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「俺がやるんだ!!」 (リーグ第12節・アビスパ福岡戦:1-1)

割引あり

 試合後のミックスゾーン。
両チームを通じて最後に出てきた選手が、山田新だった。

この試合で、もっともインパクトを残したストライカーである。

 0-0で迎えた74分。
センターサークル付近で井上聖也のパスをうまくカットして奪った瞬間、彼は前を向き、ゴールに向かってドリブルを開始した。

 ただし、アビスパ福岡の相手は3人残っている。味方のサポートはなく、1対3だ。横にいた松岡大起が体当たりで止めにくる。ファウル覚悟のコンタクトだったが、山田は逆に弾き飛ばし、ゴールに一直線である。

 残る福岡守備陣は、奈良竜樹と田代雅也の2人。奈良が縦のコースを切って間合いを取ることでディレイさせ、山田はスピードを減速。その時間で井上聖也が帰陣してくる。エリア内で囲まれたかに思えたが、カットインしてシュートを打つと見せかけて、冷静な切り返しで2人をタックルで転がした。最後は、飛び出してきたGK永石拓海の頭上を抜くシュートでゴールネットに突き刺した。

 とてつもない一撃。
ゴール裏に駆けつけていたサポーターがワッと揺れる光景が目に入る。ベンチからメンバーが飛び出してくる。

 この3日前、佐々木旭が等々力で決めたドリブルゴールも、間違いなくゴラッソだった。このときのシチュエーションに関して言えば、対面にいた浦和のデイフェンダーが横にいたマルシーニョに意識を向けたことで目の前の道がぽっかりと空き、そのまま持ち込んでシュートを打って決めた形だ。

 一方で、この山田新のゴールは道を切り開いて決めた。相手は何人も立ち塞がっていたが、目の前の壁をぶち破って、ゴールまでこじ開けた。自ら突き進んでねじ込む。そんな強烈な意志を感じるゴールだった。

 遠方のアウェイゲームだったため、取材にきていた川崎側の記者は少ない。
ミックスゾーンに現れた山田新を呼び止めて自分が尋ねたのは、井上聖也からボールを奪った時にまず何を思ったのか、だった。自らの脳裏にある記憶を反芻しながら、山田は振り返り始める。

「(ボールを奪ったのは)誰からかは分からないですけど、上手く前に入れたのでシュートまでは必ず行こうと思っていました。(ゴール前で)右足で持ち直したんですけど、2人が食いついているのも見えたので、切り返して最後も冷静に打てたと思います」

 ボールを奪った瞬間、すでに自分1人でシュートまで行こうと決めていたとは・・・思わず、そこを聞き返す。

——ボールを奪った時からパスの選択肢はなくて、シュートまで行くと決めていた?

「そうですね。受けた瞬間からシュートまで行こうと考えていたので。最後は落ち着いて決められたと思います」

 フィニッシュワークの直前に見せた、切り返しも実に冷静だった。奈良竜樹と井上聖也があそこで身体を張る動作を読んでいたかのように切り返し、スナイパーのように仕留めた。練習の成果だと本人は胸を張る。

「あれは練習が出たかなと思います。普段からああいう切り返しからのシュートをミツさん(戸田光洋コーチ)とやっているので。2枚食いついたのも見えたので、冷静に切り返せたのだと思います」

 チームが苦しいときにゴールを決める。
J1通算140ゴールを決めた小林悠が合言葉のように口にしていたフレーズである。その仕事をここで山田新がやり遂げた。

 ゴールネットを揺らしたストライカーは、ユニフォームの左胸にあるエンブレムを、ギュッと握り締める仕草をしている。

そして、ベンチに向かって走っていた。ゴールを決めたらベンチに行って喜ぶことを、バフェティンビ・ゴミスと試合前に話していたからだった。

 ただ、猛烈な勢いで飛び出して先に抱擁してきたのはGK早坂勇希。
この2試合連続でベンチ入りしているプロの3年目GKは、山田にとっては同じフロンターレユースの先輩であり、桐蔭横浜大学でも苦楽を共にした先輩である。ただそこに触れる山田の口調はつれない。

「早坂さんとは特に(約束は)無かったですけど、前回(佐々木旭がゴールを決めた時)も早かったですし、準備してるんじゃないかなと思います」

 わざと素っ気なく話す口調に、記者陣から笑いが起きていた。

※5月8日に後日取材しました。鬼木監督の囲み取材では、この福岡戦で起きた現象や采配、改善のアプローチなどをいろいろなポイントを話してくれました。3つのポイントで約6000文字を追記してます。貴重なお話なので、ぜひどうぞ。

■(※追記1:5月8日):「右足にマークがいても右足につければボールは通るけど、そういう意識がないと『もう出せない』と思って、今度は自分で何とかしようとする」(鬼木監督)。目を揃えるだけでは解決しない。福岡戦で頻発したボールロスト問題の根深さ。

■(※追記2:5月8日):「点が入ったタイミングになったので、選手はどう思うかなっていうのは多少ありました」(鬼木監督)。守りに入るためではなかった、先制直後のジェジエウ投入の狙いにあったもの。

■(※追記3:5月8日):「ちょっとうまくいってない時の、何がうまくいってないかっていうのをわかる人。もしくは、わかっててもそれを伝えて共有できる人っていうのは必要かもしれないですね」(鬼木監督)。「ハーフタイムを待つな!明日を待つな!」と選手に叫んでいたペップ。ピッチで問題が起きた時に、選手同士でどう解決すべきか。指揮官の見解は?


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