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意味ある社員サーベイのために考えたいこと

社員がどのように感じながら組織に居るのかを知るために、「従業員意識調査」や「エンゲージメント・サーベイ」などと呼ばれる何らかの定期的な調査を行なっている企業は多いかと思います。

毎年行うことで前回を比べて良くなっていってるのかをみていたり、Great Place to Workのような外部団体によるサーベイに参加して他社とのベンチマークを行ったり。定期的に行っている企業はやることが当たり前になっている年中行事になっている場合もあるようです。

継続的に行う目的はいくつかあるでしょう。
1)会社は社員の声を聴くのだという社員に対するメッセージ
2)社員コミュニケーションの質的評価改善活動
3)対外的な企業ブランドの確立
4)ヴィジョンや組織文化に対する現状把握
などなど…

人事としては、サーベイの設計、実施、分析、そしてアクションプラン(改善プラン)の策定をリードしてゆくことになるのですが、実際にやっていると自分達が何をやっているのかよく分からなくなってくることがあります。

入力されてるデータは当てになるのか?

社員意識調査や社員満足度調査は、ひと昔前は紙ベースで行われていました。チェックシートに記入してそれを集計するのでかなりの手間がかかるのですが、紙でやる調査はそこに回答者側が集中しやすいというメリットはあったかもしれません。

現在は、紙でやってるところは多分ないでしょう。ウェブなどでアンケートを作成して集計することで手間の削減を図っていると思います。
しかし集計が便利な反面、ウェブのアンケートフォームへの入力は、PCなどを使っている分だけ集中がしづらく、作業をしながらの片手間で行なっているという人も少なくありません。

つまり、入力自体があまり考えずに適当に入れている人が多いのです。
これは、サーベイの中にある正反対の内容についてどちらも「そう思う」と回答しているところから分かります。
ちょっとひどい例で言うと、例えば
「私はこの会社で長く働き続けたい」

「私は機会があれば他社への転職をしたい」
の二つの問いに対して「そう思う」と回答してる…みたいな感じです。何も考えてないで回答しているのは明らかですね。

一般的な調査は設問の数が50〜60、場合によってはそれ以上あると思いますので、回答している途中で面倒くさくなってくるのもあるのかもしれません。

また、このような調査を行なった後にフォローアップやアクションプランが設定され、今度はそれを実行しなくてはならないとなると、実情は別として良い点数をつけてゆく傾向も見られます。
これは、上司が調査の結果をとても気にする人だとより強く傾向として現れます。「みんな入れてくれよー」みたいな変なプレッシャーがあったりして。
つまり、後が面倒だから良い点数で入れておく、みたいな感じです。

結果、人事からすると、こんなに点数がいいはずはない、と思えるような組織のスコアが年々上がっていっており、その部門の長は上機嫌になってて、メンバーはそれを冷笑している…みたいなことが起きます。

他にも、サーベイにおいて良く言われる数値の中心化傾向(真ん中あたりに数値がよってしまう)であったり、スコアが平均で出てきてしまうことによる一人一人の従業員の意見に対する感度の低下が起こってしまうのが、このようなサーベイの常ではないかと私は考えています。

企業としては、従業員調査への回答率を上げるように積極的に社員にコミュニケーションをしますけれど、却ってやらされ感面倒くさい感を助長しています。
こんな状況で入力されたデータの数値が、昨年より数ポイント上がった下がったで一喜一憂することに本当に意味があるのだろうか、と感じてしまうのです。

それでもサーベイから洞察を得るには

個人の性格判断などを研修で扱うことをかなりの数してきましたが、そちらになると社員はかなり真面目て答えてくれています。

これは自分自身に直接返ってくる返報性があるからでしょうし、自分自身については興味があるからでしょう。
また、個人向けのツールは過去の統計的な解析から、回答の矛盾を見破って性格な分析ができるように問いが設計されているので、出てくる結果が本人にとっても納得性が高いものになると言うのもあると思います。

翻って組織に関しての個人の意見は、自分以外の人の意見の中に自分の声が埋没したり平準化させられてしまうこともあって、どうでも良いと思ってる人がかなりいることが、次のような質問への回答でも分かります。
「私のこのサーベイの結果が生かされ、会社が良くなってゆくと思う」
まぁ、この設問にも適当に答えている可能性もありますけれど、期待していないから興味がないし、適当につけているのでしょう。

ただ、そのようなサーベイであったとしても、その後の分析によってはインサイト(洞察)が得られることはあります。
私の場合ですと、以下の二つのアプローチは取るようにしています。

一つ目は、平均値ではなくデータのばらつきを見ること。
これは、平均値だと「良い」と「悪い」が相殺されてしまい「普通」になってしまうので、両極端な意見がどのくらいデータの母集団の中にあるのかを丁寧に見ると言う意味です。

