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ジンな男

私としたことが、ジンについてまだ触れていなかった。

ジン。スピリッツの一種。前にも書いたが、ウォッカが徹底的に不純物を排除して濾過した「引き」の酒なら、ジンは「足す」酒だ。一度、蒸留したスピリッツを、ジュニパーベリー(杜松の実)という檜風呂のような香味など、10種類ぐらいボタニカル要素を加えた酒。癒しの酒。

ちなみに、「ビーフィーター」や「ボンベイサファイア」などは、「ロンドン・ドライ・ジン」という種類で、爽やかで汎用性が高く、主にカクテルに使われる。(ロンドンで作られているという意味ではない)。「ジェネバ」という種類はオランダ発祥。ジンの原型と言われ、シングルモルトのようにポットスチル(単式蒸留機)で作られるスピリッツなので、香味成分がぐーっっと深い。

10年以上前、今よりもっとお酒が好きだった私は、「ビーフィーター」の消費者向けイベントに参加した。胡椒の実みたいなコロコロっとした実が小さなボトルに入っていて、「この安らぐような香りがジェ二パーベリーなのか」と必死で嗅いでいたのを覚えてる。それ以外には、リコリス、カルダモン、コリアンダーなど。見た目があんなに透明なのに、びっくり箱のように、香味成分が飛び出してきて、終始興奮していた。

そう。方向感覚さえ失わせる、多彩な香りが魅力だ。それは「透明なのにこの香り?」という、「意外性」とも言える。

普段はメガネを掛けて真面目な彼が、ふと見せる可愛い一面や頼もしい一面、面白い一面。逆に、なんでも知ってるしっかりした人なのに、誰もが知ってることを知らなかったり。それらのジンなところを、女は決して見逃さないのだ。

「そんなことまで知ってるの?」と言った会話の引き出しの多さも、ジンらしい男と言える。好みもあるだろうけど、私の場合は、仕事に関係なく、しょうもないトリビアな知識であればあるほど、いい。「それ、生活にいる?」という、くだらない知識があればあるほど、心が豊かな男だと思うから。そうか。kにはジンなところがあるから惹かれたんだな。

ジンな男は無意識に女の好奇心を刺激する。だから、ジンな男との交じり合いの時は、激しさより楽しさが勝る。

「この男はどこに興奮するのだろう」ーー。

そう思いながら、体の隅から隅まで、笑い転げながら点検するような交じり合い。くすぐったそうにするところ、とろけるような表情、官能的な場所は、いったいどこなの? どんなキスが好きなの? ジンな男は、相手の女性の香味成分も見つけてくれるから、決して一方的ではない。自分では気がつかなかった一面を、ジンな男は、楽しげに見つけて報告してくれる。そういう意味では、女が持つワインの多彩性とジンの持つ多彩性は、相性がすごくいいような気がするよね。

そして、女は惚れた男の香味成分を小さなボトルに詰め込んで、自分だけの香味サンプルを密かに作るのだ。誰にも見せないサンプル。夜、寝れない時にこっそり開いて、香りを嗅ぐ。万人ウケするものなどない。自分だけのもの。これ以上の癒しはない。

あら、「そうか、彼女の中で俺の香味成分はずっと保存されてるな」と思っちゃった? それは大きな勘違いね。嫌いになった瞬間、そのサンプルは「好きな男」のものではなく、「その他大勢の男の香り」となるの。場合によっては、「二度と嗅ぎたくない香り」ともなるけど、稀に「今まで一番愛した男の香味」として、永久保存されることもあるから、せいぜい、頑張ることね。

そういえば、最近では日本のクラフト・ジンって流行ってるらしい。抹茶とかが入ってるものもあるとか。私はもう最前線で未知のジンを味わうステージではないから、noteの愛おしい女性達の香味サンプルを見せて欲しいな。

シェアハウスのダイニングテーブルで、待ってます。


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