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秋の思出から

秋の思出から  夜光詩社 草川 義英

哀鳥さんへ――

た江久しかれんだめくらず暮しゆくわがみ
淋しむ秋木立かな


そとしづむほこりの小さきかれんだをめく
る心も秋の悲しみ


はつ秋日かの友おもひたかぶりて虫ちろち
ろの野にいでしかな


三日三夜の月悲しめる友なればしみじみ思
へこの良き月に


ぬすみ寢も職にしあればといふ友の頬白じ
ろと夜に浮きけり


ぬすみ寢の夜の窓ぬちに悲しかんっし秋たち
ぬれば星の冷たさ


そのかみの瞳うるみしの子なれその泣き
ぬれし銀杏偲ばゆ


湯ごこちにいねむる人の夢みる眼ふかく思
はず晝の月見る


みとせごしかの死にた江しおみなごをひそ
かに思ひやまざりしかも


夏雲のふつくりときみの頬に似るその夏山
は遠く寂しも


故里の白砂べりの思ひ出はわが家ちかき山
火の秋ぞら


みにくかる吾が日子影のうすらうすら心に
泌みて淋しま晝よ


故里のおばしまに見ゆ目前まなかひ白砂原しらすなはらに竹焼
く火の粉


淋しけれど秋たけにける靑草の土堤のみそ
らの星かくす松


秋空に陽は今高しへやしづみしんと淀みし草
笛をきく           (六、九、一六)


(函館毎日新聞 大正六年九月十八日 十七日夕刊
 第一万一千五百四十一號 一面より)



※草川義英は與志夫の函館商業学校時代のペンネーム、同学校の生徒
 を中心に結成された夜光詩社という短歌クラブに所属していた。
[解説]夜光詩社について



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       函館市中央図書館、国立国会図書館、所蔵

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