例えば、一人の部門長の配下の一組織でのサーベイ結果で「上司からもらっているサポートへの満足度」が「普通」だったとしても、その中には「最高」と「最低」の両極端が眠っている可能性があります。
そこで「最低がある」ことが悪いと言う見方をするのではなく、上司のサポートが偏っているのではないか、と見るということです。

二つ目は一つ目との掛け合わせにもなりますけれど、サーベイの結果が出た後にちゃんとヒアリングを行うことです。
平たく言うと、数字だけで勝手に判断をせずに、この数字の意味についてサーベイに回答した人の考えを聞きに行くのです。

サーベイの回答は匿名性を担保するようになっているので、「誰がこう答えたのか」を聴くことはありませんが、
「こんな結果が出ているのですけれど、どういうことが起きているからこういう回答になるのだと思いますか?」
と問いかけると、
「そういうことなのか!」という発見が得られます。

人事だけでなく、回答者同士も他の人がどのように答えたのかは知りませんから「みんなも自分と同じように考えているんだ…」
みたいな発見もあり、
「あれ、自分だけがこういうふうに考えているのか?」
みたいな発見も起こります…
そこで、お互いの考え方、受け止め方を擦り合わせることがチームの認識を揃えたりチーム・ビルディングになったりすることもあります。

また、ヒアリングで一つ一つ聞いてみたことで、設問文の意味を勘違いしていたということを知らされることにもなります。
言葉で書かれているものですから、受け取り方は人それぞれで、そこのズレがあるまま回答をしているので変な結果になってしまっている…
ヒアリングをきちんと行なってフォローするとそこを修正しつつ、時間のサーベイの設問の変更に活かすこともできるでしょう。

要はサーベイの結果のデータではなく、サーベイを行なった事実を用いて対話の場を設定し、データを触媒としてその場の活性化を行うということなのです。

サーベイ以外の方法を考える

述べてきたように、サーベイ自体を目的にせずに、その後の分析を触媒にした対話と意識の擦り合わせこそが従業員調査を意味あるものにするコツだと私は考えていますけれど、その一方でさらに効果的な方法はないものか、と常に思っています。

このようなサーベイは定点観測的に行われるものの、過去のある期間での自分や上司、職場の仲間の行動を振り返ることを求めるようにできているため、不確かな記憶の中でその人の主観でしかデータの入力がなされていないのが実情です。
過去には良いこともいっぱいあったのに、直近の悪いこと一つが異様にクローズアップされてしまったりがそれですね。

最初の方に書かせていただいたように、そもそもの入力自体が適当になってしまう上に、不確かな記憶による主観的な感想のようなものの寄り集めになってしまっていて、結果が事実を表しているとは言い難いと私は考えています。
「意識」の調査だからそれでも良いのかもしれませんけれど、それだけに頼るのは片手落ちかな、と。

では、どうするか?
定点観測的なサーベイではなく、普段の組織行動を測定する仕組みを用意すべきだと私は考えます。
これは、社員同士のやり取りの情報をビッグデータとして処理をして、行き交う情報の量と質の分析を行なって組織の風通しの良さを測るイメージです。

少し、具体的に考えてみましょう。
現代では、社員同士のやり取りのほどんどはコンピュータの中のデータとして入っているのではないでしょうか。
メール、チャット、ミーティングの予定などは、誰と誰がどのような内容でどのくらいの時間繋がっているのかを表しています。ここから誰と誰との繋がりは濃くて、誰と誰が薄いのかは明白に出てくるでしょう。

加えてAIなどを活用すれば、その中で使われている言葉、さらにはビデオ会議の録画での表情の解析などを行うことで、相手が伝えたことを理解しているのか、快く思っているのか不快に思っているのかを見ることができるかもしれません。

実際のやり取りの量と質をデータとして持っておきながら、本人がどのように感じているのかの主観も聞き、データを見せながらなぜこうなるのかを一緒に考えてゆくことができれば、具体的な行動を変えてゆくためのヒントを得ることも可能でしょう。

このようなことを会社がしていると聞いたら、監視社会的で気分が悪い人もいるかもしれませんけれど、場合によってはサーベイの会社に高いお金をかけ、入力と集計分析という手間をかけて行なっている調査で、本当に会社を良くしてゆきたいのであれば、このくらいはやった方が良いと思うのです。

答える人にとって意味がある(身につまされる)データが得られる調査であれば、入力が健全に行われることになると私は思います。
そして、結果から誰もが納得できる改善行動がすぐに導かれるからこそ、調査後には良くなるのだからと期待し、そこに調査を行うことの価値を感じることにつながるのではないでしょうか。

だって、会社がそれによって本当により良くなってゆくのであれば、歓迎しない人はいないはずなのですから。

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