神津島4日目
6時に目が覚める。
3時間しか寝ていないのに眠気がほぼない。
せっかく起きられたので日の出を見にいくことにした。
室内でも息が白くなるくらいに寒いので、chumsのフリースにゴアテックスでしっかりと防寒し、静かに宿を出て展望台まで歩く。10分くらい。
服のおかげで歩いていると汗が出る。
ほくほくした体で空気を吸い込むと、キーンとした冷たく澄んだ空気が鼻を通るのがわかって肺が美味しい。
私はタバコを吸わないからわからないけど、吸う人の美味しいってこんな感じなのかな?
朝焼けが空にジュワッと染まる。
早起きの最高のご褒美だった。
なかなか日が出ないし、朝焼けが十分綺麗だし、寒いし、帰ろうかな…と思い始めた7時15分。
日の出だ
山、海、植物、みんなが朝日に照らされていく。
みんなが太陽の方を向いて、朝日を歓迎しているように見えた。
師匠はまだ起きていないようで、私一人で来ている優越感を感じてククク…と笑ってしまう。
この感じ、実家を思い出す。
実家では、初日の出を山の高台まで見にいくのだが、起きられる人と起きられない人でわかれる。
起きて初日の出を見られた勢は、起きられなかった勢に
「日の出綺麗だったマウント」をとってよく喧嘩していた。
もはや日の出を見たいのではなく、日の出マウントを取られたくないから頑張って起きようとしていた気もする。
師匠に自慢することを想像して楽しくなりながら宿に戻る。
8時朝食
朝食を食べながら、早速「日の出マウント」をとる。
「めちゃくちゃ綺麗でした!神津島で一番綺麗な景色だったかも!」
「えええ!なんで起こしてくれないの?!ずるい!」
というやりとりをしていると、
おかみさんから
「今朝の朝日はまあまあだったね。」と告げられた。
「この世でいちばん美しい景色かもしれない」と思ってマウントまで取っていた今朝の朝日はまあまあだったのか…はずかしい…
朝食は、郷土料理にもなっているという岩のりのご飯が最高に美味しかった。
岩のりの濃い風味、油と岩のりの相性の良さと言ったら…後をひく味で食べ終わってしまうのが辛いくらいだった。
昨晩、おかみさんが自ら岩のりを採取されているという話で盛り上がったときに「明日の朝は岩のりご飯にしましょうかね」と言ってくださったのだ。
少人数のお客さんを丁寧にもてなしたいらしい。おかげで夜は、岩のりご飯がまっている…!とワクワクしながら眠った。
朝ご飯を楽しみに眠るなんて。
普段は家を出る15分前まで寝ていて朝ごはんは食べないので、朝ごはんを食べることによる充実感を感じる。
島で採れた山葡萄のヨールグルトスムージー、パッションフルーツ、明日葉の和物など最後の神津島グルメを丁寧に食べた。
島のライブ中継テレビで船が港に着いたのを確認して、おかみさんが声をかけてくださる。
ゆっくり準備をしておかみさんの送迎で10時に宿を出発。
多幸港でおかみさんと記念写真を撮り、お別れをする。
船の出発を待っていると、初日に道で話しかけてくれたお姉さんがプレゼントを持って多幸港までわざわざ届けにきてくれた。
私をイメージして作ってくださったというイヤリングとリング。
シーグラスで作っているらしく光に当たってキラキラと輝いた。
フレグランスも私をイメージして島のものもブレンドしてくれたらしく、どちらも私のことを考えて、たったこの数日間で作ってくれたことが嬉しい。
初日に少し話しただけで、会ったのは2回目なのに、なんだか懐かしい友達に会うような感覚だった。
出発前の数分でたくさん喋る。
なぜこの島にきたのか?島でどんなことをして生活しているのか?共通の話が多く、聞けば聞くほどもっとゆっくり聞きたかった。
このお姉さんは去年、私が伊豆大島で宿泊したアイランドスターハウスのオーナーさんである竹内さんとも仲がいいらしく、今度みんなで神津島でお酒を飲む約束をした。
惜しみつつお別れ。
ついに神津島を出発。
最後まで手をブンブン振って見送ってくれた。
島に行くたびに人の優しさに救われる。
外から来た人間に無条件に優しく接して下さって、「また来てくださいとい」って送ってくれる。
また来るだろうと信じて言ってくれている気がして、必ず約束を実現させたいと思った。
行く島々で、知らない土地で人のつながりができるのがとても嬉しかった。
来年も再来年もずっとこうしていたい。
島を出発すると、式根島、新島…と伊豆諸島に寄港しながら帰る。
船の上から眺める島が本当にいい!
