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税金が取れない世界


人工知能(AI)の発達は経済社会の様々な分野に計り知れない影響を及ぼすが、税の世界でも同様だ。税金が取れなくなるのである。

インパクトのあるタイトル、書きだしですが、現実、現在も「本来、課税されるべき取引が課税されていない=租税回避行為」が社会問題となっています。

本来課税されるべきとは何か?

例えば、記事にある「居住地」の問題。国々によって、税率も違えば、税の課税方法や種類も違います。有名な裁判で、日本の贈与税を免れるため、贈与税制度自体が存在しない国に住所を構え、複雑なスキームを組んで、国を跨いで迂回的な贈与を実行した例がありました。この事件は、現地国でも会社を構え仕事をし、日本での仕事も引き続き通いながら行っていました。わざわざ贈与税を免れるために、海外移住か・・と思う方もいるかもしれませんが、免れた贈与税額は「約1300億円」です。あくまで私の主観ですが、1300億円の税を免れるためなら、海外移住だろうが、日本への日々の往復旅費だろうが、些細なものかもしれません。庶民にはなかなかできない行動です。ちなみに、この裁判例は、以下の記事にあるように、納税者が勝訴しました。

須藤裁判長は補足意見で「海外経由で両親が子に財産を無税で移転したもので、著しい不公平感を免れない。国内にも住居があったとも見え、一般の法感情からは違和感もある」と、俊樹氏側の行為が税回避目的だったと判断しながらも、「厳格な法解釈が求められる以上、課税取り消しはやむを得ない」と述べた。

本来、課税されるべき取引とは、「通常、予定されている行動」が前提となっています。経済的合理性のある行動です。

しかし、この経済的合理性のある行動、通常想定される当たり前の行動も、お金があれば、大胆に変える事ができるのかもしれません。現在も既に格差社会ですが、ますます大格差社会は進めば、グローバル企業や富裕層による租税回避は増加するでしょう。

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今回紹介した記事にはこんなコメントもあります。

最後に、ポイント制や物々交換アプリなど、そもそも金銭価値で評価できない世界の拡大だ。「スイス人が米国人に1時間料理を教える代わりに、米国人がスイス人に英語を1時間教える」というマッチングサービスが世界で広がる。このビジネスモデルではスキルとスキルを交換するので、金銭価値が入り込む隙間がない。誰が、どうやって課税するのだろうか。

例えば、日本の所得税・法人税の概念は、現金の形をとった利得のみでなく、現物給付等の経済的利益も課税対象であり、その評価は「時価」となります。日本人が米国人に1時間料理を教えたら、それが事業なら、1時間料理を教えるだけの価値が課税対象になります。米国人以外に金銭を受領しているお客さんがいたり、料金表があればそれが時価の根拠となるでしょう。なければ、同業他者(社)と比較して、一般的な金額を算定するか。でも、その分、英語を教わったら、通常は役務提供は等価交換でしょうから、同じだけの費用が生じたことになります。この費用が、事業用の経費として計上できるか、家事用として経費にならないか。そんな問題も派生します。

と、長々と書きましたが、専門的に考察してみても、記事にあるように、「課税方法が大変複雑になるだろう」という事を伝えたかったのです。

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日本の税制の抜本的な改革は、今からちょうど70年前。戦後日本の税制の原型を作った「シャウプ勧告」と言われています(GHQの要請に基づいて結成された海外使節団による提言)。

その後、消費税の導入という大きな転機がありますが、それ以外では、根本的な仕組みが何十年も変わっていません。根本を維持しながら、経済や社会の変化に対応すべく、改正に改正を重ね、穴があればふさぎ、継ぎ接ぎされたものとなっています。

ちょうど、実務家の専門誌、税理士新聞第1631号(エヌピー通信社)にこんなコメントがありました。

シャウプ勧告が日本の税制に求めたのは「公平」や「簡素」だった。戦前の税制に不公平や複雑な部分が散見したためで、その是正に向けて様々な提言を行った。しかし勧告から70年がたち、その理想と現状との間で乖離が目立つようになっている。

日本の税の基本原則は「公平・中立・簡素」

租税回避をはじめとした不公平感をなんとかふさぐため、税制が複雑化する。公平と簡素はトレードオフの関係。

本来は税について、納税者が分からなければいけないはずです。税を知ろうとしなければ、社会や政治に、国民がますます興味をもたなくなる、・・そんな悪循環も怖いです。

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昨日、出生率低下の記事がありました。ますます税の位置づけが重要になりますね。

日本に限った話ではありません。以前、書いたデジタル法人課税だけでなく、今後、すぐ先の未来には、グローバルな税の根本的な改革が急務であろうと思います。

#COMEMO #NIKKEI


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