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相乗効果とバランス【 #ジョブ型雇用で変わること 】

ジョブ型か、メンバーシップ型か。


 近年、副業(複業)、雇用的自営業・フリーランス、そしてこのジョブ型雇用という話題がよく出ますが、基本的な趣旨は通じるものがあると思います。

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 私は新卒採用から始まるメンバーシップ型雇用を経験したことがありません。
 大学卒業後、資格浪人(フリーター)を1年、その後、大手資格予備校の講師、学校法人の専門学校の講師になりました。並行して、現税理士事務所・コンサルティング会社の役員(事業承継者)をしています。

 講師も、常勤(メンバーシップ型)と非常勤(ジョブ型)があり、私は約10年間、非常勤として働きました。いわば、今流行りの「副業」であり「フリーランス」的な「ジョブ型雇用」をしていました。ただ、この業界においてはこのジョブ型という制度は目新しいものではなく、昔から非常に相性の良い制度だったのだと思います。

 講師の仕事は、契約でしっかり定められ、定時等時間に縛られることなく、教壇に立てばいくら、原稿でいくら、功績・能力等で契約更新、会議等の出席も基本任意でした。


 そんな経験から、今回のCOMEMO企画に投稿してみます。


■ 職務型・専門職型・自営型

 ジョブ型雇用と一言で言っても、かなり幅が広いと思います。私のような専門職が一部の仕事だけ受けもつ雇用契約をするのも、契約社員も、欧米のような正社員の職務記述書に基づく働き方も、大きく括ればジョブ型雇用のように感じます。ジョブ型かメンバーシップかと2つを比較する視点であれば尚更ですね。

 太田肇教授の書、「超」働き方改革では、仕事を分ける「切り口」として、以下の3つを紹介しています。それぞれの型が働き方によって重複する部分もありますが、ジョブ型雇用の分類にも通じるので引用します。

 ⑴ 職務型
 ⑵ 専門職型
 ⑶ 自営型
 (Kindle の位置No.729~ 第1章3節より引用)
太田肇. 「超」働き方改革,ちくま新書(筑摩書房),2020年


⑴ 職務型

 例えば、次の記事にはジョブ型雇用を以下のように説明しています。

ジョブ型雇用の構造を押さえておこう。職務ごとに、使命、役割や具体的な仕事内容、必要な能力・経験などを明確にしたジョブディスクリプション(職務記述書)をつくる。それに照らし、最も適任と判断した人材を起用する。賃金は仕事の難易度や専門性に応じて決める。(記事より引用)

 このような形式は本書で「職務型」として紹介していました。今回のCOMEMO企画もまたこちらをターゲットにしていると思います。

 職務型の問題点は、雇用保障であるものの

職務主義のもとでは、社内でその職務が不要になったとき、職を失うことになるからである。 しかし職務主義と雇用保障が両立不可能なのかというと、必ずしもそうとはかぎらないようだ。 (同書 Kindle の位置No.746-748)

とし、ヨーロッパ等で職務主義と雇用保障を両立している事例を紹介しています。

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⑵ 専門職型

 専門職型というのは、我々のような法的に定められた専門職のみならず、IT人材や、各領域のスペシャリストを指します。

 例えば、デジタル人材について日立の事例を次のような記事があります。

日立が急ぐのが内なる改革だ。26日には職務を明確に規定し、達成度合いをみる「ジョブ型」の人事制度を21年4月から本格導入すると表明した。表向きの目的は、コロナ対策で始めた在宅勤務を定着させるというものだが、その裏に透けるのがデジタル人材獲得の思惑だ。-略-
「ジョブ型ならポジションさえあれば新卒でも高い給料で処遇できる」(中畑英信執行役専務)。人材獲得競争で最大の障害となっていた海外勢との報酬格差も縮められるとみている。(記事より引用)

 この領域であれば、全社員という総合的な仕組みの導入ではなく、力を入れたい領域にスポット的に人材投資をするという趣が強く、報酬が大きくなりそうです。

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⑶ 自営型

 そして自営型とは、太田教授もこれから増えていくだろうと指摘していますが、まとまった仕事を丸ごとうけもつフリーランス型で、工場やオフィスに縛られることなく、一社員だけど、一事業主のような雇用だと言います。

