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スタートアップが採用成功するために、経営者がやるべきこととは

売り手市場により、ベンチャー/スタートアップ業界では、深刻な人材採用難が続いています。経営者は、この先どういうスタンスで採用を捉えるべきなのか。また具体的にどのような打ち手を講じていけばいいのか。

今回は、早くからベンチャー/スタートアップに特化した人材紹介サービスを提供し、ご自身も投資家としてベンチャー/スタートアップを支援されている、キープレイヤーズ代表の高野 秀敏氏にお話を伺いました。

インタビューイプロフィール

ベンチャー転職キープレイヤーズ代表/エンジェル投資家
高野 秀敏氏

インテリジェンス出身。2005年にベンチャー/スタートアップ転職「キープレイヤーズ」を設立。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、7社上場経験あり、2社役員で上場、165社上場支援の実績あり。また、バングラデシュで不動産会社、商業銀行の設立からの株主、渋谷のバーオーナーなども。キープレイヤーズグループとして、スタートアップベンチャーに特化した人材紹介会社「エージェントセブン」やスカウト型面談サービス「ペイキャリア」を展開。現在FacebookやX(元Twitter)などのSNSではトータルフォロワー13万人超を誇る。



優秀な人材が採用できない事態に。エンジニアや人事、マーケターはフリーランス雇用が主流になってきている

──高野さんは、ベンチャー/スタートアップ専門の転職エージェントなどの人材サービスを提供する傍ら、投資家として、多くのベンチャー/スタートアップを支援し、一部の企業では役員もされています。やはり今も企業の経営者からの求人相談はもちろん、個人の方からのキャリア相談なども頻繁にあるのでしょうか?

そうですね。経営者からの採用相談も多いですが、X(元Twitter)などのSNSだと、ほぼ毎日メッセージがくるのは、個人の転職相談ですね。私は、今もなお実務を行っているので、ベンチャー/スタートアップに特化した採用マーケットのトレンドを常に把握し続けているのが強みです。そのインサイトを求めて、経営者や個人の転職希望者から相談があるのだと思います。私自身もその期待に応えようという思いで、1つ1つの相談に対して、真摯に取り組んでいます。

──経営層の悩みとして多いのは、いい人(優秀な人)が採用できないということでしょうか?

それに尽きると思います。職種でいうと、エンジニアはもちろんですが、最近は営業も採用できなくなってきています。当社の人材紹介会社「ペイキャリア」のデータをみると、UI/UXデザイナーやPdMも採用難易度は高まっています。自分の主戦場ではありませんが、コンサルタントなども年々採用できなくなってきています。

それに伴って、正社員ではなくフリーランス・副業人材として採用しようとする動きが、新型コロナウイルスでリモート化が進んだ影響もあって、ベンチャー/スタートアップでは盛んに行われています。具体的には、エンジニアを中心に人事、マーケターという職種をフリーランス(業務委託)で雇用する企業が、ここ数年増えてきたように思います。

誰がやっても売れる製品・サービスでない限り、これからは成功しない

──ベンチャー/スタートアップが人材を採用できない中で、人事部からは、どのような相談を持ちかけられるのでしょうか?

私は人事部の方ではなく、経営者から直接相談されることが多いですね。具体的には、「KPIがなかなか達成できずに困っている」「人事制度がないので今後どう整備していけばいいのか」など、様々です。

でも、ベンチャー/スタートアップが抱えている一番の問題は、「事業自体が儲かっていないこと」だと思います。あくまでも戦略が先で、人の問題は次のステップなので、戦略自体が儲かる(ビジネス)モデルになっていなければ先には進めません。
 
ありがちなのが、SaaS事業で1億円儲かったので、営業スタッフを大量に採用しました。しかし売り上げが伸びませんというケースです。それは、単純にPMF(Product Market Fit)ができていないからだと思います。このパターンに陥っているベンチャー/スタートアップが非常に多いです。

「コンサルティングセールスができれば、うちのサービスは売れるんですよ」と胸を張って言い切る経営者もいますが、そんなセールスができる能力のある人なら間違いなく独立しています。結局は、誰がやってもできる(売れる)商品・サービスを構築しない限りは、IPOを実現するのは夢のまた夢でしかありません。
 
私の経験からすると、IPOを果たすベンチャー/スタートアップは、コンサル、受託、人材、SES、不動産、広告代理、営業代理、M&A仲介、研修、この9つのビジネスモデル(パターン)に集約されます。

私が投資を行う企業は、この9つのうちどれかのビジネスモデルに当てはまります。もちろん、これ以外のビジネスモデルでも成功している企業は数多くありますが、これからIPOを目指すのは、それほど簡単ではありません。

採用に成功できているのは、儲かっている企業か、知名度のある企業のみ

──今は、どのくらいのベンチャー/スタートアップがIPOを実現できているのでしょうか?