段々と島に近づいていくと、家や学校や車が走っている様子など、人が住んで生活している様子が見えたりして楽しい。
このまま行くと利島に寄って、伊豆大島にも寄ることに気がついた。
「ひょっとしたら去年、伊豆大島で宿泊させていただいたアイランドスターハウスの竹内さんに船越しに会える可能性もあるのかも!」と思い、
ダメもとで「船で大島に寄るのですがお会いできたりしませんか?」と連絡してみる。
「お客さんの送迎の合間に行けるかも…!」と返信が来て、本当に駆けつけて下さった。
伊豆大島の港で待っていてくれた竹内さん。
下船することはできないが船越しに1年ぶりに会えた感動はものすごく大きかった。
船が止まっている時間は短いので時間を1秒も余すことなくめいっぱいに使って話せるだけ話した。
竹内さんに「お元気でしたか?」と聞くと、
「ええ、元気でしたよ!」とニコニコ答えてくれた。
私も「元気でした!」と元気に返した。
自分で言うのもなんだが、このやりとりがとっても美しいものに感じた。
一年間、竹内さんは伊豆大島で暮らしていて、きっといろいろな出来事があっただろう。
それぞれ、楽しいことや嬉しいことがあった分、辛いこと、苦しかったこと、たくさんあったかもしれない。
それでもこうやって再会して、元気でしたよと言えた。
色々あったって、最後に元気でしたよって言えたらこれでいいじゃないか。
こんな幸せなことってないじゃないか。
異常な感動に包まれた。
今年も最後は元気でしたって言えたらそれでいいからこれから起こる全部を受け止めようと思って。
時間が来て伊豆大島を出航。
最後はテープを持ってお別れ。
お互い両端の紙テープをしっかり持って、千切れたらしっかりと巻き取ることで海に流れないという仕組みだ。
船が港から離れ、竹内さんが走って船を追いかけてくれる。
限界までピンと張られたテープがぷつんと切れる時の感触がなんとも悲しくてウルッとしてしまった。
船で豆粒みたいになっていく竹内さんを見る切なさが込み上げる。
新たな島で知り合いができて、帰り途中の島で知り合いに会うなんて。
これから島々で仲間が増えて、伊豆諸島に行くたびにこんなことできたら楽しいなあなんて思った。
ゆっくりのんびりでいいから伊豆諸島を制覇したい。
伊豆大島を通過して確か14時半くらい。東京に着くまでまだ5時間近くかかる。
感動の波が一度収まると、お腹が空いてきた。
さるびあ丸の中の食堂へ駆け込み入店し、「明日葉カレー」を注文。
明日葉の風味がふわりとして美味しい。
カレーと船。あう!景色も最高だ。海のど真ん中で食べるご飯は5割り増しで美味しい。
お腹がいっぱいになると、突然眠気が襲ってきた。
部屋に戻って眠りについた。
起きると外が真っ暗で、もう少しで東京に着くところだった。
朝10時半に出て、19時に竹芝桟橋着。
今回はたまたまジェット船が運休していたので大型船で8時間半かけて帰ることになった。
「移動で一日が終わりますね…」なんて話していたが、時間をかけて帰れて逆に良かった。
かけがえのない時間を過ごして、たくさん思うことがあったこの数日間。
寂しさが込み上げてきて、自分の中でゆっくり都会の生活に戻る覚悟をする時間が欲しかったので1時間くらいで帰れてしまったとしたら寂しすぎる。
(飛行機だと調布空港から40分でとても早いです)
竹芝桟橋に着いてベンチで師匠と精算をしてトボトボ浜松町駅に向かう。
もう19時だ。上を見上げるとビルが煌々と光っている。視界が賑やかだ。
電車に乗って、最寄り駅まで行き、帰宅。
寂しさが込み上げてきそうになったので荷解きをさっさと済ませ、なんとなく10キロ走った。東京タワーが眩しい。
帰宅してシャワーを浴びて、明日の仕事のために湘南新宿ラインで実家へ。22時半くらいに出発。
深夜1時すぎ。妹に石橋駅まで迎えにきてもらって実家着。
朝まで神津島にいて、大都会に帰ってきて今は栃木県益子町にいる…
嘘みたいな一日だった。
旅、終了。
また新たな島を旅して、素敵な島民の方々に会いたい。神津島の備忘録、完結です。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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