畑中摩美の新曲「あきらめない」レビュー ~大都会東京の光と影~

 シンガーソングライター畑中摩美がnoteで先月発表した新曲「あきらめない」を聴いていて、学生時代に上京した知人を思い出した。

畑中摩美「あきらめない」

 その知人は、私の高校の同級生で、東京の大学に入って地方から上京し、そのまま東京の会社に就職した。
 私は、ずっと地方暮らし。旅行や出張で東京に行ったのはたったの5回だけなのだが、知人は、ずっと東京に住み続けている。

 その知人が就職して数年たった頃、「東京は、本当に砂漠のようだ」と嘆いていたのが強く印象に残っている。

 東京で暮らしても働いてもいない私には知らない世界。

 私が東京に持つイメージは「欲望の街」。先日、YouTubeで見たヒカルの動画で、上京した遊楽舎店長が持った印象とほぼ同じだ。

 そう。東京の表の世界は、華やかで光り輝いている。
 私たちがメディアで目にしたり、たまに訪れて観るのは、そういった東京の表の世界だけである。
 そこは、ピラミッドの頂上の世界なのだ。

 しかし、実際は、大多数の人々がその下に群がっている。
 欲望の街であるがゆえに、ピラミッドの頂上に行けない人々にとっては、砂漠の世界が広がっているのだ。

 「東京砂漠」。1976年に内山田洋とクール・ファイブが大ヒットさせた歌のタイトルだ。
 私の知人は、きっとこの歌が描く東京に、東京で暮らす一般庶民の現実を感じ取ったのだろう。

 ピラミッドの頂上に届かない人々にとって、東京は、人間関係の乾いた街だ。
 様々な欲望が渦巻き、他人を蹴落として上に立とうとする人々たちが集う空虚なビル街。
 そんな中で、もがけばもがくほど自らが干からびていく日々が、あたかも砂漠で暮らしているように思えるのだろう。

 畑中摩美の描く「あきらめない」は、まさにそんな東京での音楽生活を描いた歌だ。
 ミュージシャンとしての成功を夢見て上京し、メジャーデビューを果たしたものの、ピラミッドの頂上に登り詰めるのは容易ではない。
 努力を重ねても、足踏みしているようにしか感じない現実。
 そんな悶々とした苦悩と孤独が切ない歌声と共に響いてくる。

 きっと、都会に憧れて都会に弾き出された人々にとっては、いたく共感できるにちがいない。

 それでも、明るい未来を信じて、自らの夢を追い続ける主人公。サビではそんな芯の強さが感じられる。
 きっと、現在のシンガーソングライター畑中摩美を作り上げたは、そのサビと大サビに描かれた想いだ。

 東京で成功することだけが人生の成功ではない。
 畑中摩美は、東京で10年間活動した後、地元浜松で東京以上に輝いた音楽生活を送っている。
 価値観が多様化するネット社会の中では特に、東京に固執せず、自らを表現することをあきらめてはならない。
 「あきらめない」は、そんな姿勢の大切さを教えてくれる歌だ。

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