一錢亭文庫 / 菊池 與志夫

菊池 與志夫(与志夫、きくちよしお、本名:義夫1901年(明治34年)2月11日 - …

一錢亭文庫 / 菊池 與志夫

菊池 與志夫(与志夫、きくちよしお、本名:義夫1901年(明治34年)2月11日 - 1946年(昭和21年)1月1日)  與志夫が柏崎の新聞「越後タイムス」に戦前に寄稿した記事を中心に掲載しています。 旧王子製紙社員、「王友」編集委員(六~十九號) #一銭亭文庫

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花輪を於くる言葉

花輪を於くる言葉     菊 池 與 志 夫  あらゆる世の惰眠をむさぼる群 小飜譯家だち――諸君は、半歳の 全生活をあげてエドガァ・アラン・ ポオ・の心魂をかれ自…

蘇 生 へ る 魂 「銀の壺」第九號

    □ 蘇 生 へ る 魂       草 川 義 英 いまはただきみばかりなるわが心もえてあはねばかくも悲しむ ものはみな秋の冷氣にしづもりてかくも淋しきおと…

□丘二郎の死を悼む

□草川 義英 きみがふす夏の敷布のみだれより わが遠ざくを今はかなしむ かくわれの遠ざくことを恕らずに なほ病みはてしきみのみこゝろ 大いなる雲をつかみて死にゆけ…

暮 笛 集 (二)

暮笛集 (二)    草川 義英 うつとりと鹿に見入りしこころにて三 笠の山を仰ぎてゐたれ 春日なるこれやいこひのなつかし さ奈良戀ふ子らに小鹿きて鳴く 春日野に順…

暮 笛 集 (一)

暮笛集(一)   草川 義英 午さがり雲ほの見ゆる空のべを鳶の さかしく飛べるなりけりさ     □ 春日なる朱塗の宮のさびしさは奈良 をいとしむ心となりはつ    …

夜光詩社短歌(下)

夜光詩社短歌(下) □草川 義英 (一点) 大鳥居石の鳥居を仰ぐさに去年も 見たるあかつきの月 ひとりゐの冬のあらし夜向ふ山を 雪がとぶかや空の明るさ (函館毎日…

京の河霧 (B)

京の河霧 (B)   草 川 義 英 草の穂のさやさやゆれて光る秋小道 に瀧の音ききにけり 遠つきしわがなつかしき初旅に暁空 寒き小村なりけり 夜の空にひそまり見江…

京の河霧 (A)

 京の河霧 (A)  草 川 義 英 あゝ京の雨夜の街の重き色一夜明く れば霧たちにけり 京の空あけぼのゝ雲鴨川の瀬々の流 れにつれ走る見ゆ 流れ星一つ流れて京の夜…

晩秋雲脚記 (下)

晩秋雲脚記(下) 夜光詩社 草川 義英 悲しげにまたなつかしく波にうきうれい もなげに吾が船のいづ 海鳥のうけるも小さししづやけき秋の夕 を悲しみてなく 火にも江…

晩秋雲脚記 (上)

晩秋雲脚記(上) 夜光詩社 草川義英 雨霽れの土の匂もなつかしや旅にあひぬ る時雨なりけり 旅にきて蛇使ひの眼を見てありぬかはき し心して見てありぬ ぐつたりとい…

暁 天/夜光詩社 保坂 哀鳥

(函館毎日新聞 大正六年十一月十二日 十一日夕刊   第一万一千五百九十三號 一面より) ※「坊ちゃんの歌集」 ※[解説]夜光詩社について ※草川義英は與志夫の函…

   夢      夜光詩社 草川義英 ゆくりなく眠りさびしむ心にて昔お もふにた江がたき日よ 雨の音秋の夜の雨ふける思こゝろに 泌みし人も忘れず 君にしてしみじ…

□童貞の日よ

□童貞の日よ 麥の穂のはたはたとしてなつかしく 光りし夕よ童貞の日よ 夕しろく古里の空に見ゆる星わが童 貞を偲ぶ淋しさ たそがれの秋空寒し星のひかりわが 童貞のか…

秋の思出から

秋の思出から  夜光詩社 草川 義英 哀鳥さんへ―― た江久しかれんだめくらず暮しゆくわがみ 淋しむ秋木立かな そとしづむほこりの小さきかれんだをめく る心も秋の…

夜 光 貝  (上)

夜 光 貝  (上) 沖の島は世のおち人のいねる土夜はさめざ めと冷遇に泣く       草川 義英 ほたるぐさぽつちりしぼみ夜となればこの 川邊にをみなごも見ゆ…

ほ た る 草 (ある初夏の思ひ出の斷片)

ほ た る 草 (ある初夏の思ひ出の斷片)               草川義英 谷あひのうす靄も消江月かげに螢とび交ふ 竹やぶの見ゆ。 竹やぶの靑竹の中ほのぼ…

