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気が合う本棚


 同じ本が好きな人はそれだけで心が開ける。京都の四条烏丸にある、JEUGIA Basicっていうレコードショップの小さな書籍コーナーの本棚は、まさに気が合う本棚だった。お互い小さな本棚なのに、わたしが持っている本が6冊もあるんだもの。『アルケミスト』でいう“宇宙の言葉”のように、実際の言葉を交わさずとも分かり合って、その棚にこれらの本を並べたその人とは友人のような気持ちになった。せっかくだから、そこに並んでいたおそろいの本、それらの本を買った本屋さんを記録しておこうと思う。

気が合う本棚にあった“おそろいの本”

『テヘランでロリータを読む』
『フィッシュ・アンド・チップスの歴史』
『世界の「住所」の物語』
『優雅な読書が最高の復讐である 山崎まどか書評エッセイ集』
『石の辞典』
『ブックセラーズ・ダイアリー』(わたしが読んだのは英語版だけど)

そして新たに選んだ本
『言葉の人生』

テヘランでロリータを読む

 両国のYATO Booksで数ヶ月前に発見し、そのあと色んなところで見かけている。文庫になりカバーもかわいくなったせいか、イケてる本屋なら置いてある率が高い。京都では一乗の恵文社、出町桝形商店街のCAVA BOOKSにもあった。 見つけるたびに「あなた方は全員友だちよ」という気分。わたしにとっては、読んだ本について自分の心の動きを書こうと思うきっかけになった本でもある。noteでは既に二度取り上げた。
 何度も言うが、これほど切実に「読む」ということの意味を読者に知らしめる本は他に無いし、「想像する」ということの持ち得る脅威を鮮烈に実感したことは今までない。それは内なる自由の保護であると同時に、自分個人の生き方を選ぶことに対する覚悟の必要性を訴えているようにも思える。本の中で、様々な人に向けて繰り返される「あなたはどうなの?どう思うの?」という質問に、わたし自身も随分考えさせられた。
 今わたし達が生きる日本社会は「自分らしさの洪水」にあると思う。多様な個性に寛容で豊かな社会とはどういうことかを考えずに、「エスディージーズがグローバル化が進む社会ではたいせつなので……」といった具合に、なんとなく「自分らしく生きられる社会に」がスローガンになった。もはや自分らしさを持つことを強いてくる。でも本当の意味で、自分という存在に責任をもって自分らしく生きようとしている、もしくは自分らしく生きたい人が、この国にはどれだけいるのか、と疑問に思う。心地よくない、好きじゃない、賛同できない、の列挙ではなくて、創造的な自己実現のための活動をもっと見たいと思う。わたしのように、結局のところ見た目だけの“多様性”のみが持て囃されることを疑問に感じている人がいたら、この本を読んでほしい。個人性を取り上げられた彼女たちの読書を通して、わたしたちが本当に実現したい個人が尊重される社会について考える糸口になるのではないかと思う。

<『テヘランでロリータを読む』に関する過去の書き物 >


フィッシュ・アンド・チップスの歴史

 2020年の年末、蔵前のReadin’ Writin’ で前に出ていた本。店主曰く、その時“たまたま”イギリス関連の本が多くあった。今、イギリスはなにかと過渡期にある。ブレクジットに始まり、ロイヤルファミリーのあれこれ、産業革命を起こした国としての自責の念に駆られるように急激に高まる環境保護意識、奴隷制度の輸出国でありながら長くその制度が続かなかったために表面に顔を出しにくかった人種問題への直面(警察によるジョージ・フロイド氏殺害事件をきっかけに全米に広がったBlack Lives Matterに人種差別の問題をまざまざと見せつけられた。さらにはイギリスでは、もっと見えない形でその問題が横たわっていたことが暴露された。わたしの友人はみんな、自分たちの目の前の通りで同じ問題が起こっていることに、そしてそのことに一切気づかなかったことに心から困惑していた) そんなこんなで、イギリスでは過去や未来について考える本が多く出版されていて、その多くが翻訳されている。
 その中でも『フィッシュ・アンド・チップスの歴史』は、「食」を切り口に“イギリスらしさ”がいかにして形作られたかわかる内容になっている。真面目に書かれている正真正銘の歴史書なのだけど、イギリスの会社に勤めており、毎日“イギリスらしさ”にさらされているわたしにとって、"History of Fish and Chips"という響きがいかにもユーモアに溢れていて好きだ。イギリスについてある程度知っていて、もう少し肌の感覚としてイギリスを理解したい人におすすめの本だ。

世界の「住所」の物語

 蔵前で『フィッシュ・アンド・チップスの歴史』と一緒に手に取ったもう一冊がこの本。これはおもしろい本で、確か2日ほどで読んでしまった。住所というあって当たり前のように思える、極めて文明的な創造物から、都市そのものの成り立ちや、住所を持つこと、持たざることがもたらす異なる結果を考察する。歴史から最新技術まで、さまざまな情報が網羅されていて、興味深かった。地図を開きながら世界に思いを巡らせて読んでいくと、なんの変哲のなかった通りや区画の一つひとつが意味を持った気になる存在になっていくだろう。


優雅な読書が最高の復讐である 山崎まどか書評エッセイ集

 これも蔵前のReadin’ Writin’で見つけた本。店主が「コーナーは特に決まっていないのだけど、なんとなく似たもの同士を並べて行ったらこうなった」と言う通り、入り口から見始めて気になる本を辿っているうちに、気付いたら店の奥にたどりついている不思議で魅力的な本屋さん。この本は、本に関する本が集まっている入って左手の壁側で発見した。全部は読んでいないのだけど、感情を消耗したくない時にぴったりな本で、次に読みたい本が見つかる書評+エッセイ集。山崎まどか独特の、英語を日本語に翻訳したみたいなテンポのいい軽やかな語調は、読んでいると不思議とワクワクする。子どもの頃、ピンク色のおしゃれな表紙の海外のガールズ文学を読んでいた頃を思い出すからかもしれない。

https://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK207


石の辞典

 オーストラリアの大好きな雑誌frankieの最新号が出てないかチェックしに渋谷のMIYASHITA PARKの天狼院カフェSHIBUYAを見ていた時に、イラストのあまりの美しさに惹かれて購入した本。色とりどりの心ときめく鉱物が、産地や命名の由来などとともにまとめられている。石の硬さを表す“モース硬度”の数字が小さい順に並べられていて、神秘的に広がる鉱物の世界の博士のような気分になれる。装丁も繊細でそのすべてが好き。今は自分の家のトイレに置いて一種類ずつ読んでいっている。


ブックセラーズ・ダイアリー

 出張でイギリスのバース (Bath)に行った時に、同僚に薦められた本屋さん Mr. B'sで買った本。エジンバラで古書店を営む著者の日記なのだけど、そのリアルな記録がなんだか楽しい。アマゾンとの格闘や、創意工夫を凝らしたイベントの開催、宝物探しのような古書の買い付けについての記録は、好きなことをして毎日をクリエイティビティブに生きることの記録でもある。なんというか、誰もが憧れるような人生の選択のように見えて、実際は夢というほどたいそうな生き方としてではなく、踏み出すことや営むきっかけはいつもそこに転がっているし、それが日常になることだってあるってことに、ある意味元気をもらえるから、こんなに人気が出たんじゃないかと思う。

 色んな本がある。途中から息切れ感があるけど、こんなところで今日は終わりにしたい。

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