれませんね。

イロモノ系のキャラクターデザインの『楽しさ』を知ってしまったわけなので。

私は、ゲーム業界一年目に『羅媚斗』という対戦格闘ゲームの開発に参加したのですが、その時に担当したキャラクター『リトル・エディ』も完全なイロモノ系のキャラクターです。

『リトル・エディ』の動画を、先日、部下のデザイナーに見せてみたら、
「森田さんのコンセプトが、この頃から、ぶれてないのにびっくりしました!」
と言われてしまいました。
(「森田さんのコンセプト」って、なんでしょうか。全く意味がわかりませんね。)

ちなみに今回の中華系の暗殺者とは、この『羅媚斗』のキャラクターデザインの設定です。


大海原を泳いでデザインする

今回のように、設定がほとんど決まっていない中でキャラクターデザインをすると、デザイナーの力量や個性がハッキリ出るので面白いです。

デザイナーとしてのコンセプトも見えてきます。

経験や脳内ライブラリがあまり無いデザイナーだと、決まっていないことが多い中でのデザインは、大海原を目的地を見出せないまま泳いでいる感覚になります。

そして溺れます。

最近は時代の流れか、溺れることを恐れて、積極的に泳ごうとしないデザイナーも増えてきているようですが、デザインできるチャンスって貴重なので、溺れることを恐れず、チャンスが訪れたら、果敢にチャレンジしてもらいたいものです。


結局、8体分のキャラクターデザインはどうなったのか?

当時の話に戻りますが、暗殺者のキャラクターデザイン案は、同期の新人デザイナー全員で手分けして作成し、忌憚の無い意見を交わしながら、最終的に8体分のキャラクターデザインを全て無事に揃えることができました。

①主役ポジションの美少女、②青年、③そのライバル、④青年に恋するお姉さんキャラクター、⑤巨大な猿、⑥マッチョなオカマ、⑦太った少年、⑧お婆ちゃん、こんな8体分の暗殺者です。


…が、本格的に開発が始まったら、8体分のキャラクターデザイン全てが、すぐに『全部ボツ』になりました。

少し遅れて合流してきた、デザイナーのリーダーが、未経験の新人だけでデザインしたキャラクターデザイン案を見て、
「全部、ダメですね」
と厳しい感想を述べたのが、きっかけです。

新人デザイナーの皆も、少し期間を空けて客観的にキャラクターデザインを振り返ってみると、
「キャラクターデザイン、全部やり直さないと、このままではマズイかも…」
という感想に変わっていました。

キャラクターデザインについて決定権を持っていた社長も、
「ぼくも現状のデザインが完璧だとは思ってないからね」
とのことでした。

深い設定も無いままに、未経験の新人デザイナーの起こすキャラクターデザインなんて、全ての面において『浅い』ので、まあ、そりゃ『全部ボツ』になりますよね。

そりゃ、そうです。

これで、また一からキャラクターデザインを考え直しです。

ゲーム開発は、スクラップアンドビルドの繰り返しですが、ゲームのキャラクターデザインも同じです。

ゲームのキャラクターデザインって、大変ですね…。


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