AIグラファーぐらいの呼び名が適当なんじゃないか
変な造語を入れて、政治っぽいタイトルにしてみました。
AI絵生成マンの地位向上を求める運動(?)に取り組む気はないです。
当方のアイデンティティは「ゲーム作家」で、AI絵は素材として作っています。
ただ、ゲーム制作に本格的にAIイラストを使ってきた経験から、有益な知見がたまった気がしたので、コミュニティに共有したいなと思ったのでした。
AI絵を使う
AI絵と聞いて思い浮かぶのは、こういう物じゃないでしょうか。
さっき10分ぐらいで生成しました。
こういう絵をゲームとかに使いたくなるかもしれませんが、意外と使いづらいと思います。
ポーズが決まってる絵だけでは成り立たないからですね。
実際にゲームに使う絵の例です。
作成するのに、2時間ぐらいかかりました。
これを神絵師に発注したら、サブ垢で「心を無にした」とか呟かれそうですね。
ましてリテイクしたら関係が悪化して、2週間ぐらい連絡がつかなくなるかもしれません。
「人間がやりたがらない仕事をAIがやってくれる」という、ヒトと人工知能の理想的な関係が起こりうるのは面白いと思いました。
実務で使っているとそういうケースに遭遇することもあります。
AI絵なんて誰が生成しても同じだろ?
私もそう思っていました。
一通り生成ノウハウを確立した後に、プロンプト、シード値、各種パラメータをExcelにまとめました。
作業フローはWordで作成してPDF化してチームで共有しました。
で、他の人が作ると、何かが違う。
なんかこうビックリするぐらい違うんですよ。
似たような構図で人間の絵を生成する場合でさえ、作業者の「人間観」のような物が出てしまいます。
あなたは初めて会った相手を見て、何に注目しますか?
表情?
社会的地位を示す服装などの記号?
ポーズ?
善良そうか、悪人っぽいか?
チョロそうか?
優しい? 頭良さそう? 陰キャ?
暴力の気配とか・・・?
ポートレイト写真を見て、何に着目するか。
被写体はリラックスしているか?
被写体が撮影者をどう思っているか?
人間という物体には無数の情報があります。
表情だけでも、好意、嫌悪、無関心、恐怖、尊敬、軽視、余裕、といったことが読み取れます。
人間を見る時、人はそれぞれ2,3個のパラメータを極端に重視していて、他をあらかた無視しているんじゃないかという気がしました。
実はみんな、同じ人間の別々の部分を見ている。
見る人の今までの人生経験が、重視するパラメータに出てしまうんですね。
暴力的な環境で育てば、相手の顔色を伺うようになるかもしれない。
階級が固定された歴史ある地域で育てば、服装などの細部が気になるかもしれない。腕時計とか。靴とか。
似たような経済状況の人々が暮らす新興住宅地で育てば、社会的地位を示す記号に無頓着になるかもしれない。
モテない人生を送ってきたならば、異性がこちらを見ている目に映る関心の有無がとても気になってしまうかもしれない。
安全な環境で愛されて育ったなら、相手の表情に浮かんだ悪に気づかないかもしれない。
(プロ格闘ゲーマーのウメハラさんが「俺は今までの人生でヤバい奴といっぱい関わってきたから嘘つきは顔でわかる」というようなことを配信で言っていました。さすがに静止画では無理だと思いますが、対面でちょっと話せば彼にはわかるのでしょうね)
で、そういう見方の偏りが、AI生成絵の選び方に出ます。
もしかすると写真に似ているかもしれません。
同じニコンのカメラとレンズを持って、絞りや感度も合わせて、同じ被写体を撮るように複数の写真家に依頼したら、全然違う作品が上がってくるのではないでしょうか。
フォトグラファーとして作家性を確立して活躍されている方々は、着目するポイントに関してかなり尖った感性を持っているように思われます。
ともあれAI絵生成マンの地位向上とか、AI絵もアートだ(?)、みたいな話は当方にとってシリアスではないです。
単に「一本のゲームごとにAI絵生成作業を行う人間を一人だけに統一したほうが良い」という結論に達しました。
構図
ところでトイレの絵になぜ2時間もかかるのかと思った方もいたでしょう。
「写真をAIに食わせてイラスト調にしただけだろ?」
うーん。そんな都合のいい写真はないです。
あっても、そのまま使ったら著作権侵害になるものばかりです。
自分で撮るのは、なかなか大変です。
もちろん世の中にない物なら自作しますが。
ネットの写真で安全なのは pexels と ぱくたそ ぐらいでしょうか。
二つのサイトにはいつも助けられています。
いずれにしても、AI絵に素材を食わせる前にも後にも、相当なPhotoshopでの作業が発生します。
AI絵が著作権侵害になるかどうかは、人間の絵と同様の基準で判断されることになっています。
文化庁の見解では学習の過程は問われませんし、アメリカでも少し前に、Stablity AIやMidJourneyなどを3人のアーティストが訴えて却下された裁判で、日本の文化庁と似たような見解が出されました。
判事いわく「貴方の著作物とAI生成物の間に類似性が認められない以上は著作権侵害の主張は難しいのではないか」とのこと。(英語記事)
つまり「人間の絵師が描いた絵だったらトレースや絵柄のパクリを指摘されるか」という基準で判断して良さそうです。
(さいとうなおき先生が弁護士さんを呼んでトレパクの基準を解説した神動画を貼ろうとしたら、チャンネルが一度BANされて再出発していたことを知り衝撃を受けました。超優良神チャンネルなのに。目当ての動画はまだ新チャンネルに再アップロードされていませんでした・・・)
要するに、類似性と依拠性という二つの要件に当てはまるかで判断すればいいのです。