今だと、約2,500社の資金調達があって、上場しているのは17社ぐらいだと言われています。つまりIPOできている企業は1%未満です。もちろん、その他に企業売却や事業譲渡をしている経営者がいるので、それらを入れると、成功している確率は高くなりますが…。シード期におけるVCなら30社に1社IPOを実現するのが、1つの目標だと思います。

──生き残ったベンチャー/スタートアップは、そこから先は「人材」がドライバーになっていくのでしょうか?
 
そうですね。適任者を採用すれば、さらに利益を生み出すことができるようになります。しかし、優秀な人材でないと成立しないビジネスでは、これから先、事業を拡大するのはなかなか難しいと思います。

求職者にとっては、今は企業の選択肢が多様すぎて、どのようにして、自分に合った企業を探せばいいか分からない…、そんな状況です。企業側から見ても、採用チャネルが複雑化しているので、どのようなチャネルをどう使いこなせば欲しい人材を採用できるのかといったことも把握できていません。こうした実態があり、ほとんどのスタートアップが採用で成功していないのです。

──採用に関して転職エージェントなどをうまく活用して、採用できている企業は、どのくらいありそうですか。

数としては、非常に少ない印象です。自前でダイレクトリクルーティングを行って、採用につなげているのは、しっかりと儲けている会社か、知名度の高い会社に限定されるはずです。

事業で利益を生み出せていないと、採用に投資ができないですし、知名度がないとスカウトメールを打ったとしてもなかなか反応が得られません。そういう理由があるように思います。

転職エージェント側から見ても、求人が決まる企業でないとなかなか紹介できないので、結局は同じ理由で企業を選んでいると思います。勝ち筋をしっかり捉えて成長している企業や高い知名度を持つ企業だけが、転職エージェントやスカウトサービスなどをうまく活用できているのだと思います。

経営者自身が「採用に本気かどうか」が、これからの採用成功の鍵に

──採用目標が達成できている企業の経営者の共通点は、何かあるのでしょうか?

一言で言えば、「採用に本気かどうか」それに尽きると思います。「後は、人事部に任せるので、よろしく」みたいな経営者の企業では、これからは人を採れません。その企業の経営課題として「採用」が常に挙げられていることが前提だと思います。

もちろん、知名度があったり、大手のベンチャー/スタートアップであれば採用できますが、中小企業ではまず難しいですね。社長が採用に対して苦手意識がある場合は、副社長などが人事・採用回りができることが必須条件だと思います。
 
そういう企業でなければ、私たちのような転職エージェントがいくら人を繋いでも口説けないからです。口説けないと会社を大きくするのに時間がかかってしまい、結局、企業認知度も向上しないため、採用に苦戦する。そういう負のスパイラルに陥ってしまいます。

採用後の人事評価制度やキャリアプランが整っていることも採用の決め手になる

──採用に成功している企業は、例えば年収水準や評価の仕組みなども整備されているのでしょうか?

そうですね。ベンチャー/スタートアップは年収が低すぎると、まず採用できないですね。最低でもステイ(前職給与保証)でないと採るのは難しいと思います。もちろん年収2000万円だとステイはできないですけど、前職を考慮しないと、間違いなく辞退されてしまいます。
 
なぜなら、候補者が転職活動を行って3~5社受けていくと、前職以上の年収を出す企業が必ず現れてくるからです。昔であれば、ベンチャー/スタートアップに入る求職者は、年収が下がるのが当たり前でしたが、今では、それも通じなくなってきています。

──経営者の方からは、評価制度などの採用以外のご相談も増えている印象ですか?

そうですね。大体会社が大きくなるにしたがって、初期メンバーからは「うちのビジョンが見えない」や「評価制度が曖昧だ」、中途入社者からは「前職ではこうだった」といった不平不満が噴出してきます。

そうなると、経営者は「どこかに良いCHROがいないか」を探し始めます。ほとんどの経営者は、人よりもビジネス(事業)に興味があります。だから、人の問題(採用・人事)は誰かに任せたいというのが本音です。

一方、社員にとっては、業績や能力を正当に評価してもらえる仕組みや、将来自分たちがどのようにステップアップするのかは非常に気になる点なので、会社には給与も含めて人事評価制度などは、しっかり考えてほしいという思いがあります。ここに経営者と従業員とのギャップが生まれるため、そのギャップを埋める人(CHROや人事部長)が必要になるわけです。

半年ごとに目標設定や振り返りを行うことが大事になってくる

──その中で、一番大事な機能は何ですか?