花輪を於くる言葉

花輪を於くる言葉

花輪を於くる言葉     菊 池 與 志 夫

 あらゆる世の惰眠をむさぼる群

小飜譯家だち――諸君は、半歳の

全生活をあげてエドガァ・アラン・

ポオ・の心魂をかれ自らの心魂と

した、わが兄弟品川力君の情熱の

炬火をあびまさに慚愧すべきであ

る。若し世の偏狭なる人、彼のこ

の宇宙に燦たる譯詩の完成に際し

なほ滿腔の感謝と至上なる讚仰の

花輪とをおくるに吝かなるものあ

らば、僕は

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蘇 生 へ る 魂 「銀の壺」第九號

蘇 生 へ る 魂 「銀の壺」第九號

    □ 蘇 生 へ る 魂       草 川 義 英

いまはただきみばかりなるわが心もえてあはねばかくも悲しむ

ものはみな秋の冷氣にしづもりてかくも淋しきおとづれになく

はろばろとゆくへもわかぬ澄空を見つゝ密林の細道にいる

ゆるされぬ罪をおかせしひと時のわがくちびるを君よせむるな

雨ぐものひくくもおりて密林のおぐらきあなたはや雨のあし

密林のしぐれの昔よなつかしとふたりのこゝろい

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□丘二郎の死を悼む

□丘二郎の死を悼む

□草川 義英

きみがふす夏の敷布のみだれより
わが遠ざくを今はかなしむ

かくわれの遠ざくことを恕らずに
なほ病みはてしきみのみこゝろ

大いなる雲をつかみて死にゆける
きみがゆくゑのはるかなるかも

(函館毎日新聞 大正七年一月十九日 十八日夕刊 一面より)

※丘二郎こと竹岡次郎さんへの追悼歌。

※草川義英は與志夫の函館商業学校時代のペンネーム、同学校の生徒
 を中心に結成された夜光詩社と

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暮 笛 集 (二)

暮 笛 集 (二)

暮笛集 (二)    草川 義英

うつとりと鹿に見入りしこころにて三
笠の山を仰ぎてゐたれ

春日なるこれやいこひのなつかし
さ奈良戀ふ子らに小鹿きて鳴く

春日野に順禮の子といこふれば小
鹿きて鳴く秋の夕暮

はるかなる奈良をかこめる山の峰
霧にぬれつゝ遠ざかる見ゆ

小鹿なく春日の森の旅いこひ日の
ふるままに心つかれぬ

ほの暗き春日野あたり夕さりて鹿
鳴く森に啄木鳥のゐる

秋を寒み雨のは

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暮 笛 集 (一)

暮 笛 集 (一)

暮笛集(一)   草川 義英

午さがり雲ほの見ゆる空のべを鳶の
さかしく飛べるなりけりさ
    □
春日なる朱塗の宮のさびしさは奈良
をいとしむ心となりはつ
    □
午さがり旅の身ながらゆくりなく御
苑の空に舞ふ鳶を見つ
    □
奈良はよし都を遠くきて見たる三笠
の山の綠草よな
    □
ゆくりなく春日の夕のいこひより奈
良のむかしを泣けるなりけり
    □
草笛にゆかしき奈良の偲

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夜光詩社短歌(下)

夜光詩社短歌(下)

夜光詩社短歌(下)

□草川 義英 (一点)

大鳥居石の鳥居を仰ぐさに去年も
見たるあかつきの月

ひとりゐの冬のあらし夜向ふ山を
雪がとぶかや空の明るさ

(函館毎日新聞 大正七年一月八日 七日夕刊 一面より)

※草川義英は與志夫の函館商業学校時代のペンネーム、同学校の生徒
 を中心に結成された夜光詩社という短歌クラブに所属していた。
※[解説]夜光詩社について
#函館毎日新聞 #大正時代

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京の河霧 (B)

京の河霧 (B)

京の河霧 (B)   草 川 義 英

草の穂のさやさやゆれて光る秋小道
に瀧の音ききにけり

遠つきしわがなつかしき初旅に暁空
寒き小村なりけり

夜の空にひそまり見江しやまつづきこ
の暁の雞鳴く空に

   故郷の幻想

あめりかの國旗を被へる轉宅の馬車
のしづかに軋るはつ冬

露西亞人三人ならびてたからかに街
ゆく瞳に見江し秋かな

海燕とぶも床しや春宵のまばゆき雪
のふりいでにけり

京極

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京の河霧 (A)

京の河霧 (A)

 京の河霧 (A)  草 川 義 英

あゝ京の雨夜の街の重き色一夜明く
れば霧たちにけり

京の空あけぼのゝ雲鴨川の瀬々の流
れにつれ走る見ゆ

流れ星一つ流れて京の夜の祇園の空
は雪降る白さ

なみなみと杯酒に映つる弓月を霧た
つ夜に飲む男はも

うすぐらき秋の東雲霧の街京の目覺
めをなぜで嘆かむ

     旅 愁

あゝ旅は明石のはてにつきぬれば破
れし心を抱きかへあむ

夜の雨に松の綠も

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晩秋雲脚記 (下)

