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#4. なし男は微妙に揺れた

(前回まではコチラ)


さて
何かしら答えようと思いつつ


何から答えていいのか
分からなくなり

なし男は
こんがらがってしまった

いつも、そうなのだ

これは言っていいか悪いかや
相手はどう思うだろうかが
アタマをよぎりまくりすぎて


ときにノイズのように
アラートのように鳴ったりもして


とっさにうまくコトバが出てこない

そんな時は、
「これで、よかったのか」と懐疑的になったり
自分にガッカリしてしまったりするのだ


そうしてるうちに

「はい、これです」


と、
ぶっきらぼうにも取られかねないように
本の表紙を直接みせてしまった。


元来
なし男は
「好きな本は?」と
尋ねられても



この本のことを
伝えることはなかった。



ほんとに好きなモノは


なかなか
そのすべてをうまく伝えられないし


うまく伝えられないなら
そこまでして、わざわざ伝えたくない
とも
思っていたからだ


それに、



なし男にとって
ほんとに好きなモノについてを
まっすぐ伝え届ける、
ということは


ときどき
ちょっと気恥ずかしい時も
案外よくあることなのだ。


だから
本を見せた後
なし男は


気づいたら
そんなことをしてしまっていた、



普段の自分だったらしないようなことを
いつのまにか自然に
ふと、してしまっていたことに気づき


そんな
自分自身に
ちょっと驚き


そして
緊張した



すると

「ほー、この本は」


どちらかといえば
感心し
受け入れてくれたような


ひとまず
ぶっきらぼうにしてしまったことも
さほど気にとめられてもなく


不審に思われたり
いぶかしげに見られたり


拒否されたり
はね返されるような
リアクションでは
ないようだ。


「ほーっ」


見せてみて
悪くはなかったんだな、
ひとまず大丈夫だったんだなと


なし男は
すこし
ほっとした。


ほっとできた後
余裕ができて
その次に、
気づけたのだが



おじさんの
その様子は



なんとなく
この本を知っているような
リアクションだった。


「お?」


なし男は
微妙に揺れた。


ちょっと意外だったから



ベストセラーになった本ではなく
一般的に知られている本ではなかったからだ。



ある特定の分野の人たちには
よく知られている、けれど…



そんな本だったからだ


それは
“旅人”の間で
よく知られた本だったからだ。


(つづく)

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