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醤油おじさん捨てられる

20230221

火曜日



 昨夜の話だが、醤油おじさんがボスにこっそりチクった。

醤油おじさんが印刷をして、三代目が検査機に通した製品があり、

醤油「印刷したやつ、三代目に全部捨てられてた。
そんなに重要ではない箇所がちょっとヨレてるくらいで」

そう言って、醤油おじさんはゴミ箱から救出した製品をボスの方で面倒見てくれないかと持って来た。



 醤油おじさんは嫌われ者。嫌われに嫌われている。
新人には武勇伝を聞かせ、仕事中は寝てるか吟遊詩人をしている。
管理職でありながら部下に管理してもらうのが当たり前という思考で、
偉ぶるけど責任は負わず、仕事の確認もせず、
ミスをしても"確認をしない俺の管理"をちゃんとしないのが悪いと、絶対に自分の非は認めない。
ミスは"不幸な事故"というストーリーに変換して色んな人に聞かせ歩く。

だから嫌われている。






朝の打ち合わせ。

 ボスは朝の打ち合わせで、関係者の鳩おじさんに昨夜の醤油おじさんの話を聞かせた。

この鳩おじさんは印刷オペレーターと営業の二足のわらじ。どっちも中途半端に上手くやっている。
あと、名ばかりの管理職も勤めている。


ボス「三代目がダメだって言ったら何でマー君は右にならえで言いなりになるのか。おかしいでしょ」

ランボー「腰巾着」

嫌いな相手だとランボーは意外と言う。

ボス「(マー君が)今度管理職になるならね、三代目にだってこうですああですくらい言わないと。腰巾着じゃなくて 笑
仕事が進まないでしょ。

材料がヨレてて、検査機通すのにブレて進みが悪いから捨てるって、お如何なもん?
三代目の言うことを聞いちゃう方(マー君)もおかしいし。

でもそれをまた言っちゃうと(マー君と)おかしな事になっちゃうから、鳩おじさんには言っておくけど。
こうなってたから捨てるよって先に言えばいいのにって」

鳩おじ「そこは必要だよね。おそらく〜(品質的に)変なところが入ってるとは思うんだけど……」

ボス「かもしれないけど」


ちなみに、マー君マー君と名前が出ているが、半年以上ボスと喧嘩している。
だから当たりが強い。



鳩おじ「あのね、それ検査機通しながら直してる時、醤油おじさん寝てたのを三代目見てたから、『あの野郎!』と思って頭きて、当てつけで捨てたとか、聞くと色々事情が出てくるんですよ」

鳩おじさんは普段ならその場その場の意見に合わせる調子の良い人。とくに会社の中心人物のボスに対しては。
だけど醤油おじさんのことが嫌い過ぎて三代目とマー君を庇う。


ボス「でもその為の検査機だしさ」

鳩おじ「ハハハ、ま、ま、ま、そうなんだけどね 笑」

ボス「で、千の内の一万枚が捨ててあんの」

鳩おじ「あー……」

ロットは千、だけど思いのままに一万枚刷ってる醤油おじさん。あー……

ボス「印刷数に一万って書いてあるの。それも『日曜』なの」


※『日曜』とは、
注文が来るだろうという見込みで在庫を作ること。
三代目が率先してこのルールを作った。
印刷オペレーター的には後で楽ができるからメリットを感じているようだが、営業的には一か八かの作戦。
出荷はしないから休日に手配書の納期を設定して『日曜日』と呼ばれている。



ボス「在庫を少しでも自分達でやりましょうってアップアップしないようにやってるわけでしょ?
でもこんな事するならもう『日曜』は回さないよって」

鳩おじ「ああ……」

『日曜』に恩恵を受けている男↑

ボス「これが『日曜』手配じゃなくて通常の手配だったら、取れるところ探して必死に検査するわけでしょ?フォーキャストも作るわけでしょ?

