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税負担率=節税率の指標?【 税・財務分析の話題 】

企業、ばらつく税負担 日立36%、ソニー4.5%

こんな見出しの記事がありました。

記事を読めば、「税負担率」の相違には様々な要因があるということが分かります。

ただ、最近は、ソフトバンクの節税策が話題になったこともあり、「税負担率が低い=何かグレーなことをやっているのでは?」という発想が生まれがち。

【 主な企業の税負担率:記事より引用 】

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引用した画像のように分かりやすく図表化されていることで、逆に、パッと見、誤解を生むかもしれません。

そこで、この点について少し解説と私見を書いておこうと思います。

(ちなみに石油の会社の税率は、産油国への高額な税金が生じる特殊な事情があるためで、国内への法人税の税負担率ではありません。)

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(参考:税負担率とは)

▼税負担率と実効税率 税負担率は企業の利益に対する税支払いの比率。会計上の税負担を示す。法人税の法定実効税率とは異なる概念。法定実効税率は企業の課税所得に対し国や地域が何パーセントの税金支払いを求めるかを定めたもの。法人税、法人住民税、法人事業税などを合計する。(記事より)


♦ 税負担率が相違する原因

■ 第一は当然、利益

① 赤字決算の場合

単純な話、赤字であれば、課税対象となる所得がありませんので、「税負担率0%」です

(※ 分かりやすくするため、法人税法上の調整が無いことを仮定、及び所得課税以外の税負担や税効果会計の有無については考慮せず説明しています。以下同じ。)

② 過年度赤字決算だった場合

次に、過去赤字で当期黒字の場合。当期は、黒字の利益からのみ課税対象の所得金額を計算するのではなく、過去の赤字のうち一定額を控除(充当・相殺のイメージ)することができます。現行制度上は10年間繰越可能で、充当しても残った赤字は翌期以降に繰り越されます(大法人などには控除限度額の制約あり)。

(詳細はコチラ:国税庁HP)

よって、過去赤字だった場合には、「当期の利益に対し税額が少ない=税負担率が低くなります」。

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■ 特別控除という制度の利用

経済活性化、景気調整、働き方改革等の政策の推進のため、法人税等の額を減額する特別控除制度があります。

例えば、国税庁HPを見れば、特別償却・控除という頁にズラ~っとあります。

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省エネ適合資産を購入稼働したら、環境に良い取り組みだから、法人税を減額しよう。

去年よりも給与支給額が増加したら、良い取り組みだから、法人税を減額しよう。

研究開発は、なかなか短期的に利益に繋がらなくても、国力・成長のために必要なので、そういった支出があれば、法人税を減額しよう。

全て、細かい要件や控除額の算定基準等がありますが、こういった制度の利用もまた「税負担率を減少させる」要因の1つです。

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■ 税=コスト、コスト削減への取り組み

単純な業績不振、特別控除の利用以外で、税負担率へ影響を与えるもの。それが、結局「節税対策」の差でしょう。

企業が活動する目的は、広く言えば社会貢献。雇用を生みだし、給与を支払う。良いもの、サービスを提供する。経済を活性化させる。そして、税を納める。

しかし、グローバル企業になればなるほど、他のグローバル企業との競争に勝つためには「税」のコストもまた抑えていかなくてはいけない。う~ん・・と思ってしまいますが。そこらへんは前にnoteで書いたのでリンクを貼って、割愛します。

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♦ 私見

今回は、「税負担率」だけでは、個々の企業の良し悪しは判断できないということを伝えたくて書きました。そのことは、記事でもしっかり書かれていますが、図表のインパクトがどうしても先入観で入ってしまうかな、と思ったためです。

もし、税負担率を「分析するのであれば」、その要因が大切。

赤字なら、そこはしょうがない。なぜ赤字だったのか、という事の分析。

特別控除をたくさん利用してそうなら、その取り組みがどういったものか。

組織再編成(合併とか分割とか)や子会社等の新設など、グループの動きが活発な場合には、どういった趣旨、方向性での再編なのか。税負担に影響をもたらすのか。

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ちなみに特別控除も「利用する会社=良い取り組みをしている会社」と言えるかどうかという点も実は深い論題ではないか?と思います。

特別控除制度そのものの是非、です。

特別控除制度の利用状況を示す「租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書(財務省)」という資料があります。

その資料のうち、試験研究費に関する特別控除の利用状況の箇所。

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研究開発投資を促す政策。非常に重要な政策だと思います。

ただ、この特別控除。大企業が用いる「総額型」という控除は、利用している控除額上位10社で、控除割合全体の3割を占めています。大学との共同研究等、要件がより厳しい「特別試験研究費」ともなれば、10社だけで全体の過半数を占めます。

そんな試験研究費が平成31年改正で、また拡充されます。

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そうすると、こんな議論が生まれます。

特定の企業ばかりがたくさんの恩恵を受ける特別控除は、中立性がないのではないか?こんなのは、特別控除ではなく、特定の大手企業への補助金と一緒だ!

いや、特定の企業に限定していない。要件を満たせばどの企業も利用できるし、そもそも研究開発を推進していくことは我が国の将来に必要不可欠。どんどん後押しすべきだ!

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租税回避のように、法律上、グレーか否かの問題だけでなく、「税」の分析となれば、様々な深い議論が待っています。

私も「税」の仕事をしていて、日常的に接する制度については思うことがありますが、先ほどの試験研究費の議論に関しては、まだまだ持論をもつまでに至りません。

単純に数値で比べるのではなく、多角的に分析することが、重要。そして、分析の結果も、見方、思考によって正解は様々だろうな、と思います。

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※ 一部内容に加筆しました。

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