晩秋雲脚記 (下)

晩秋雲脚記(下) 夜光詩社 草川 義英

悲しげにまたなつかしく波にうきうれい
もなげに吾が船のいづ

海鳥のうけるも小さししづやけき秋の夕
を悲しみてなく

火にも江てかぎらう□づく陽のごとく雲
の走せゆく/\へしれずに

    奈良の暮れ路に

土の匂もとろける如き夕の森に朱に黑に
浮彫きれし春日を拜せし時、三々伍々に群
れて絕江ず行人を恍惚たらしめし神鹿の床
しき眼を見入りたりし時、秋月の

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晩秋雲脚記 (上)

晩秋雲脚記 (上)

晩秋雲脚記(上) 夜光詩社 草川義英

雨霽れの土の匂もなつかしや旅にあひぬ
る時雨なりけり

旅にきて蛇使ひの眼を見てありぬかはき
し心して見てありぬ

ぐつたりとい寢んねがひもさもしけれ京
の祇園の灯のいろよ

浪路はるかの岩の黑さに月も出よこのま
ゝ秋の夜は更けゆくを

夢に泣きすずろに夢をなげかへし秋のつ
めたき旅のめざめよ

秋の雨淋しくながし土にしみ吾の心を濡
す都を

しらじらと夜の

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暁 天/夜光詩社 保坂 哀鳥

暁 天/夜光詩社 保坂 哀鳥

(函館毎日新聞 大正六年十一月十二日 十一日夕刊
  第一万一千五百九十三號 一面より)

※「坊ちゃんの歌集」
※[解説]夜光詩社について
※草川義英は與志夫の函館商業学校時代のペンネーム、同学校の生徒
 を中心に結成された夜光詩社という短歌クラブに所属していた。
#函館毎日新聞 #短歌 #夜光詩社 #保坂哀鳥 #函館 #大正時代

      函館市中央図書館、国立国会図書館、所蔵

夢

   夢      夜光詩社 草川義英

ゆくりなく眠りさびしむ心にて昔お
もふにた江がたき日よ

雨の音秋の夜の雨ふける思こゝろに
泌みし人も忘れず

君にしてしみじみ偲ぶ雨のおとわが
み思ふにた江がたき夜は

   □病みだれ□

病室にやむ人びとの心なれ野なかし
きりて蟋蟀なくなり

ほそぼそとはぎの毛悲し病むともを
偲びつ泣ける病院の雨よ

   □秋□

大いなるちからも強きひそやかな雲

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□童貞の日よ

□童貞の日よ

□童貞の日よ

麥の穂のはたはたとしてなつかしく
光りし夕よ童貞の日よ

夕しろく古里の空に見ゆる星わが童
貞を偲ぶ淋しさ

たそがれの秋空寒し星のひかりわが
童貞のかよはきあはれ

心すませばあまりに淋し蟋蟀なき秋
空ひそか夕ざりにけり

麥の穂のこの秋小みちひらりひらり
銀紙のごとく光る鍬さき

   □思ひで□

ゆるやけくたけし秋夜のしづ風に星
降りやがて虫鳴きにけり

夏きぬと黍の畑に汗

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秋の思出から

秋の思出から

秋の思出から  夜光詩社 草川 義英

哀鳥さんへ――

た江久しかれんだめくらず暮しゆくわがみ
淋しむ秋木立かな

そとしづむほこりの小さきかれんだをめく
る心も秋の悲しみ

はつ秋日かの友おもひたかぶりて虫ちろち
ろの野にいでしかな

三日三夜の月悲しめる友なればしみじみ思
へこの良き月に

ぬすみ寢も職にしあればといふ友の頬白じ
ろと夜に浮きけり

ぬすみ寢の夜の窓ぬちに悲しかんっし秋たち

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夜 光 貝  (上)

夜 光 貝  (上)

夜 光 貝  (上)

沖の島は世のおち人のいねる土夜はさめざ
めと冷遇に泣く       草川 義英

ほたるぐさぽつちりしぼみ夜となればこの
川邊にをみなごも見ゆ    仝   人

(函館毎日新聞 大正六年九月十三日 
 第一万一千五百三十六號 三面より)
(函館毎日新聞 大正六年九月二十一日
 第一万一千五百四十四號 一面より)

※草川義英は與志夫の函館商業学校時代のペンネーム、同学校の

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ほ た る 草 (ある初夏の思ひ出の斷片)

ほ た る 草 (ある初夏の思ひ出の斷片)

ほ た る 草
(ある初夏の思ひ出の斷片)
              草川義英

谷あひのうす靄も消江月かげに螢とび交ふ
竹やぶの見ゆ。

竹やぶの靑竹の中ほのぼのと明かりに見江
し口紅もうれし。

星あかり螢と光り暁ちかくわが幻に生きな
んとする。

新らしき麻蚊帳の夜をなつかしみねむりし
われに螢とび來くる。

たまさかに眞珠光らしほたるとぶこの田舎
道ゆく女かな。

はつ夏のむしあ

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