 昔から職人系や専門職、特殊な営業職(保険外交員等)などの業界では雇用的自営業(一部、自営的雇用とも言う)の契約はありました。

 ただ、この自営型が専門職など従来の業界だけでなくIT業界、そして例えば、新たに大手の総合職のような分野にも広がりそうだという話です。

経済産業省 H31 労働市場の構造変化と課題資料より

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 昨年、タニタの働き方改革が話題になりました。これは正社員にあえて退社してもらい、業務委託契約を結び直し、個人事業主として仕事をするという内容でした。

 一見、外野から見れば、雇用保障の面などでどうなんだろうとも思いますが、押し付けではなく、企業と社員の思惑が合致しているのなら、この挑戦がどうなっていくのか興味深いです。そもそも大手にいるから安心というよりも能力を得ることで安心できるという発想が強まれば強まるほど、企業が挑戦させてくれる場を用意してくれることは、社員にとって理にかなっているように感じます。

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■ 「or」ではなく「&」

⑴ 組み合わさる相乗効果

 インターネットで「ジョブ型・メンバーシップ型」と検索すると、多くのサイトで双方のメリット・デメリットの比較が見られます。記事を読む限り、みな納得できるものなのですが、私は「or」の議論よりも「&」の議論の方がより適しているのではないかと考えます。海外がジョブ型主流だとしても、果たして日本で主流とするまで合うものなのか。

 それよりも、いかにして、組織内のメンバーシップ型とジョブ型雇用の人材がバランスよく連携し、良い反応を起こすかの方が現実的だと思います。

 私は、前にいた資格学校が今も大好きで、変わらぬ愛社精神があります。当時、ジョブ型でありながら、任意の会議も積極的に参加しましたし、自分が高められる仕事だけでなく、会社が困っている部分にもなるべく貢献したいと考えていました。なぜかといえば、メンバーシップで勤務している上司・同僚・後輩から、外にいるからこそ得られる知見や能力を求められていたからです。そして、逆に私も社内内部の情報を欲しました。お互いの関係性、役割が明確で、立場が違うからこそ大きな相乗効果があったと思います。

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⑵ バランス

 一方で、ジョブ型が優遇されすぎた結果、メンバーシップ型人材が枯渇、バランスを崩し業務内容(特に雑務)が少数のメンバーシップ型人材に集中した部署もありました。

 業務内容を合理化し、雑務を減らすべきだったのか。雑務をカバーする新たな人材を採用すべきだったのか。ジョブ型の職務領域を変えるべきだったのか。など、メンバーシップ型とジョブ型のバランスを維持するような仕組みづくりを現場任せではなく、組織として組み立てる必要があったのかもしれません。

 一度バランスを崩すと、立て直しに数年を要し、一部の社員さんが支えていました。

(そんな光景を見たからか、ドクターXの大門さんのような強烈なフリーランスが活躍するドラマは、つい内部の人達の苦労を想像してしまいます。。)

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⑶ 受け入れる準備

 先日、講師時代の教え子さんから、相談という名の愚痴LINEがきました。

勤めている税理士法人で困っている。元銀行員の方が「融資アドバイザー」のような肩書で中途採用になったのだが、職務内容や立場が優遇されすぎている。その方にはあまり仕事がなく、実際仕事をお願いしてもアレコレ言って機能しない。しかし代表がとても気に入っていて、代表に今後の方針を相談しても、改善する気配がなく、みんなの不満が爆発寸前だ。

 ありそうな話ですね。。働き方改革、社内改革として新しいコト、ヒトを導入する場合、以下のような点が重要になってくると思います。

⑴ ジョブ型雇用者に求める職務内容、能力を明確にし、「社内で共有」する(元〇〇だから、ではなく、実際に何をしてもらうのか)