やはり「人事評価制度」でしょう。私の経験からすれば、3カ月ごと、もしくは半年ごとに面談の機会をつくって、目標設定や評価の振り返りを行うことです。簡単には人を採用できない時代になってきているので、従業員が4~5名になった時点で、簡易的な評価制度でいいので、導入すべきだと思います。

もう1つ挙げるとすれば「キャリアプラン」ですね。ベンチャー/スタートアップに入社してくる人の中には、将来的なキャリアが見えないと嘆く人も増えてきました。人材の定着化を考えれば、今後そうした社員の要望に対応していくことが大切になってくるでしょう。

──成功している企業で、採用や育成以外に人の問題で課題に感じていることは何かあるのでしょうか?

採用後の「ミスマッチ」だと思います。頑張って人を採用したものの、ミスマッチが相当起きているように、いろいろな経営者から聞きます。大手企業であれば、事業部が数多くあるので、配置転換(ポジションチェンジ)で対応が可能ですが、ベンチャー/スタートアップだと、他にポジションチェンジできるほどの事業部がないため、このミスマッチにどのように対応していくかが、今後大きな課題になっていくのではないでしょうか。

採用基準を明確に設けているのか。若いというだけで採用していないだろうか

──今までお聞きした以外にベンチャー/スタートアップに感じている問題点は何かありますか?

売り手市場で、人がなかなか採れないゆえのことだと思いますが、全体的に採用基準が甘くなり過ぎているように思います。企業側は、候補者のキャリアや経験をしっかりと考慮せずに採用を決めてしまうことが多い気がします。

こうした状況なので、20代で3社経験という人が当たり前になってきました。私自身、個人の転職相談に乗ることが多いのでわかりますが、「今辞めたらダメでしょう」という若者が増えています。せめて、自分が立てた目標をやりきってから辞めるとしなければ、結局、転職しても、嫌なことがあると、すぐに辞めてしまうことになりかねません。
 
「今の会社は、SaaSサービスで、1年に1度ぐらいしか提案の機会がなく、成長を実感できないんですよね」と、もっともらしく話すのですが、そのことは分かった上で、その会社に転職したわけです。そんなふうに、1年も勤めずに転職を繰り返す人は、転職理由を会社のせいにして、いざ振り返った時に、自分にとってのキャリアと呼べることが身に付いていなかったりします。

でも、今のご時世、そういう人も「若い」という理由で、すぐに就職先が決まってしまいます。人が欲しいといっても、企業は採用基準を甘くすると、すぐに退職されて、また求人募集をすることになり、採用コストが必要以上にかかってしまいます。自社の採用基準を明確にして、それをぶらさないようにすることが大切でしょう。

一方、候補者(求職者)は、目先のことだけにとらわれずに、中長期的な目標をもって会社選びや仕事への向き合い方を考えるべきです。

20代であれば、環境が合わなければ転職すればなんとかなるかもしれませんが、30代、40代と年齢を重ねていくと、自分の壁を乗り越えていない人は、最悪の場合、自分が希望するような就業先が見つからなくなることが往々にしてあります。

自分のキャリアは、自ら築いていくこと。そのためにも、この企業で何を身に付け、何を達成するのか、しっかりとゴールを定めて仕事に取り組み、自分の存在価値を見出していくことが必要です。ぜひそのことを肝に銘じてほしいと思います。

「利他の心」をみんなが持ち、キープレイヤーとして輝けるようにサポートしていきたい

──今後取り組んでいきたいことがあれば教えてください。

「キープレイヤーズ」は、人は皆自分の人生のキープレイヤーであり、彼ら彼女らを応援したいという思いをこめ、18年前に設立しました。私自身、いくつもの企業に投資していることもあり、経営者を応援したいという思いがありますが、それだけに限らず学生や第二新卒などの若い人たちのサポートもしていきたいと考えています。そのために、今では大学連携なども積極的に行っています。

その中で、応援している人に伝えているのは「利他の精神」です。世の中にはテイカー(利己的な人、自分の利益を優先する人)が多すぎると思っています。データがあるわけではないので、正確なことは言えませんが…。義理や人情、人の役に立つことが非常に軽視されている実感があります。「利他の心」に関していえば、故・稲盛和夫さんもおっしゃっていましたし、般若心経などでも語られています。

利己心を持つのは、人間なら当然だとは思いますが、そればかりではなく、バランスを大事にして、いかにして「利他の心」を持って行動できるか。実践するのは口で言うほど簡単ではありません。それだけに、自分としてはことあるごとに、このことを発信し続けて、みんながキープレイヤーとして輝く未来になってほしいと願っています。


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