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Roman

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すこし長いもの。
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冬の切れ端が膝の間を滑る
解け残った白のなかで
胸元の花のコサージュが不機嫌に紅い

雪国の桜は3月に咲かない

点滴のように送り込まれた1095日
その、最後の一滴
いつも通り空は鉛色で
彼女たちにとって、それは赦しがたい罪らしい
蛍光カラーのピンクで飾り立てられた"晴れの日"がしつこく目を焼くので
それで泣いたら
「…ちゃん、ずっと友達だからね!」
生き別れた家族のように抱きしめられた

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万年筆

海を描きたくて、万年筆を買った。
しらじらしく冷たいそれをポケットの中で転がしながら、夜と朝の境目を歩く。
"ぼう、…ぼう"

氷の色をした36.5℃が冬を編む紺色に分け入って、消える。
その断末魔は微かすぎて
月明りの啜り泣きにすら、かき消された。

海は遠い。夜明け前は特に。
ここまでは急いで来たが、これより先はそうもいかない。
寝息をたてる心臓を起こさぬよう
しずかに
しずかに歩かねば

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