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本多議員の処分が、立憲民主党執行部の責任問題になる党規則上の理由について

前回記事の反響

前回の記事「立憲民主党は立憲主義と民主主義を放棄するのか、あるいは本多議員をめぐる報告書の致命的欠陥について」は、公開からわずか3日で300Fav近くいただくなど、大変な反響をいただきました。

かなり強い調子で立憲民主党を批判したので、もっと反発されるかと思ったのですが、予想に反して好意的な反応がほとんどでした。(反応については以下のまとめがありますので、ぜひご参照ください)。

とりわけ、記事の主題である「報告書の致命的欠陥」について、反論らしい反論はほぼありません。むしろ、これまで本多議員の処分に賛成だったが、考えを改めたという内容のリプライを何人かからいただきました。

「執行部の退陣要求」は言い過ぎか?

ただし、最後の8項目の要求については、「言いすぎ」なのではないかという批判・留保がいくつかあります。その8項目は、要約すると、

1 5月10日の会合について録音・録画・議事録を即時公表。
2 上記記録がない場合、発言内容の正確な再構成。
3 報告書の調査・執筆者全員の公開
4 調査・執筆者を全員入れ替えた上での再調査
5 再調査対象の拡大(報告書そのものおよび執行部への)
6 5月10日以降の全録画・録音・議事録の公開
7 上記を拒否する場合、「ファシスト党」への改名
8 それも拒否する場合、立憲民主党執行部全員の退陣

です。とりわけ、「言い過ぎ」だと言うのは、7と8の要求についてです。

「ファシスト党への改名」は、民主主義的な手続きを踏みにじる立憲民主党執行部に対する私なりの皮肉です。なので、「言い過ぎ」と言われましても、私の方から特に反論はありません(笑)。

ただ、8に関しては、なぜ本多議員を処分したら立憲民主党執行部の責任問題になるのか、きちんと筋道を立てて説明しておこうと思います。

調査報告書、2つの論点とその問題

「調査報告書」(※PDF直リンクにつきダウンロード注意)において、本多議員は「立法府の一員としての資質自体が大いに問われる」と「評価」されている訳ですが、その「理由」には2つの論点がありました。

1 5月10日の会合における発言
2 パワーハラスメント疑惑

立憲民主党執行部は、上記の2つの理由によって、本多氏を党員資格停止処分にしようとしているわけです。

しかし、どちらも事実認定において致命的な欠陥があることは、前回私が指摘した通りです。それに加えて、1と2のどちらか(あるいは両方)で本多議員を処分するとすれば、それは執行部による重大な過ちということになるということを、もう少し丁寧に説明したいと思います。

立法段階の議論をもとに議員が処分されてはいけない理由

5月10日の会合における発言については、事実認定の問題として、発言そのものとその文脈が確定していません。さらに、そこで仮に何を議員が言ったとしても、それは処分の対象としてはなりません。なぜならそれは、立法段階の(限界事例にかかる)議論だからです。

立法をめぐる民主主義的議論のプロセスにおいては、より良い(副作用の少ない)法律を練り上げるために、「間違った議論」すら必要であることを、私たちは理解する必要があります。この点については、刑事法学者の野村健太郎さんのツイートや、三春充希さんの記事をぜひ熟読してみてください。

民主主義的な立法プロセスの議論は、通常の意見表明とは異なるのです。殺人罪についての法改正議論においては、殺人犯の立場にたった議論さえも必要になるでしょう。たとえば、死刑が本当に犯罪抑制になるのかどうか議論するときに、犯罪者の心理や認知を理解しようとする必要があります。しかし、犯罪者の立場にたって議論をすることは、発言者が「他人を殺したいという欲望を持っている」ことを意味する訳ではありませんし、「こいつは潜在的殺人犯だから立法府にふさわしくない」と追放することは馬鹿げていますし、そうした愚行は結果的に、杜撰な立法を通じて、犯罪や冤罪の増加を結果的に生み出してしまいかねません。