⑵ ジョブ型雇用者採用後に社内体制・方針が変わる場合、その情報を「共有」する

⑶ 職務内容が限定されていても、一組織内の人間としての「コミュニケーション」を円滑にする

 上記は特にジョブ型に拘ったものではないですが、半分内・半分外のような立ち位置でも組織の1人である部分は変わらずにあるべきだと思います。

 実際、私も学校法人で講師をした初年度は、完全に「お客様」扱いでした。私は「一緒に頑張りましょう」の精神でしたが、相手は「来て下さった」という感じで。これじゃあコミュニケーションもぎこちない・・ということで、仕事をする目標は「同じ」であることを口でも行動でも発信し、内部の人間に入れていただきました(それでも、外部感はなかなか消えなかったですが)。

 「ジョブ型がきたぞーー!!」
 「私、失敗しないので」
 「私の仕事、これだけですから」


 実際には、職務記述書がそうであっても、コミュニケーションはこんなギスギスしていては、誰も得をしません。

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■ まとめ

 私自身は、特に専門職型のジョブ型雇用で、報酬面では優遇されていたと思います。勤務時間や会議等に定めがなく、活動すればしただけ報酬に反映されました。ただ、時給換算で言えば、低かったかもしれません。それはフリーランス的な働き方なので、授業の準備や原稿の執筆など、日夜費やしていました。その点について当然一切不満が無く、モチベーションを高く保ちながら働ける仕事内容、労働環境、そして社内の人々との時間に満たされていました。

 私のように地元に帰ることが分かっていて退職する可能性の高い人材であっても、シャカリキにやった分、スポット的に多少は生産性があったのでは、と手前味噌ながら思います。私自身は、その経験値が退職後も武器として活かせています。

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 企業を成長、維持していく中で、ジョブ型を導入する場合には、

⑴ どのような趣旨(型)で採用するのか。職務型で実力主義的システムを取り入れるのか。専門職を入れて、社内のレベルアップ、相乗効果を目指すのか。自営型の導入に挑戦するのか。
⑵ 企業風土を鑑みて、メンバーシップとジョブ型のバランスをどう考えるか。特に優遇されやすいジョブ型をどう配置するか。

 ただ人材を確保するのではなく、受け入れ態勢、組織の仕組み自体も総合的に取り組む結果次第で、化学反応が良い方向に出るか、悪い方向に出るか決まるかもしれません。

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■ おわりに(企画への回答)

 私はメンバーシップ型という方法も、前回のCOMEMOのテーマであった退職金制度も、時代に合わない、変えるべきだ・・とまでは思いません。

 メンバーシップ型にはメンバーシップ型で良い面もありますし、例えば「社員は家族だ」として共に育とうという社風も、企業、社員双方が満足していれば、大きな力になるはずです。特に中小企業では、正社員を時間かけて成長させたことで、離職率も極めて低く、コロナの逆境の中でも成長している会社さんを知っています。

#ジョブ型雇用で変わること

 大手だけじゃなく、たとえ数名の企業でも、どんな人材を採用するのかは同じ悩みです。オールマイティーか専門特化か。正社員か、契約か。このような選択肢の議論が活発化し、それぞれに適した雇用契約が生まれること、そして法律も整備されることが、会社にも社員個人にも良い「働き方改革」になるのかもしれません。

 メンバーシップ型に適した人材、ジョブ型雇用に適した人材、ジョブ型雇用の中でも職務型、専門職型、自営型。こう並べてみると、ワクワクします。やはりそれは私が、ジョブ型とメンバーシップ型が連携し、高め合う職場が好きだったからでしょう。

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 以前、COMEMO企画で正社員について書きました。

 意欲ある社員が6%

 この元気のない危機的状況は経済や教育等、複合的なものでしょうが、働く中で阻害される部分を強いでしょう。

 そこで、企業にも社員にも選択肢が増える。(トップ画像は、仕事にも多様な入口、出口があった方が面白いだろうという意図です。)
 この選択肢が、結局、派遣社員じゃないか、ブラック企業の新手法じゃないか、という未来にならなければいいなぁ、と思います。

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 今一度、COMEMO企画の募集内容を確認したところ、

なるべく論点を絞って主張を明確にして投稿してみてください。

 との記述。

 すみません😭削ってみても5000字を超えていました 笑。もし、ここまで読んでくださった方、お付き合い頂きありがとうございました。


#COMEMO #ジョブ型雇用で変わることは #ビジネス #推薦図書

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