ヤりたいのなら魅力的なダンスで誘ってくれ 800文字ショートショート 16日目

押し倒された、皺の走る手のぬくもりが右肩に焼き付いた。
じわじわと染みていく熱さが顔に侵食していく。
感覚に押し潰される前にのしかかる男を睨み上げた。

四畳半の寝室は空っぽで、私と男だけが収容されている状況だ。
熱帯びた浮つく欲望が充満している。

柳の葉に似た男の前髪から覗く、細められた目が光った。
ぎらついた銀の刃の煌めきがちらちらとこちらを誘っている。
その鉛玉の中に私が無様に横たわり閉じ込められている。

鼻先が擦れるほど、吐息が唇に重なって湿る。
男の脹脛に足先を滑らせながら、蛇の交尾のように絡めた。
浮き上がった雄々しい喉仏を左手で撫でていく。

酸素の息継ぎを互いの愛で貪る。と、生憎安っぽい展開はない。

両者の間にあるのは衝動的な欲望。それも血生臭い関係だ。

「抵抗しないのか? 随分と余裕なもんだ」

「貴方の殺し文句には辟易します。センスの欠片もない」

「そういうお前さんはもっと寝技を磨いたらどうだ」

「色気のない誘いですね。Mr.クロックマダム」

「ご機嫌取りには飽き飽きだよ。Mrs.クロックムッシュ」

しゃがれた呆れ声とともに、右肩からゆるゆると手が離れた。
突き刺さっていた小型ナイフが、私色に染まって引き抜かれていく。

「ったく、相変わらず痛覚死んでんのかぁ? 無表情でよぉ」

「ご期待に沿えず申し訳ございません。老犬に噛まれたくらいでは喚き散らしません」

「その澄ました顔をぐちゃぐちゃにしてやりてぇな」

「発想の気色悪さで現行犯逮捕されたら良いのに」

「それよか俺の太腿に刺したナイフ、どうにかしてくれよ。自分で抜くのはナンセンスだろ?」

退いた男の右太腿にぶらさがるナイフを容赦なく引き抜いた。
いてぇな! と叫んだ男の主張は無視を決め込んだ。

「なぁそろそろ本気で殺ろうぜ。俺ぁお前さんの殺り方に惚れてんだ」

「ならば相応の魅力的な社交場に連れていってくれませんか」

ここで殺るにはムードがなさすぎる。お互いの殺意で本気で踊らなければ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?