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映画「アントニオ猪木をさがして」

映画「アントニオ猪木をさがして」見てきた。

まあもう見る人は見るし、見ない人は一生見ない映画だと思うので思いっきりネタバレしながら書きますね。
これから見る予定の人はここで閉じてください。

…………………

・謎の再現ドラマパートいる?

・けどリサイクル工場の工員役の後藤洋央紀ちょっとよかった

・神田松之丞の「講談・巌流島の闘い」はよかった。あれで1000円くらいの価値はある。

・マニア的には有田とか安田顕のパートはいる?と思ってしまうんだけど、一般層にも見てもらうことで考えるとあの二人こそが入り口で、そういう窓口が必要なんだろうな、と。
ナレーション福山雅治とか。
福山って何か猪木やプロレスに言及してたことあったっけ?と思ってたらエンディングでその理由が示されてちょっと感動した。
ここは映画で見てください。

・今出てる「KAMINOGE」がこの映画の副読本的役割を果たしてるんだけど、そこで井上編集長が言ってたように妙に棚橋のシーンが印象に残る。
まあ、「猪木後」の象徴の人だから、そういう照らし方になるのは当然なんだけど。

途中、松之丞が「プロレスは虚と実入り交じる」という語りをするけど、棚橋の語りも十分虚と実だなあ、と思った。
「猪木さんには感謝しかないですよ」とか言ってたけど、それは鬼籍に入った今だから言えることで、あの辺は思ってることを言うというより、メディア(の向こうにいるファン)に「俺のことはこう見てほしい」というポジショントークなんだろうなー、と思ってた。

そこにいくとオカダはやっぱり素直で、「(猪木さんって人は)僕にはわかんないですねー」とペラっと言ってしまう。
オカダはウルティモ・ドラゴンに憧れてプロレスに入った少年なので、猪木という人は「入社した会社の創業者」くらいなんだと思う。
今年本田技研工業に入った新入社員にとっての本田宗一郎みたいな。
「(猪木とは)雑誌の対談で話したくらいなので、もっといろんなことを話したかったですね」と言ってて、素直だし、張り合わないんだなとも思うし、聞けば教えてくれると思ってるんだなあ、と。
たぶん猪木は謎かけしかしないよ。
それでいいならいいけど、オカダはもう「燃える闘魂」のエッセンスを追うのでなく、「レインメーカー」を突き詰めたり、発展させたりしてほしいのよね。

でも本当にオカダはいいやつなんだろうなと思ってて、「KAMINOGE」で今のプロレス界のトップとして、「昔のプロレスの方がすごかった」と言われることにはどう思いますか?なんていう井上編集長の意地悪な(けど良い)質問に

「しょうがないですよ。みんな昔感動したものの方が素晴らしいと思っちゃいますから。だってマンガやゲームだって、僕が子供の頃に人気だったものがいまだに人気じゃないですか?」 

と答えてて、あー本当にその通りだ、その通りだけどオカダ、プロレス界のトップとしてはその返しではダメなんだよ…!と強く思ったのだった。
だから、そうやって考えると「プロモーション」というものを熟知している棚橋弘至という人がトップになったのは必然だったし、本当にいい人がいましたね…!と思ってしまう。
棚橋だったら同じ質問に対してもこんな風に答えた気がするんだよ。

「たしかに昔のプロレス見てすごいなと思う部分はあります。けど今のプロレス見てもらったら『これもすごいな!』ってなるはずなんですよ、絶対」

みたいに最後は上げて終わらす気がするんだ。
だから2002年札幌の猪木問答で、「おめえは何に怒ってるんだ?」と最初に聞かれた中西が「武藤に怒ってます」と答えたら「おめえはそれでいいや」と流され、「上にいる人間に怒ってます」と答えた永田が「そいつらに気づかせろ」と投げられ、鈴木健三が「明るい未来が見えません」とかトンチンカンなことを言い出したあとに「俺は新日本のリングでプロレスをやります」と一番まっとうな言葉を返して評価されている。
もっともこれは棚橋本人が
「四番目だったから考える時間ができた。途中で『あ、これは質問に答えたらダメなんだな』と気づいた」
と語っているので、仮に棚橋が一番目だったらこんな綺麗に返せてなかったんだろう。
そう考えると「一番目」に当てられた中西は持ってない人間で、「四番目」だった棚橋は持ってる人間だったのだと思う。

・そんな棚橋がオカダ以上に猪木を知らない世代の海野翔太に「おめえは何に怒ってる?」と冗談ぽく聞いて、海野が考えた末に「いや、怒ってないですね」と答えたのはプロレスの移り変わりを象徴する、すごくいいシーンだった。
でも、海野それ嘘だよね。
君、年中SNSでマナーの悪いファンとかクソリプに長~いお気持ちを表明してるじゃん。
それが怒りだよ!
それをSNSじゃなくてリングで表現できたときが、君がリングで咲く日だ。

・やっぱりアミューズが作ると「アントニオ猪木をさがす人」は新日本プロレスであって、決してIGFじゃないんだなあ、というのがよくわかる。
IGFにいた人たちはみんな何を思ってるんだろうね。
鈴川真一とかケンドー・カシンとか、あと小川直也は出てこないのかなあ、とずっと思ってた。

・結局、「プロレスマニアのための知られていない猪木の話」ではなく、「アントニオ猪木を知らない、あなたのための映画」なんだろうなと思った。

そうです。ここまで読んだあなた。
あなたのための映画じゃないんです。
このエントリの冒頭2行で読むのをやめた、「アントニオ猪木が亡くなったら周りの中高年男性がみんなガックリしてるのはなんで?」と思った、あなたのための映画です。
同時に猪木を見てたはずなんだけど、もう記憶がだいぶ薄れてきてしまってる、そんな俺たちのための映画です。

「猪木、ボンバイエ!」の「ボンバイエ」とはリンガラ語で「ぶっ殺せ」「やっちまえ」の意。
会場で観客が「殺せ!」と叫び、試合結果に怒り、怒号を上げ、モノが投げられ、会場に火がつけられ警察と消防がかけつけ、リングアナウンサーが「今日は私に免じてお引き取りください」と怒る観客に土下座する、そんな時代にプロレス界最大のスターになったのはどんな男だったのか、それを探る映画になってます。
ぜひ劇場に足をお運びください。
以上、福山雅治でした。


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