大寒波とアキネーター
大寒波が来るとは聞いていましたけど、こんなやべぇのが来るんですね。もしかして松岡修造って今、月とかにいるんですか。
路面は凍ってるわ、交通機関は止まるわで、私の勤める王道ブラック企業も、今日は震え上がるほどの大忙しだったんですよ。出社してすぐに「なんで部品来てないんや!!」と部長がブチギレて、1時間立たされてからのスタートですから、まぁー世も末でございますよ。
社内外から電話の問い合わせも多く、そんな日に限って色んなミスが発覚して、挙句部下が体調不良で早退する始末。冗談抜きで、忙しさで目がまわるような状態だったんですよ。
そんな時でした。
「犬井さん!2番、〇〇製作所の田村様からお電話です!」
〇〇製作所の田村さん。うちの仕入先ではあるが、大体用事もないのにかけてきて、ただただ話の長いおじいちゃんだ。ただ謎に僕のことを気に入っていて、一度「インターネットエクスプローラが使えない」という連絡が来た事がある。その時僕は、「使えます!」と言って電話を切った。
....とりあえず、「会議中」とでも言っといてもらおう。
そう思って、声をする方を振り返ると、さっきまで立っていたであろう事務員の女の子は、もう座っている。しかも他の電話を取っていて、田村さんに会議中だと伝えてもらえる状態ではない。
詰んだ。出るしかない状態が、出来上がってしまっている。
「あっ...もしもし...犬井さん?」
電話に出ると、間抜けな田村さんの声。
そりゃそうやろ。あんたが呼んだんや。
「あのね...えーっとね。あのー...なんや...」
知らん。俺から掛けてない。
「えっと...あの...ほれ...あのー...」
頼む。
ジィさんと新入社員は、メモをとってくれ。
「え...あっそや!本年もよろしくお願いしますね!」
絶対に時間稼ぎやん。
25日まで忘れてた事は、忘れ続けてええのよ。
この調子で「最近どないですか?」だの、「年始は休めましたか?」だの、「ワシはワクチン5回打ちましてん」だの、ダラダラと話す事5分。
「いやぁ犬井さん。今日は寒いですねぇ...」
「はぁ...」
「あっ、寒いで思い出しました。」
「今日部品入りませんねん。」
キョウ ブヒン ハイリマ センネン...?
さっきまでの気だるさが嘘のように、身体中に血が駆け巡るのがわかります。〇〇製作所からは、重要な部品も仕入れているので、それが止まるとなるとかなりの大ごと。顔の形が変わるくらい怒られるのは必至の状況です。
聞くと、この大雪で社員が数名休んでいるらしく、今日持ってくる予定だった部品が、1種類どうやっても間に合わないとの事。
「田村さん!どの部品が入らないんですか!」
とにかく状況を確認して、社内の調整や在庫の確認、営業への根回しなどすぐさま動き出さないといけない。
僕の焦りを感じたのだろう。田村さんも少し慌てたように言った。
「いや...なんやったかいな...」
ワクチンを語る脳の引き出しに、部品名を入れてくれ。
遠回りしすぎて、道わからんなるんやない。
そこから田村さんがぼそっと発した「A1008」という言葉をヒントに、「それは、方式ですか?」「それは、品名ですか?」「それは、この機械に使う部品ですか?」と、ガバガバなアキネーターのように質問を繰り返すことになるのでした。
ちなみにその10分後。
電話を切った僕は、こんな感じです。
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