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八角と手羽元と焼酎と






うぇもうだめじゃん…?
冷凍してあった手羽元が解凍されて幾日かたっている。ぬめりや異常な臭みはないが、これはさすがに厳しいのではと思った。
解凍を始めた日を忘れてしまったから。

「え、このくらいなら大丈夫でしょ」

キッチンに立った彼女はニンニクと生姜と白ネギの青い部分を焦がしていく。
その2本だけあった手羽元を軽く焼いて焼酎を入れた。

「焼酎?」
「日本酒なかったから」

手短に言うとそこからアルコールを飛ばして水をいれて煮込んでいく。
終わりないほど出てくるアクをしばらく取り続けている。
私がゲームを一周終わらせるくらいするといい香りがしてきた。

「うわ、いい香り」
「八角。鶏の臭みはアクが出た分で抜けたから、中華風のスープにする。後でお味噌をいれたらコクも出るからおかずにもなる。すいかの皮があったからいれたの」
「スイカの皮?」
「食べられるんだって。おいしいよ」

彼女は一つも表情を変えないが、おいしいよと言ったとき少し子供みたいに目がキラキラ輝いていた。あぁ、そうか。

「丁寧にアクを取れば、臭みはなくなる。何時間でも付き合ってあげればいいけど、あんまりとり過ぎちゃうと旨みもなくなっちゃうから」

いつもの彼女が言う。
そうか。
臭みを取り除けば旨みなのか。
妙に腑に落ちた。



私は久しぶりに会う友人に自分のダイジェスト版をお送りしているのだと思う。
彼らが知っていると思われる、私がこうであったと記憶している、そんな自分像を。
みんなそうなのかしらね。
そりゃそうか。
みんないろんな人とそうして生きているのだものね。
味覚もそうなんだろうか。
これが入っているからこんな味だろう、とか。
今まで食べたそれのダイジェスト版を思い浮かべて、ジャッジしてるんだろうな。
改めて思うと、面白い。
正解も本当もないんだね。

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