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ベルギービールな男たち

去年、何かに取り憑かれたように、ワインな女とスピリッツな男について書いてきた。

失礼を承知で、noteで仲良くなった方々を自分勝手に分析し、ワインやスピリッツに喩え、短い話を書いた。優しい方々ばかりなので、怒られることもなく、寛大な心で受け止めていただいたのだけど、ありがたいことにむしろ褒めていただき、ものすごく嬉しかったのを覚えてる。久しぶりにこのシリーズに新しいお話を、これまた自分勝手に追加しようと思う。

今回の特徴は複数形であること。シングルモルトな男、ピノ・ノワールな女、など誰か1人をイメージしながら書いていたのだけど、今回は2人の男性をイメージしながら書いてみた。さあ、誰のことかしら?

まずは、ビールは「製法によって3つに分かれる」ところから復習しましょうね。

①ラガー

スッキリした飲み口。下面発酵(発酵が進むにつれて酵母が下に沈殿する)。世界的に一番多く、よく見かけるのはこのラガータイプの一種「ピルスナー」。ちなみに黒ビールである「シュバルツ」もこのグループ。日本の4ビールメーカーのビールはほぼこれ。爽快感がたまらない。

②エール

芳醇で濃厚な味わい。上面発酵(発酵が進むにつれて酵母が上に上がる)のため、ラガーのような爽快感より、クリーミーな口当たりが特徴。歴史的にはラガーよりエールの方が古い。日本で有名なベルギービールである「ヒューガルデン」はこのグループ。「ホワイトエール」って言う。瓶で入ってるやつで、成城石井とかでよく見かける。ちなみに日本では「よなよなエール」か有名。

③ランビック

自然発酵。ラガーやエールのように培養した酵母を添加するのではなく、自然に生息する野生の酵母を使う。当然、より複雑な味わいで酸味も強く出る。シャンパーニュと同じく、瓶内二次発酵をすることで複雑さを出し、熟成(3年ぐらい)させたりする。ワインボトルと同じぐらいの瓶が多い。

ベルギービールとはどんな製法であれ、ベルギーで造られるビールを指す。実際、ベルギーでもピルスナーの①ラガータイプが70%以上と言われるけど、エールやランビックが特徴的に発展してきたため、狭義的に②「エール」と③「ランビック」をベルギービールと呼ぶことが多い。よって、これからの話は、エールやランビックのことと思ってください。

ベルギービールを突き動かすのは、「止まることのない好奇心」と言ってもいい。オレンジピールやコリアンダー、バジルにレモングラスーー。ありとあらゆる「ちょっとしたエッセンス」を取り込んで、錬金術のように新しいビールを産み出す。相手の個性を尊重しつつも、自分らしさに変えていく。

つまり、ベルギービールな男というのは、男性女性関係なく許容範囲が広い。どんな人にも、「自分と混ぜ合わせたら、面白い化学反応が起こるに違いない」と無意識のうちに思ってるので、余程の個性的な特徴があっても、誰もが驚くような性癖があったとしても、受け入れてくれる寛容さがある。

これは今まで書いてきた蒸留酒や醸造酒の男にはない特徴だ。シングルモルトな男は神々しくて、その詩的な世界観から近寄り難い雰囲気を出すし、日本酒な男は様々な人と交流することにさほど関心がない(そういった素朴さが良さの1つ)。芋焼酎な男に至っては、「こうあるべき」な思考が根深く、様々な人を受け入れているようで、実は排他的で柔軟性が欠落してる(私の嫌いという主観が強く滲む、ごめんなさいね)。バーボンな男は、自分が美しいと思ったもの(女)しか本当は興味がないので、人全般に関心があるタイプではない。

ベルギービールな男の、その敷居の低さは圧倒的だ。例えば、ワインバーとビアガーデンとベルギービール専門店が並んであったとするじゃない? ワインは人を選ぶところがあるので、謙虚な人は近づけない。「よく知らないし・・・」ってなる。ビアガーデンは、「とにかく元気!盛り上がろうぜ!」というテンションで、しかも一人ではちょっと行きにくい。ベルギービール専門店はその中間の存在。ワインほど人を選ばず、ちょっと一人で落ち着いて考えたい、あるいは少人数の人とじっくり話してみたいという人をたくさん惹きつける。フレンドリーさと落ち着きさのちょうど真ん中なのだ。

