見出し画像

【ゲームレビュー】世界を救えなかった少女兵・主人公が復讐が復讐を呼ぶ因果応報に翻弄される哀しき思春期物語

ノーティドッグ社が開発、2020年6月にプレイステーション4で発売されたゲームソフト、「The Last Of Us」(プレイステーション3、2013年)の続編「The Last Of Us Part II」。ジャンルはサバイバルホラー。

心をえぐるシナリオと世界感の秀逸さで、同ジャンルのゲームソフト歴代ベストランキングにも大いに顔を出す前作から7年。全世界待望の新作がハードをPS4に変えて登場です。

総評:

どこかで別の方も言っていましたが、私も同意見です。本作は「人には決してお薦めできない、ゲーム好きなら必ずやっておくべきゲーム」ですね。矛盾してでもお薦めできないですし、ゲーム好きでやっていない方には必ずお薦めします。

人には決してお薦めできない理由は、少女兵と化した主人公の女の子(19歳)エリーがさまざな武器で、後ろから前から、時に命ごいをする人間、もし別の場所で会っていれば話し合えていれば、十分にわかりあえるかもしれない人間を撃ち殺し、切り殺し、殴り殺し……ゴア表現満載で生き抜く姿はあまりにもヤバイからです。そのヤバさが本作の魅力でもあり、テーマに真正面から向き合っている証拠なのですが、米ドラマ「ウォーキングデッド」の世界を地で行くのがよろしくないように、非常によろしくないストーリーが描かれています(汗)。

一方で、殺せばいつか殺される、復讐は復讐を呼び、奪えばいつか失う、でも生きるためには殺さなければならないし、殺さなければ殺される。人間性を失った感染者(ゾンビ)たちや、同じように生き抜こうとする人間たちが量産し続ける、アポカリプス的世界での「死のひとつ」にならないように生きることを運命(さだめ)られた少女。兵隊のように人を奪うことを生の一部とした主人公エリーの哀しさ、特別な存在(以下、ストーリーを要参照)としての重責、生きる意味、存在価値、思春期特有の悩みなどを、プレイヤーは追体験することになります(ができます)。

有名作品の続編として、(三部作となるのであれば二作目は、)悲劇や果たされぬ思いにあふれた物語になっていると思います。「こころをえぐられる」と有名になった一作目の続編として、矛盾をおそれずオススメします(し、しません)!

ストーリー:

原因不明の感染症が勃発。感染者は我を失って狂暴に人を襲うようになる。胞子で感染は拡大。感染が進むと人は、キノコのように菌糸が体中に広がり、浸食されて膨れ上がっていく。

前作の主人公ジョエルは愛娘を感染勃発の騒動で失った中年男性。闇仕事で、ある少女エリーを引き渡すことを引き受けたが、エリーは感染に免疫がある特別な子だった。はじめは距離のあったジョエルとエリーは、感染者や命を奪おうとする人間たちの中を相手の命を奪いながら生き抜き、米大陸を横断する旅に出る。

画像1

画像2

とうとうエリーの体を検査することで、世界を崩壊させた感染症へのワクチンを作るためにエリーを病院に引き渡すジョエル。しかしワクチンを作るためにはエリーの命と引き換えにする必要があることが判明。ジョエルが下した決断は、人類を救うためのワクチンを作ることよりも、エリーの命を救うために、病院の医師や仕事の依頼人たちを殺すことだった。エリーには、エリー以外にも免疫がある人間たちは多くいた、ワクチンは作れない、と嘘をつくが……。と、ここまでが前作『The Last Of Us』

今作はワイオミング州ジャクソンで始まる。ジョエル、エリー、トミー(ジョエルの弟)、ディーナ(エリーの女友達)、ジェシー(ディーナの元彼氏、エリーの男トモダチ、アジア系)は感染者と隣り合わせながらも、コミュニティで一見、幸せそうに暮らしていた。

画像4

画像3

そこにアビー(今作の二人目の主人公)らが仲間を連れて現れる。その目的は、ジョエルへの「復讐」だった。そしてある出来事をきっかけにして、エリーは旅に出る……。

画像5

テーマ:

タイトルにもあるように、復讐の連鎖、暴力は暴力を生み、殺せばいつか殺される。文明が崩壊した世界で、幼少期から仲間が人を殺し、仲間が殺される世界で生きてきたエリーは人を殺すことを稼業のように生きます。

感染者(要は、この世界のゾンビ)は死の象徴。理由も原因もよくわからないままに元は人だったゾンビは人を襲い、新しい死を生み出し続ける。その存在はただ不条理、死と同じです。

文明は崩壊して都市は自然に還ろうとしています。崩壊した都市はカオスのかたまりですが、一方で還ってきた自然は狂暴でもあり、また美しくもあります。

死は自然の一部でもあり、自分が生き抜くために誰かを不条理に殺し、殺されることの哀しさ、そして、思春期特有の自己中心性や性の悩み、アイデンティティを求める少女の心が中心テーマです。

画像6


オリジナリティ:

ゾンビものは映画にもゲームにも溢れています。戦闘能力の高い女の子が敵をやってつけていく(殺していく)ストーリーも今までに多くあります。本作のオリジナリティは、ゲームの世界のファンタジーとしてではなく、リアルに少女が少女兵として人(やゾンビ)を残酷に殺し続ける姿を、その凄惨なゴア表現から逃げることなく描いた点だと思います。また、LGBTについても、これほどメジャーなタイトルで向き合っている点はシリアスですね。以下の写真はここで掲載できそうな、ゴアさが最小限なものです(汗)。

画像7

グラフィック:

とにかく、崩壊して自然に還ろうとしている都市のアポカリプス(黙示録)的リアルさがすごいです。その構造やつながりのイマジネーションやディテールにはホントに脱帽です。人やゾンビ(や時に犬)の生き物の表現はリアルすぎるほどリアルです。人体欠損や臓器露出などのゴア表現は満載です(汗)。

画像8

音楽:

耳から離れないメロディーをちりばめるのではなく、場面の緊迫感やその恐怖、興奮などを高めるためのサウンドエフェクトに似た音楽や音が、全編でストーリーや戦闘を盛り上げます。サントラが売れるような音楽ではありませんが、聞いているだけでTlos2の世界に引き戻されるようなインパクトがあります。

画像11

ユーザーインターフェイス:

武器選択や持ち物確認などを呼び出すだけで、画面上に常時表示させるような画面は特にありません。シンプルでありつつ使いやすく、見やすいユーザーインターフェイスだと思います。


操作性:

こちらは悪いとは思いませんが、動きが解剖学的にリアルだったり、主人公(の二人)は超人的な能力の持ち主ではないので、人間的に可能な性能で動いているがゆえのぎこちなさ設定が、操作性のぎこちなさに感じる時もあります(特にピンチの時に走ったりする時)。ただ全般的には操作性のバランスも優れていると思います。


システム:

武器や弾薬、アイテムを拾い、消費し、作りながら進み、生き抜く。それだけのシンプルなシステムなので、レベルやステータスなどの複雑さはありません。


ローディング:

ゲーム開始の読み込みや、メインメニューでのギャラリーの表示など以外では、ローディングで待たされることは基本的にありません。


キャラクター:

人の強さと弱さ、慈悲深さと残酷さなど、清濁併せのんだキャラクター造形の宝庫です。キャラクターを愛しきれず憎みきれずというあたり、リアルです。特に主人公二人(下の写真はネタバレを防ぐため、主人公の二人ではない写真です)の複雑な生い立ち、性格、見た目、そして運命は、テーマやストーリーとも入り組んでいて、よく練られていると思います。なかでも今作では、LGBTを直接・間接的に主人公がらみで描いている点、野心的だと思います。

画像9


難易度:

5段階から選べますから、ゲーム初心者から上級者まで楽しめます。難易度に応じたトロフィーは、ゲームクリア後に解放されるGROUNDレベル以外では特にありません。実際の世界では、弾を2発ももらえば死に至りますし、どちらの方向からどのくらいの程度で敵が迫っているかは気付けず、いたるところに親切に主人公に都合がいい材料や弾薬が落ちているわけではないわけですが、そういったリアルな感覚も、最高難易度のGROUNDでは味わうことができます。

画像10


トロフィー難易度:

操作キャラクターのスキルや武器の改造レベル、ミニゲーム、特殊アイテムや収集アイテムの拾得が中心ですから、収集アイテムについては(時に攻略サイトもみながら)進めていけば簡単にコンプリート可能です。スキルや武器の改造レベルは2週目を半分ほどやらないとコンプリートまで至りませんが(私は2週目はやってないです)、こちらも実直に進めていけばコンプリート可能です。概して、無理ゲーなところはありません。

ただGROUNDレベルでのクリアや一度も死なずに、かつ、死んだらセーブデータが消去される設定でないと取れない、やり込み用のトロフィーは別です(汗)。


やり込み度:

上記の通り、GROUNDレベルで取れる2つのトロフィー以外は、2週目の途中でトロフィーコンプリートが可能です。あとはバトル(メニューで選べるようになります)を繰り返して、敵の出現位置などを覚えて、すごい戦闘シーンを実現したり、フォトモードで超絶美麗なTlos2のアポカリプス的世界や劇的瞬間を撮りまくるようなやり込みが可能です。GROUNDレベルのトロフィーも取り終わったら、あなたはもう、エリーとアビーです(笑)。


プレイ時間:

収集アイテムのコンプリートなどを狙いながらではなければ、30時間ほどと言われています。私は1週目で収集アイテムコンプリートを狙いながらやりましたので、40時間以上かかってしまいました。

クリア後・ネタバレレビューへ:

ちなみにこちらが、クリア後・ネタバレレビューです。クリア後にじっくりとお楽しみいただければと思います!

(了)


よりよい社会をみなさんと、よりよい「コミュニケーション」を通じてつくることを目指しています。これからも頑張ります。よろしければサポートのほど、お願いいたします!