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イタリア的野望 打倒アイリッシュコーヒー

Vol.125
世界的にも有名なアイリッシュコーヒーをご存知だろうか?
アイリッシュコーヒーは、カフェメニューというよりもカクテルシーンの方が有名なのかもしれない。
このアイリッシュコーヒーに一悶着つけたいイタリアかぶれな私のララバイを語ります。

アイリッシュコーヒーとは

コーヒーにウイスキーがちょっと入って、生クリームをほんのり乗せた飲料。
雑な書き方だが、これが実に美味しいカクテルで、私もよく秋冬のシーズンになるとオーダーする。

歴史的には、アイルランドのフォインズ空港という民間飛行場のシェフ、ジョー・シェリダンによって1943年の冬に作らた。この飛行場は、アメリカに渡る大西洋横断便の飛行場として、政治家やハリウッドスターを乗せることもある飛行機が、長距離飛行の給油のための停留地でもあった。時に天候事情により、その中継地で一晩過ごさなければならないこともあった。なにせ風が強く寒いアイルランドに不慮の滞在になる乗客の疲れや遅れによる苛立ちなどをカバーするかのように提供されたのがアイリッシュコーヒーだったとか。
これを一口飲んだ乗客の心はとても穏やかに心も落ち着いたとか。

その時、「これはブラジルのコーヒーか?」と、一人の乗客が尋ねた。
作ったジョーは、「いいえ。これはアイリッシュコーヒーです」とこたえたことから、このアイリッシュコーヒーはフォインズ空港名物となった。

ここまではご当地名物な話。そこから旅行作家のスタントン・デラプレーンによってアメリカに紹介された。スタントンはそれをサンフランシスコのブエナビスタホテルのバーテンダーであるジャック・ケプラーに再現するように依頼した。この機会をもって、アメリカはもちろん、世界的にもアイリッシュコーヒーが広がったわけである。

美しい佇まいのアイリッシュコーヒー。

どんなバーでいただいても、アイリッシュコーヒーは凛としていて美しい。
そんなアイリッシュコーヒーがとても好きなのだが、そもそもアイルランドでは、あのたらふくビールを飲み尽くすアイルランドでは、こんなにおしゃれにアイリッシュコーヒーをグラスでいただいているのだろうか? という偏見も交えた疑問が湧いてくる。
それはおそらくイタリア暮らしが長くなってきた私のイタリアかぶれ的発想もアクセルに効いている。

素晴らしいストーリーではないか。
コーヒー、ウイスキー、ほんのちょっとのクリームだけのシンプルなもの。

カフェコレット(Caffè corretto)をご存知であろうか?

さて、「カフェコレット」というイタリアのコーヒーのアレンジ系をご存知だろうか?
アレンジという程でもないが、単にエスプレッソコーヒーに少量のスピリッツを注いでいただくというもの。
好みでサンブーカやグラッパ、他にコニャックなどを入れる場合がある。
これもすべてバールでオーダーできる実に気軽なものだ。
そしてもちろん、好みでフォームミルクや生クリームを添えることもできる。

ここで気づくのは、アイリッシュコーヒーと原理的な材料が同じであるということ。
アイリッシュコーヒーは、世界のカクテルブックにも掲載されるほどに有名だ。しかし、カフェコレットは朝から工事現場で働くおじ様たちがバールのカウンターであおっているいるというイメージ(筆者体験に基づく)。もしくは二日酔いの朝にむかい酒で飲まれるカフェコレット(筆者体験に基づく)である。

そのように飲まれているカフェコレットを、「それはブラジルのコーヒーですか?」なんてバールのカウンターで聞けない。

そもそもコーヒーといえば、イタリアンエスプレッソやバールが15万軒も国内にあるイタリアが天国だ。消費量のそれはアメリカや南米には劣るかもしれないが、コーヒーを消費する文化のステージがあるのはイタリアだと考える。
そしてアイルランドは英国に近いこともあり、どちらかというとコーヒーよりも紅茶を楽しむ文化の方が定着している。
なのに関わらず、アイリッシュコーヒーという飲み方が世界に知られているのである。
たったコーヒーにウイスキーと生クリームが入っているだけでだ。

このことについて、フィレンツェにある有名なラスプーチンのバーのオーナーと話をしたのだが、「まさにその通りだ! カフェコレットをどうにかせんといかん!」 と大納得。「なんで俺たちはアイリッシュコーヒーを出しているんだ?」となってきたから、イタリアもまさかの気づき。

ビチェリンをご存知だろうか?

では、グラスにコーヒー、アルコール類、クリームを添えればというのとは異なるが、コーヒー、チョコレートリキュール、クリームを添えた、トリノの名物ビチェリンというカフェメニューがある。
ビチェリンのことは端的にここで語るのはトリノ在住者としては心痛い。というのは伝えたいストーリーがありすぎるからだ。
というより、ビチェリンについてはまた別途タイトルにして書きたいと思っている。
なので、せめてその写真だけでも。

トリノ名物のビチェリン。

見た目、全くアイリッシュコーヒーに近い。
しかしアイリッシュコーヒーの方が明らかに有名で、ビチェリンは一部のカフェマニアかトリノへ観光へ来たから名物ついでにという程度である。

イタリア的なカクテルコーヒーを日本初でデビューさせて欲しい

以上のストーリーをもって、アイリッシュコーヒーももともとは地方名物であったものがわかる。それがアメリカに渡って再現されることとなり、世界中で有名になった。さらにエレガントに提案されるようになったと私は思う。

なので、イタリアのカフェコレットやビチェリン(ノンアルコール)も、是非ともイタリアではなく、海外で広まれば有名になれるのではないかと。
その名前が世界のカクテルブックに掲載できるのではないかと!

その時は、日本の優秀なバーマンの力を借りて、日本初でカフェコレットを再提案して欲しいと願うのである。

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