雑文(15)「義勇兵」

 志を共にした仲間が頭を撃ち抜かれる光景を僕はどれほど目撃したか、昨夜アドレス交換した仲間が横で項垂れ、頭部を正確に撃ち抜かれたのを確かめると僕の頭は麻痺した。瓦礫に身を隠して、支給された拳銃を両手で握りしめる僕は、硝煙や土埃で影すら見えない市街地に配備され、ロシア軍に応戦するウクライナ軍に加勢してある。水筒は空だった。逆さに振っても水滴すら落ちない。ウクライナ大使館の義勇兵募集に志願した僕は隣国のポーランドを経由して国境から陸路で首都キエフ近くのウクライナ軍の宿舎に招かれた。日本からウクライナ人の通訳の男も一緒だったが、民間人だからかウクライナ軍兵士に連れられ、どこかに消えた。義勇兵のリーダーは元自衛官の男で的確な統率力を発揮して70名の義勇兵を束ね、翌日の軍事作戦を皆に伝え、持ち場の役割を与えた。ピースを吸う。煙を吐いた。味がしない。気休め程度だ。市街戦は日に日に激化し、ロシア軍とウクライナ軍の攻防は熾烈を極め、外国人義勇兵にも多くの犠牲が出た。日夜銃声が鳴り響き、交代で警備するが、宿舎に戻っても目が冴えて中々寝付けず、気付けば交代の時間だ。幸か不幸か、未だにロシア兵と遭遇はない。拳銃を構えて引き金を引き、撃ち殺さなければ、でなければ僕が撃ち殺される。深呼吸し、ピースを咥えようとしたらピースが地面に落ちた。ロシア軍兵士が斜め上から銃口を僕に向け、なにやら喋る。早口でなにを発したか聞き取れない。僕は拳銃を握ったままゆっくり腰をあげ、拳銃を捨てて両手を挙げようとしたら、背後で凄まじい爆発が起こり、驚いたロシア軍兵士が拳銃を手から滑らせ地面に落とした。すかさず僕は拳銃を相手に向ける。若い男だった。二十代前半くらいか。垢抜けない青年だった。大学生の息子と同じ年頃かと僕は思った。拳銃の引き金を引こうした。だが、指が鉛みたいに固まり動かない。動け動けと念じるが動く気配すらない。ロシア兵の若者と大学生の息子の顔が被る。撃て撃てと念じるが、やはり撃てない。彼の後頭部に銃口が突き立てられる。怯える若いロシア兵の顔の後ろから現れたのは、リーダーだった。目配らせし僕を後退させると、肯いて僕の足を止め、リーダーは無表情を崩さずに、拳銃の引き金を引いた。

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