他人の人生を繋げてゆく~映画『青春18×2 君へと続く道』~

1988年10月10日、大阪国際交流センター。
「子供ばんど(KODOMO BAND)」の2000本目のライブが行われた。
何度目かのアンコールで、ヴォーカル・ギターでリーダーの、うじき"JICK"つよしは、2000本ライブを達成した喜びを語り、メンバーとスタッフたちに感謝を述べた後、歌い始めた。

動き始めた列車に揺られて
どうして自分が今 ここにいるのか
わからないまま 旅を続ける
(略)
歩き疲れて ほんのひととき
息をつくのも 必要なのさ
毎日毎日 ただがむしゃらに
走り続けた 俺達だから

「WALKIN' AWAY」(作詞・うじきつよし)

映画『青春18×2 君へと続く道』(藤井道人監督、2024年。以下、本作)の主人公・ジミーはたぶん、この年に台湾で生まれた。
そして、18年後の2006年運命的な出会いをし、そのまた18年後の2024年春、そんな気持ちで日本の電車に揺られている。

始まりは18年前の台湾。カラオケ店でバイトする高校生・ジミー(シュー・グァンハン)は、日本から来たバックパッカー・アミ(清原果耶)と出会う。天真爛漫な彼女と過ごすうち、恋心を抱いていくジミー。しかし、突然アミが帰国することに。意気消沈するジミーに、アミはある約束を提案する。
時が経ち、現在。人生につまずき故郷に戻ってきたジミーは、かつてアミから届いた絵ハガキを再び手に取る。初恋の記憶がよみがえり、あの日の約束を果たそうと彼女が生まれ育った日本への旅を決意するジミー。東京から鎌倉・長野・新潟・そしてアミの故郷・福島へと向かう。
鈍行列車に揺られ、一期一会の出会いを繰り返しながら、ジミーはアミとのひと夏の日々に想いを馳せる。たどり着いた先で、ジミーが知った18年前のアミの本当の想いとは。

本作公式サイト「STORY」より

「成長物語」の「成長」が「ロードムービー」によってなされる、というのはオーソドックスでもあるが、これが新鮮に見えるのは、日本人監督によって撮られてはいるが(故に混乱もするのだが)、れっきとした「台湾映画」だからだ。
つまり、「日本映画」であれば主人公が「(海外へ)行く」のだが、「台湾映画」であるが故に主人公が「(日本へ)来る」、だから新鮮に見える。
さらに言えば、もちろん「台湾映画」側からすると「(日本という海外へ)行く」ことになる、ということは、この「行く」「来られる」という構造は、全世界・どの時代においても普遍であるということで、だから、新鮮に見える。

この、日本側から見て「行く」「来られる」が逆転している本作はだから、主人公に「与える」側となっている。
最近の言葉に、「(他人やスポーツ選手などから)元気(勇気)をもらった」というのがあるが、それに倣えば本作は逆に「与える」側になっていて、だから人は、何げない日常の中で、知らず知らずに「もらう」側にもなり「与える」側にもなっているはずだ。
それは、映画や物語の中だけでなく、さっきも書いたが我々の「何げない日常の中で」日々起こっていることで、そのことがその場でわかることもあるし、何年か経って「思えばアレがきっかけだった」と気づくこともある。
人は気づかぬうちに、他人の人生に関与し、時にその人生を繋げる役目を務めているに違いない。
それに気づかせてくれるのは、本作が「台湾映画」だからで、日本は「与える」側だからだ(故に、本作は新鮮なのだ)。

他人の人生に関与し、時にその人生を繋げる役目。
清原果耶が藤井監督とタッグを組むのは、本作で3作目なのだそうだ。
1作目の『デイアンドナイト』(2019年)は未見なので、2作目の『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020年)でいえば、清原演じる主人公・大石つばめが桃井かおり演じる正体不明の「星ばあ」との出会いによって成長する。
本作ではジミーが、バックパッカーの外国人という意味で正体不明の、アミによって成長する。
つまり、清原は「成長する側」から「成長させる側」ー他人の人生に関与し、時にその人生を繋げる役目ーに「成長」しているのである。

本作が「成長物語」なのは、「大人」という言葉からも読み解くことが出来る。
本作において「大人」という言葉は、アミの口から2回(回想含まず)発せられる。
一度目は展望台から台湾の夜景を見ながら呟く、「私たち、どんな"大人"になるんだろうね」。
二度目は帰国することを咎めるジミーに言う、「"大人"には事情があるの」。
つまり、(ジミーより4つ年上の)アミは、最初は「子ども」だと思っていたが、帰国する頃には「大人」だと思うようになった。

彼女はいつ、「大人」になったのだろう。
「大人」は、「自分の為に嘘を吐く」。
誤解してはいけない。
「保身のために嘘を吐く」のではなくその逆で、「自分を認めるため、自分から逃げないため」に嘘を吐く。

ある意味において、アミは認めたくない自身の境遇から「逃げる」ために台湾に来た。そしてそこで、「夢」或いは「希望」を見出し、それを叶えるために「自分の境遇を認め、逃げないため」にジミーに嘘を吐く。

ジミーは認めたくない自身の境遇から「逃げる」ために日本に来た。
実は「希望」なんて最初から無かった。それを認めたくないが故に、自分に嘘を吐いてきた。
しかしその嘘は、日本で様々な人と触れ合ううちに、「自分の境遇を認め、逃げないため」に変わっていった。
だから、「本当の」アミに出会えた。
彼はやっと、「4つ年上の」アミに追いついた。
なんて素敵な「成長物語」だろう。

メモ

映画『青春18×2 君へと続く道』
2024年5月4日。@ユナイテッドシネマ・豊洲(公開記念舞台挨拶あり)

もしかしたら、さらに18年後、ジミーは、台湾のカラオケ店主や松本で飲み屋を営んでいたリュウ氏のように、日本で「蕎麦屋」を経営しているかもしれない。

なお、冒頭の「子供ばんど」の話は、5月5日に「子供の日」にちなんで、2000本ライブまでの道のりを記録したDVD『実録 子供ばんどの歴史』(ビクターエンターテインメント)を見直した直後の私が、劇場で本当に思いだしたことである。

ちなみに、ジミーが1988年生まれというのは、パンフレットに記載された『僕たちは当時を2006年と定義して、漫画や音楽、ゲームなど当時台湾で流行っていたものを現地のスタッフに教えてもらいました』という藤井監督の発言を基にしている。


この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?