でも『日曜』手配だからって、検査がちょっとやりにくいからって捨てるなら、もう『日曜』手配回さないよって」

鳩おじ「捨てるのはやり過ぎだよね、当てつけとしか思えない」

ボス「だから営業としては」

鳩おじ「わかるわかる!止めてよってなるよね!」

ボス「これが今週発送だったら、パートさんにお願いして絶対に必要分取るはずなの」

鳩おじ「極端過ぎるよね。何か遭ったのかなって勘ぐっちゃうけど」

三代目とマー君側の人間として、同情を引くのを諦めない鳩おじ。

ボス「これだと『日曜』手配ちょっと……って、これを言っちゃうとまたあーだこーだ(喧嘩に)なっちゃうから」

鳩おじ「俺も探ってみる。三代目も損得勘定働くから、よっぽど頭きてやったと思うんだよね!
その事情は分からないから」

分かってそうだけど。





ここで新情報。

N「出てるよ」

ボス「え?」

N「それ3月に注文入ってるよ」

ランボー「見つからないように上手く捨てろよ 笑」

ランボーにすげー笑われている。
ランボーは三代目のことも嫌い。相当嫌いだと思う。お互いに。


鳩おじ「いやいや当てつけよー」

ランボー「当てつけ」

鳩おじ「当てつけ当てつけ。この野郎!っていうつもりで捨ててるんだよ」

ボス「だけどそれだとねー」

鳩おじ「だったらボスさんの言う通り、ちょっとこれ極端に酷すぎるんだけどっていうの言うべきだよねー」

ボス「一万刷ってくれたけど、これ二千しか取れなかったよ、とか言って、本人に伝えるべきだし」

鳩おじ「あー」

ボス「これ捨てたんだからまた印刷やるんだよ。で、捨てた理由言わなかったら本人また同じように刷るよ」

ペロリ「また一万刷るの? 笑」

ボス「また一万刷るよ。で、また捨てるよ。なーんかおかしくねっていう」

鳩おじ「完全にぎくしゃくしてるよね。
だからもう、おじさんダメなんだよぉ……」


ボス「これをまたあたしが言っちゃうと面倒な事になるから、でも鳩おじさんには言ったからね。

これは(捨てられた製品)あたしが面倒みるから」

鳩おじ「どれくらい取れたかあとで教えて貰っても良いですか?」

ボス「全然だめならあたしから醤油おじさんに言う。

三代目がその時に注意すべきよ。『醤油おじさん蛇行してますよ』って注意すべきだし、言わずに捨てるっておかしな話よ」

鳩おじ「そうだね」







 朝礼が終わり、しばらくすると醤油おじさんがボスの元へ現れた。


ボス「『日曜日』捨てるならもうやらないよ。
『日曜日』を言い出したの三代目じゃないの?って言うとまたプイッてしちゃうから鳩おじさんの方に任せてるけど。

通常の注文の時は一生懸命使えるのを探してさ、『日曜日』だと捨てるっておかしいよ。会社潰す気か!って言ってやりなよ」

醤油「俺も言ってやりたいけどさ、来なくなっても困るし。でも俺もキレたら言うよ」

ボス「マー君のこと、ランボーさん曰く、イソギンチャクじゃなくて、なんだっけ?」

N「腰巾着」

ボス「そうだ、ランボーさん曰く腰巾着って」

醤油「あいつ上手いこというね。ほんとそうだよね」

ボス「金魚の糞。みんな思ってるよ

ボス、そんなに醤油おじさん側にいて大丈夫なのか?
どんでん返しあるぞ。






10時

 小町とOの打合せから、明日、三代目が有給なのが発覚。
三代目は何もかもコソコソしてるから我々も知らないふりをしないといけない空気がある。

明日は有給で、明後日は祝日。
うまく2連休にしているのもなんか腹立つ。言えや。



しばらくして三代目が顔を出す。

三代目「今日フィルムチェックありますか?」

わたし「今日ないです。明日あります」

三代目「明日……明日逆にいないかもです」

わたし「(逆に?かも?)」

休みとは言いたくないよう。
事前に聞いてなかったらまた何かの講習にでも行くのかと勘違いする。

三代目「すみません……明日はランボーさんに(頼んで)」

休みでも何でもいいけど、ランボーのスケジュールに関わるから自分から言ってくれ。
申請した休みを隠さなければいけないって、命狙われてるのかお前。






17時

ミーティング。

管理者会議からの報告事項は特に何もない。

「他に何かない?」「他に何か……」と、
何か引き出したいのか、ずいぶんとボスが粘っている。
ベッキー達の方を見て。



するとNがわたしに「あのことはいいの?」と。

なんだと思ったら三代目の事だった。
関係者に休むことを隠すなという話。
絶対ボスが引き出したい話題ではない。

確実に本人に伝えたいから、ここで話題にするのは違うかと思っていたが、Nが促すのなら。


「休みがあらかじめ分かってるんなら、他の人のスケジュールに関わるから言え」という主張を述べた。

本人に直接聞いても決して休みとは言わず、ふわふわした言い方をする。


ボス「三代目、彼女が美容師だから」

ランボー「彼女いるんですか!?」

話を割って驚くランボー。
あんな奴に彼女いるのかといった驚きよう。
お前も同居してる男がいるとは誰も思わないよ。

ボス「いるよ。彼女が美容師だから休みの関係で火、水に早く帰るんだって」

N「あーだからか」

わたし「デートだろうと旅行だろうとなんでもいいけど、休みは言え」

ボス「そうだよね。そもそもなんで三代目がフィルムチェックしてるの?」

わたし「三代目からは『殿(社長)から言われて』って聞きましたけど」

他のみんなは違うらしい。

ボス「(ランボーのチェックがあまりにも長く)時間かかるなら僕がやるとか言ったんだよね」

ランボーがいるので括弧の中はお察しする形になっている。

ランボーのことだから遅いだろうと、多めにチェックのスケジュールを取らせてもらっているが、その想定の4倍かかってしまう。
三代目はそれを時間調整だと言ってイライラしていた。


わたし「(三代目は)現場でちやほやされてるだけなんだか知らないけど、印刷で当たり前に出てくる単語も通じない。
自分が忘れっぽい自覚がないのか、教えたことを絶対にメモに取らないし。

この前、新規の仕様書を三代目が自分で書いてたじゃないですか。
フィルムの所書けてなかったんですよ。
ここ書いてって言ったら書き方が分からないって。じゃあいつもどこ見てチェックしてんだって。

また教えたけどどうせ忘れてますよ。
そういう勉強の為にフィルムチェックしろって殿から言われたのかと思ってました」

ボス「営業も、担当持ちたくないとか言ってるからね」

三代目は工業内の仕事を勉強中ではあるが、いずれは完全に営業にするとこちらは聞いている。
一方で三代目の方は、経営者になるんだから自分が担当を持つ意味が分からない、新しい人を入れるべきだと言っている。

話し合えよ親子。
話し合ったけど忘れてるのか?





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