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庵野監督と「シン・仮面ライダー」 1.

ドラマの制作現場についての話を書いている途中だけど、実はこの一連の話は完結の日程を見定め書いていて、どうもこのペースだと狙ったところに着地しそうにない。
そんな訳で、ここで余談を挟ませてもらうことにした。とはいっても、昨日までの話の内容から乖離し過ぎないよう気をつけて書いてみるつもり。
知らんけど(いやホント、便利な関西弁だな)。

少し前、SNSなどネット上で庵野監督がちょっとした炎上騒ぎになっていた。
その原因となったのが、NHK制作の『ドキュメント「シン・仮面ライダー」~ヒーローアクション 挑戦の舞台裏~』というドキュメンタリー番組。
かなり話題になっていたので観られた方も多いのではないかと思うけれど、ぼくはこれを配信で観た。

子供のころからぼくは特撮ファンであり、2012年に開催された「館長 庵野秀明特撮博物館」へ行ったり、ヱヴァンゲリヲン新劇場版シリーズのDVDを所有する程度には庵野監督のファンでもある。
もちろんシン・シリーズ 4作も劇場で鑑賞したし、その後Prime Videoでも観ている。

そんなぼくがシン・仮面ライダーのドキュメンタリーを観た当初、率直に感じたのはこうだった。

あぁ、これは酷い。なるほど、炎上も納得の不条理さ

庵野監督に振り回される俳優さんやスタッフさんたちを観ているだけで辛くなるし、特にアクション監督の田渕さんと殺陣のスタッフさんたちへの言動は、理不尽この上ないように映る。
クランクインのときこそ和やかだった現場は、アクションシーンの撮影開始以降、終始不穏な空気へと変わった。

田渕さんが撮影プランを出してもにべもなく一蹴し、提案された殺陣を一瞥してはダメ出しを繰り返すという、まさにちゃぶ台返しのドキュメンタリー。
それも具体性、方向性を監督が示さないのだから求めるものが判然としないまま、抽象的な要求を甘受するしかない俳優さんとスタッフさんたち。

スタッフさんだけの緊急会議のシーンでも「現場に行って初めて宿題がわかる感じ」と困惑している人もいれば、田渕さんも「結局変わっちゃうから・・・これから先は現場で言われたままやるか」と言葉をもらす。
この辺りは、ぼくにもとても気持ちがわかる。

現場では、怒気を露わにした庵野監督が田渕さんらにこう言い放ち、その場を立ち去るシーンも。

「もう全部アドリブでやってほしいくらい」

「段取りなんていらないですよ」

「(ライダーたちに)一生懸命さが全然見えない」

「ただの段取りです」

意図があって悪態をつかれているのかとさえ思えてくる。
これでは殺陣においてプロ中のプロである田渕さんたちの面目は丸潰れだろうし、憤懣やるかたない気持ちだったに違いない。
実際、番組の中で田渕さんは「もう俺は何もしないぞと思って、僕らの仲間も台本捨てて帰ろうっていうギリギリの覚悟までいってたって・・・」と吐露されている。
「段取りなんていらない」なら、そもそも初めからアクション監督や殺陣師は要らないのでは?と、ぼくでさえ思う。

「段取りをやっているので、段取りに見えてしまうのはしようがない。それを段取りに見えないようにというのは・・・それが作れないなら僕は辞めるしかない」

田渕さんの禅問答のようなこの言葉に同情するし、ぼくが彼の立場なら庵野監督のファンであってもこの仕事をきっと辞めている。
この件は監督が直立不動で涙ぐみながら謝罪されたこともあって、田渕さんは最後までやると決められたらしい。
ぼくは、庵野組がいつ瓦解しても不思議でないとヒヤヒヤしながら最後まで観たけれど、恐らくぼくと同様の感想を抱いた多くの視聴者が炎上を招いたのは間違いない。

でもこの話には、「ただし、」という続きがある。

つづく


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