こし・いたお
削って削って、磨いて磨いて仕上げた140字小説です。
10秒足らずで読める物語にて、爽快な落ちをお届けします。
散文です
隙間時間にサクッと読めて、落ちを楽しめるのがショートショートの魅力です。
数万字に及ぶ小説を書いたのは「不死者の決戦場」が初めてです。創作初期の作品です。文字数が多くなると誤字や脱字が多発します。僕だけだと数百字の短い物語でさえ、誤字が発生しても気付けないことがあります。ましてや数万字ともなればもう…そこで力を貸してくれたのがMさんでした。Mさんは続編の「凍てつく魂の地下迷宮」でも力を貸してくれました。二作品ともMさんの力なしでは未完成のままだったと思います。Mさん、その節は大変お世話になりました!!
「特技はありますか?」それは私がお見合いの時にした夫への質問。「肩だけは強いんです。遠投なら誰にも負けません。役に立ったことは一度もないですけどね」そう言って笑った夫の顔が一周忌に蘇り泣いた。あの時、夫と共に川で流された娘は岸へと戻れた。夫が最後の力を振り絞り、投げてくれたから。
友人は職場の人間関係に悩み心を病んでいた。そこへ追い討ちをかけた仕事中の事故。友人は片腕を失った。物作りが好きだった友人は退院してからずっと引きこもっているという。ある日、心配した僕は友人の家を訪ねた。「ほら、フック船長みたいだろ?こっちはロケットパンチ」義手作りにハマっていた。
「夢のあるプレゼントをありがとう」それは私が生前の夫に伝えた最後の言葉。冷え込みの厳しい夜の高原。肩を寄せ合い満月を眺めていた。私と幼い娘を残し旅立った無念は察するに余りある。数年後、生活に困窮する私に富裕層から連絡があった。「あなたの所有する月の土地を私に売ってくれませんか?」
「またゲームしてたの?仕事は探さないの?」「僕には夢があってね、永久機関を作りたいんだ。理論上は可能さ」「それはつまり?」「君が出勤し、僕は疲れて帰ってきた君の愚痴を聞く。家事は家政婦ロボットがする。僕を含めて世の中のヒモ男たちは、そんな永久機関を夢見ているんだ」「出てって!!」
GW前日、僕は束縛し過ぎる妻と喧嘩した。翌日、僕は電車を乗り継ぎ一人で遠くまでやってきた。数日かけ琵琶湖を徒歩で一周する為に。早朝から夕方まで歩き続け、貴重な連休は自分と向き合う時間になった。孤独は人を哲学者にする。ふと、妻のことが気になり位置情報共有アプリを開くと、後方に妻が…
「僕1人?お母さんは?」「……」私は早朝から6時間かけ登頂した。すでに太陽は傾き始めている。頂上には5歳くらいの男の子が1人で座っていた。軽装でリュックも背負ってない。「こんにちはー」中年男性が登ってきた。男の子はもういない…中年男性は男の子がいた場所に花を供えると手を合わせた。
僕は間違い探しをしながら生きてきた。でも何か違う気がしていた。階段に蹲る低血糖の青年。声を掛けジュースを買ってきた人を見た。止まない雨の中、困り顔の少女が民家の軒下に立っている。少女の前に車が止まった。「返さなくていいから」と傘を渡して走り去る人を見た。本当に探したかったのは…。
「早まるな!銃を下ろせ…」「お世話になりました。先輩が見届け人で嬉しいです。何かに取り憑かれたような薄ら笑いを浮かべた僕は、勤務中の交番で銃口を自分のこめかみに当てた。「サヨナラ…」僕はじわりじわりと近づいてくる先輩の前で引き金を引いた。「カチン!」「先輩……弾を抜いたんですね」
「作家の道は諦めようと思うんだ。僕には無理があったよ。子どもの頃は想像したことを自分が見たかのように語る嘘つきだった。よく学校サボって本屋で立ち読みしてたな。みんなが参考書読んでる時に冒険物語を読んでた」「お前…気づいてなかったのか?」「何を?」「それぜんぶ作家になる伏線だよ!」
昔は私たち姉妹を抱っこしながら重たい荷物も担いだ父。定年後は腰痛が悪化し自身を支えるのがやっとだ。最近は違うものを担ぎ始めたと母はいう。久しぶりに帰省した私が心配して父の部屋を覗くと、沢山の置き物があった。七福神、起き上がり小法師、扇子、招き猫…。腰の痛い父は縁起を担いでいた。
僕は夢の中で誰かに励まされていた。「社畜だから小説を書く余裕がない?顔を見ればわかるよ。苦しいんだろ?だったらその苦しみを物語にしてみろよ!君が主人公の物語!耐えて耐えて、最後に花咲かせる不器用な男の物語をさ!」その日は仕事が忙しいとわかっていた。なのに自然と浮かんだ不敵な笑み…
「手伝おうか?」昔より太っていて最初は誰かわからなかった。車がぬかるみに嵌まる窮地に現れた古い友人、救世主だ!「待ってろ、同じ部屋の仲間も呼んでくる」「助かる!脱出できたら手伝ってくれたみんなに焼肉奢るよ」「よっしゃ!!」貫禄のある男たちの活躍で脱出した。力士たちの活躍で……。
私はチケットを求める行列にいた。ひと月待ってやっと私の番がきた。「どの国をお求めですか?」「日本です!」「無理ですね…貧困で治安も悪い国か、独裁者が恐怖によって支配する国のチケットしか残ってないです。日本は人気な上に出生率も下がっていますので転生希望者の中からクジ引きになります」
僕が車で山道を走っていると(事故多発)の看板と(警笛鳴らせ)の標識が見えてきた。この辺りは霧が発生しやすい上に急カーブの連続。僕は路肩に供えられた花を横目に慎重にハンドルを操作した。「動物が飛び出してくるから気をつけて!私はそれで…」僕はクラクションを鳴らして声をかき消した。
発掘調査員の僕は助手である妻と共に高度な古代文明の痕跡を追っていた。そんなある日、ヒマラヤ山脈の地下で広大な古代都市を発見した。遺跡の壁を照らしながら妻が言う。「わぁ!凄い!昔は地下に人工の太陽でもあったのかしら」妻は光る目で壁を照らしながら、まるで幽霊のように壁をすり抜けた…。
私の友人が夫と営む買取専門店へやってきた。要らないものは何でもここへ売りにくる。鑑定は友人の担当だ。ダメ夫と噂の旦那は奥でゲームをしているらしい。無数の偽物を見破ってきた目利きの鋭い友人に「昔に戻れるなら何がしたい?」と聞くと、友人は店の奥を睨みながら「鑑定をやり直す」と呟いた。