日本国憲法においても、議会内の発言の自由が全面的に保障されているわけですが、その理由はまさにこの民主主義的な熟議を可能にするためなのです。

第51条 両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。

立憲民主党の綱領にも、「(ア)立憲主義に基づく民主政治」の項目で、次のように書かれています。

私たちは、草の根の声に基づく熟議を大切にしながら、民主政治を守り育てます。(強調は引用者)

立憲民主党執行部が、立法プロセスにおける発言をもとに議員を処分するなら、それは綱領における「立憲主義」「民主主義」を踏みにじる行為です。

パワハラ疑惑による処分の問題について

もう一つのパワハラ疑惑についてです。

この件について、もう一つ致命的な欠陥があることを、先のnoteで私は完全に見落としていました(申し訳ありません)。

それは、疑惑当事者である本多議員に、パワハラについて聞き取り調査を行った形跡が一切確認できないということです。つまり、これは完全な「欠席裁判」なのです。

なぜそうなったのか、理由は容易に想像がつきます。先のnoteで論証したとおり、報告書には事実認定と言えるだけの材料が揃っておらず、印象操作に終始するしかなかったからです。何月何日に本多議員がどのような言動を行ったのかという具体的な論点がなければ、「加害当事者」に聞き取りしようがありません。

もちろん、これら報告書の致命的な欠陥は、第一義的には第三者委員会の責任です。しかし、こうした事実なき印象操作と本人による聞き取り調査を怠った報告書に基づいて、立憲民主党が本多議員に処分を下すとなれば、これは立憲民主党執行部の責任問題になります。

なぜなら、常任幹事会の処分手続について取り決めた「立憲民主党倫理規則」の第5条は、次のように定められているからです。

幹事長は、倫理規範に反する行為・言動に関する措置について決定しまたは処分について発議する場合、公正な調査に基づいて事実を確認するとともに、措置又は処分の対象となる党員の弁明を聴取する機会を確保するなど、その権利の擁護に配慮しなければならない。(強調は引用者)

倫理規則を読めばわかるように、立憲民主党においては、党員の処分はその議員が所属する機関の幹事長が決定することになっています。

しかしそれと同時に、幹事長にも「公正な調査に基づいた事実確認」および「党員の弁明を聴取する機会を確保する」などの「権利の擁護」に対する義務が発生するのです。

仮に今後、不公正な調査における曖昧な事実確認、および弁明すら行わせない欠席裁判を行うならば、幹事長は、立憲民主党が定めた義務を怠ったことになるでしょう。

これは、党員の倫理の遵守について定めた、立憲民主党規約第48条の対象となりえます。

1.党員は、政治倫理に反する行為、党の名誉及び信頼を傷つける行為、ならびに本規約及び党の諸規則に違反する行為を行ってはならない。

では、仮に本多議員に対する処分が不当に行われるならば、その行為は上記の規定よりどうなるのか、確認してみましょう。

・立法段階における議論に基づく処分は政治倫理に反します。

・致命的な欠陥をいくつも抱えた報告書を受理・公表し、それに基づいた処分を行う行為は、党の名誉及び信頼を傷つける行為です。

・「被疑者」本人に対する聞き取り調査を怠った「欠席裁判」は、「党の諸規則に違反する行為」となるでしょう。

これで「数え役満」です(笑)。

立憲民主党執行部へ、もう一つのお願い

民主主義の大原則の一つは、法の下での平等です。立憲民主党が民主主義的な政党である限りにおいて、不透明な事実認定と「欠席裁判」によって本多議員に対する処分を行うなら、重大な規則違反によって幹事長以下執行部も処分対象となるはずです。

それさえ出来ないならば、やはり立憲民主党は立憲主義も民主主義も放棄したことになるので、やはり「ファシスト党」に改名するべき、という結論になります(笑)。

とはいっても、まだ正式に処分が下ったわけではありません。

まだ引き返せます。

立憲民主党執行部および関係者の皆様におかれましては、処分について、立憲主義と民主主義に基づいた理性的な判断をいただければと、私は願って已みません。

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