ベルギービールな男、特にエールな男は、様々な人を引き寄せる。自分が欠点だと思ってるところでさえも、興味を持って愛でてくれるから、誰もが居心地がよい。それは才能であり、私は、彼から日常で起こるその化学反応の話を聞くと、自分の好奇心が恐ろしいほど刺激され、体の中心の湿度がじんわりと上がってしまう。共鳴してしまうだ。

ランビックな男はさらに複雑さを増し、興奮が止まらない。ラガーやエールのように酵母を添加するのではなく、自然界に生息する微生物を取り込んで発酵、さらにシャンパーニュのように瓶内熟成までしてしまう。ワインのようでワインではない。おそらく、緻密なことまで考えられる知性があるからできることであり、その姿は神々しくも映る。目に見えない微生物まで愛でられるので、占いなど神秘的な世界へも足を踏み入れている。親近感があるのに、どこか人とは違う不思議な領域を持つ。

彼らのようなベルギー男は、私を含めて沢山の人を惹きつけ、違うビールをどんどん生み出してしまう。

こういった、エールやランビックな男の好奇心は最終的に「人」に集約されるのだろう。人が好きすぎて、内面や精神の美しさを誰よりも見つけることができるため、多くの人は引き寄せられるかのように、彼らに近づき、自己を開示する。温かさで全てを包容できる男、それがベルギービールな男なのかもしれない。そういえば、修道院ビールはベルギービールの一つだけど、教会で懺悔するかのように、自己を開示するって雰囲気、あるよね?

その許容力ゆえに、過去にはきっと「私のことに興味があるの? 誰に対してもそうなんじゃないの?」と嫉妬して、去っていく女の人もいたんじゃないのかと想像する。 人気者だしね。「私だけ見ていて」のタイプの女はどこかで破綻するでしょう。で、ベルギービールな男は「そんなことないのにな」とボソッと呟いては、また新しく興味の対象を見つけて、回転を続けるんだろう。

さて、麦芽率が一般的なラガーより低く、オレンジビールなどホップ以外のものを添加すると、日本の酒税法上では「発泡酒」となっていた時代があった。その頃のベルギービールな男にとって、屈辱的な気分ではあっただろうけど、「社会の枠組みなんて関係ない」とどこかの時点で開き直った。

そして2018年。そういった発泡酒や雑酒に分類されてしまうお酒達が好調で、酒税を獲得するために、酒税法は改定された。添加することで酒税の低い「発泡酒」でいけたのに、国が「ビール」として認めざるを得ないぐらい、力をつけちゃった。2020年には更に改定し、税収を上げようと財務省が躍起になってるけど、滑稽なことですよね。美しくないわ。

ベルギービールな男たちは、社会が決めた息苦しい枠組みが「美しくないもの」と思ってる気がする。ただ、社会を糾弾するのではない。「どのように俺のことを思ってくれても構わない」という距離感を持ったスタンスでありつつ、次第に社会の構造をジワジワ変えていってしまうのだ。社会に関心を持つというより、むしろ彼らはただ「人の心」に関心があるのだけれど、エゴや醜い部分で形成されている社会にも、一定の興味関心を持ち続ける。それが、ベルギービールな男。

性的な例を出せば、女性の騎乗位とかセルフプレジャーといったことにも、誰よりも寛容だし、許容してくれそう。

そんな男達と楽しく飲みながらおしゃべりしたら、朝までずっと話し続けてしまうよね。私は八方美人のようで、好き嫌いが実ははっきりしているため、お互いが好きな人しか残らない。でも、ベルギービールな男は許容力が尋常じゃないので、たくさんの人が集まって、去らない。羨ましい。

食虫植物な女としては、ベルギービールな男達に敬意を示しつつ、引き寄せられるように彼らの元に集まってる人々にも、「美味しそうな人たち」って舌舐めずりしてしまう。こんなことを書いたら、変態だと思われるだろうが、初めて出会う新しいビールがたくさん並べられてるのだ。当然よね。

さてさて。

夜も更けてきましたね。

これからストレッチしてから寝るのだけど、ちょっと言葉を残しておこう。

「私にいつも好奇心という湿度を与えてくれて、ありがと。今日も面白かったわ」

そっと彼らの首筋に口づけをして、今夜は眠ろうかな。


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