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経済合理性を「通学路」で考察してみました【 税の話題・節税か脱税か 】


♦ はじめに

税務戦略という言葉。記事では、分かりやすく「節税か脱税か」としていますが、厳密には、節税と脱税の間に位置する「租税回避」の問題かと思います。

( 参考note  : 節税、租税回避、脱税の比較 )

これは、我々税理士の仕事にとって、非常にナイーブでありながら、極めて本質的なテーマです。

行おうとしている節税が一般的に正当なものか、不当なものか。

節税自体は正当な行為と位置付けられますが、自社のために「過度な節税」をすることは、租税回避に該当するかもしれない。社会貢献という立場から考えた場合、不当になるケースがあります。いわゆる、タックスイーターになり得ます。

正当か不当かの判断は、今回の記事では【意図】が重視されるとありますが、意図は極めて主観的

なかなか判断できません。

そこで、裁判で度々行われる検証が、経済合理性による判断です。経済合理性とは、簡単にいえば、その行動が「一般的に想定される行動」か。意図を含め、そもそも、その行動におかしな点はないか?という視点です。


♦ 経済合理性とは?(例えば「通学路」で考えてみる)


・・このままの調子で書くと、皆さんもしかめっ面で画面を覗き込むことになるので、少しブレイクしましょう!

こんな例示を考えました。

【 通学路の経済合理性 】

■ ケース1

通学路を決定するとき、基本的には、自宅から学校まで一番近い道を選ぶでしょう。

でも、路地だと防犯上心配・・だとか、逆に大通りは車が危険とか。街灯がある、なし。横断歩道の数など。

色々考えて、【正当な理由】に基づいて経済合理性のある道を選択します。

でも、例えば、「気になるあの子(A子さんとします)の家を通りたい」。そんな思いが働き、ちょっと迂回して、A子さんの自宅前を通るルートを通学路にしたら?

先生 「ん??なんで、わざわざちょっと遠回りするの?」

となりますよね。

まぁ、そこで素直に、

生徒「A子さんち、通りたいから」

と言ったら、・・先生が認めるか否かは分かりませんが、例えばこんな回答ならどうでしょう。

生徒「このルートは、防犯カメラがついているので」

本音は、ただA子さんの自宅前を通りたいだけ。でも、いろいろ試行錯誤したら、防犯カメラがあるというチャンスを見つけた!

おそらく先生は、そんな事を言われたら、特に詮索せず認めるでしょう。

同級生が「いや、お前に防犯カメラとか絶対必要ないじゃん!意図がバレバレだよ!」と言われたところで、決断をする先生は、おそらくその同級生に同調できないでしょう。

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租税回避の裁判もそんなケースが多いです。私たち一般人が裁判事例を直感的に読めば「これは絶対、税金逃れ行為だろう!」と思っても、客観的な判断ができなければ、それこそ法の濫用になりかねません

ですから、グローバル企業の税務戦略は、ストーリー仕立てで節税や租税回避を図ることがあります。税務の戦略家は、専門家であり、コンサルタントであり、脚本家でもあるイメージです。

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■ ケース2

さっきの通学路のケースも、例えば「防犯カメラ」が1つのキーポイントでしたが、その防犯カメラをつけた自治体が町内会だったとします。

一番偉い区長さんが、町内会で、防犯カメラの設置を提案し、町民が賛成した。実はその区長は、通学路事例の主人公のお父さんだったら?

普通に考えたら、

息子が気になる女の子の自宅前を通りたいと言っている。よし、じゃあ、理由をつけて、防犯カメラを設置しよう。そうすれば・・

こんなアシストなんて、まず考えられないですし、非現実的です。(・・そんな親がいたら、子供の成長が心配すぎます笑)

しかし、租税回避の例は、結局、経済合理性の理由を作るために、自社や自身だけでなく、周辺を巻き込むケースもあります。先程の通学路の親子のように、親子会社間とか、ペーパーカンパニーの子会社をつくることから始めるとか。通学路の件では「そんな面倒なことまで・・」と思いますが、実際数百億円とか数千億円の節税ともなれば、より大規模であったり、複雑なスキームが構築されます。

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このように書くと、税務戦略を練ること自体が「卑怯」に伝わるかもしれません。

ただ、日経の記事にあるようにグローバル企業で、「税=コストの感覚」が強い企業は、それが卑怯なこと、不当なことではなく、積極的な経費節減策という真っ当な行為という認識です。

即ち、税の捉え方、正義の捉え方そのものが違うのだと思います。脱税のような法律違反ではないですから、その考えを否定できない部分もあります。

だから、減ることがない。

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♦ まとめ

「税をコストと考える文化」は、正直にいえば、・・厄介だと思います。(コストと考えないほうが結果、不利になるので。)でも、経済合理性の観点から、少なからず節税は皆考えているはずなので、結局境界線は「?」です。

また、こういった「税=コストの感覚」の企業も、社会貢献に興味がないかというと、そうでもなく、SDGsに積極的であったり、企業理念に本気で社会貢献を謳っていたり。「社会貢献は税金だけではない」という認識も混在しているため、一筋縄ではいきません。

記事の最後の文章を引用します。

国家は本当に価値あるインフラを最小のコスト(税金)で提供できているのかどうかを自問する必要があるのではないでしょうか。全企業・全国民が節税を行っていけば、国庫に入る税収は低下し、政府自体もリストラを行う必要が出てきます。その結果、企業・国民が希望する水準のインフラの提供が困難になれば、企業・国民が納得する範囲内で増税すればよいでしょう。税制とは、国家・企業・国民が最適に機能できるよう、民間部門と国家(インフラ部門)の価値配分を規定する重要な政策なのです。(記事より)

結局、我々、納税者側も「節税と租税回避」の境界線を、個々の「正義」に照らして自問自答する必要がある。それは個人であり、一社会のメンバーでもありますので。

国も同じく、法律や政策で、バランスを保つ必要がある。特に、グローバル租税回避が増加し、富裕層の節税策も日々増加している昨今です。節税している人だって、お金稼ぎばかりではなく、「どうせ国に納めたって・・」という不信が源泉となるケースもあるでしょう。

「これがベストだ!」と言えるような簡単な問題ではありませんが、1つ確かなこと。

「社会的な声」が大切だと思います。こういったニュースを知り、税についての関心を高めていく。それが租税回避の監視にもつながるかな、なんて思います。


(参考note:タックス・イーター)

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