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ルーブルにいった。広かった。だれもいない部屋で係員が寝ている。けいたいもみている。給料がふつうよりも高い。

家のない男の家が、朝はあった。帰りにはなくなっていた。男は救急車に乗せられるところだった。名前をしられている。たぶんしられていない。よっぱらっているときに話した。寒さで壊死している男の足がきられる。寒さなのか、動かないからかわからない。へんな形のくつを履き、うごかすのに重たく、痛い。うえしたの歯を合わせ、息を吸いながらでしか、足を動かせない。足をみせたい。ない足を見せようと、歯を合わせている。黒い歯。からだがこわれたら、ごみになる。建築現場のこわれた道具とおなじで、道端に捨てられている。捨てられているあいだじゅう、しかしこわれていないところがある。たばこがほしい、酒がほしい、ケンタッキーをたべたい、ろうそくに火をつけたい。みちばたの家のまえに、自分の写真をかざる。あなたの写真を撮ってもよいですか。ああ、どうぞ。3日後に写真をもらい、だれかが写真立てをもってくる。毎日だれもがやってきて、毎日だれもがやってこない。だれかたちが、家の前におかれたいすに座り、話をする。救急車に乗ってやってきた人間は、車椅子のまえでひざまずき、話をしている。いすに座っただれかたちは、ちいさな分け前をわたす。すこしずつ家が大きくなっていた、今日それがなくなる。だれかたちはうれしい。だれかたちは悲しかった。だれかたちがただの道になった道で、男のにおいを感じる。毛糸のにおい。

男のいなくなったすぐそばで、鳩がうらがえしでしんでいた。腹の羽がやわらかかった。

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