それらを指摘されない範囲に仕上げる限り、著作権がある画像を参考にしても良いことになります。
アニメーションスタジオとかでも、資料を見ながら絵を描いたりしてるんじゃないでしょうか。
学習に利用するというのは、法的にはそれと同じ扱いになっています。
最終的にはパクリではないぐらいに仕上げればOKです。
で、構図です。
伝えたいことがちゃんと伝わる構図を自分で作らなければなりません。
構図を考えるというのは、絵を描くスキルの一つでしょう。
そのへんは、普通に求められてきます。
マスピ(master piece)顔という言葉は界隈に定着してきましたが、AIを触っている感触としてマスピ構図もあります。
しかしゲームの素材を作る以上、マスピ構図だけでは足りません。
伝えるべきことが「いいねを押せ」ではなく、もっと多岐に渡るからですね。
伝わる構図を工夫していくしかありませんが、AIはマスピ構図以外がだいたい苦手だったりします。
AIが苦手な物1:手
一番上に「よくあるAI絵」とした貼った生成物も手は変です。
絵師なら、こういう微妙なAI絵を元にして
[1] 手だけざっくり描き直す
[2] 直した絵をもう一度AIに食わせる
という方法で、良い感じに仕上げることができます。
なんだかんだAIも、ど素人と玄人の差をなくしてしまうわけではなく、描くスキルを持った人間が有利だったりはします。
まあこの問題については未だに「手を描かない」というのが最適解です。(どうにもならないカットもありますが)
AIが苦手な物2:モブ
たとえば以下の3人のキャラがいたとします。
世界観はライトなファンタジーです。
・善良だが世間知らずのお姫様
・秘められた力を持つ侍従の女(お姫様と同年代、主人公)
・馬車の御者、若い素直な男
人間の絵師に依頼すれば、いい感じに描き分けてくれるでしょう。
ところがAIで3人のキャラを別々に出力するとしたら、大変なことになります。
「誰が主人公なんだ?」って絵が出てくるのは間違いないです。
主人公らしさとは何か?
モブ感とは何か?
こういった問いの答えは未だに十分に言語化されておらず、自分の頭で考えるとなんだか哲学じみてきます。
一枚だけ絵を出す分には破綻しないけど、同じ世界観の絵をたくさん出すとおかしくなってくるケースは他にも無数にあるかと思います。
ゲームに組み込むにあたって、何をどう妥協して表現するか、考えなければなりません。
AIが苦手な物3:アンチ・ステレオタイプ
「髪を金髪に染めたチャラいにーちゃん」というのは、そこまで突飛なモチーフではないでしょう。
現代の都市が舞台なら、普通に登場してきそうなキャラです。
ところが、金髪にすると、白人になります。
・瞳が青くなる
・眉毛も金になる
・顎がゴツくなる
・肩の骨格もゴツくなる
「金髪」を指定するだけで上記の事象が発生します。
「染めた金髪」「アジア人男性」「黒い眉毛」みたいなプロンプトをぶつけても、ネガティブプロンプトを使用しても、金髪の効果が強すぎる。
プロンプト同士が矛盾していると顔面が崩壊しがちになって、効率がさらに悪化します。
最終的にどうにかできた、このなにげない絵が奇跡の一枚だったりします。
ちなみに髪色にはいろいろなステレオタイプが設定されています。
男性なら戦隊ヒーローのその色のキャラを想起させる要素が加わってきます。
赤が主人公で黄色がトリックスターみたいな感じです。
女性は、まどマギとかプリキュアとかですかね。
他のパラメータが全て同じでも、髪の色だけで表情やポーズがそれっぽく変わってきて、ステレオタイプの影響力を実感します。
定石から外れた設定にすると、苦戦することになります。
とはいえ、一部だけ人間の絵師に頼むとか、AIが描いた絵を手直ししてくれ、という依頼は非常に嫌がられてしまうので、どうにか自分自身や身内でやれる範囲で工夫して問題を解決しなければなりません。
AI絵をXにポストしないほうが良い理由
控えめに言っても、AI絵を使っている人間は、絵師のコミュニティに大きな恩があります。
絵師の界隈がこれからも栄えていくことを願っています。
たぶん、絵師にはふんわりと以下のようなキャリアパスがあるみたいなんですね。
上手くなる
SNSで人気になる
企業から依頼が来る
何かが起きて食えるようになる
で、「SNSで人気になる」というのが曲者で、一瞬で好意が伝わる消化の良い作品が拡散されやすい、といった傾向があるんですね。(ここにもさいとうなおき先生の過去動画を貼りたかった)
AIがそういう絵を得意としていたのが時代の不幸でした。
一枚勝負、一瞬の印象で勝負するとAIは結構いけてしまいます。
なので(ちゃんと棲み分けもせずに)AI絵を投稿すると、絵師のキャリアパスを邪魔してしまうんですね。
AI絵の出来が多少良くても、SNSで人気になって、企業から依頼が来て、食えるようになる、なんてことは起きないでしょう。
それは絵師に用意された道であって、AI絵生成マンの物ではないです。
邪魔してしまうだけで何も生まれないのは意味がないですね。
上に長々と書いた通り、世界観に沿って整合性のある絵をたくさん出していくとなるとAIはかなりきつい。
にも関わらず、AIは絵師の主戦場であるSNSの一枚勝負を得意としているために、余計な害をなしてしまう。
ぶっちゃけ過大評価もされていると思いますね。
至れり尽くせり
この記事に貼った一連の画像は「至れり尽くせり」という開発中のゲームで使っています。
ファミ通.comで紹介していただいたので、よろしければ記事を読んでみてください。
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