吸う息子、愛でる母
「あたーま、かーた、ひーざポン、ひーざポン、ひーざポン ♪ 」
泣いてる……?
奥さんの洗濯物を畳む手が止まっている。
1歳次男を見つめながら時が止まっていた。
「どうした……?」
「カ、カワイイ…尊すぎる……」
思わず、私もテレビのリモコンをもったまま動きが止まってしまった。
育児絵本が奏でる陽気なリズムにあわせ、窓から差し込む優しい朝日を浴びながら、次男は両手を上げ静かに身体を揺らしている。小さな身体をいっぱいに伸ばし、ふらつきながらも踊る姿はなんとも愛らしい。
これを見て泣けちゃうほどに、奥さんの末っ子次男に対する愛情は深く毎日カワイイが止まらないようだ。平日、仕事で一緒に過ごせる時間が限られているから余計なのかもしれない。
その後もしばらく「ほんとカワイイ…」「もう・カワイイ!」とあらゆるカワイイのレパートリーで次男を愛で続けている。
聞いてるとちょっと面白くなってきたので、しばらく黙って「カワイイ」を数えてみたら40分間で、なんと56回もカワイイが溢れ出ていた。1分に1.4カワイイだと…このペースで行くと1日300カワイイGETだぜ。ポケモンならば大渋滞だ。
呪文のように「カワイイ」を聞きすぎて私もおかしくなったのか「カワイイ」と言われたい欲がふつふつと湧いてきたので、洗面所へ行き、透かし前髪を作ってこっそり登場してみた。
「髪型、ブロッコリーみたいになってるよ」
いとも簡単に栄養満点の烙印をおされてしまった。
確かに40代おっさんの透かし前髪なんて誰も見たくないよね。早々に諦めて40分間に56回もカワイイが漏れ出していたことを伝えるとビックリしていたが「だってカワイイんだもん」とその後も変わらず次男を愛で続けていた。溢れ出る愛情。ありがたいもんだ。
ブロッコリーでいい休日の尊い光景。
数日後のこと、7歳三女と私が風邪をひいてしまい、消化がいいものをと奥さんが温かいうどんを作ってくれた。
胃に優しい味でズルズルあっという間に平らげた頃に、ちょうど冷めたうどんを次男が食べ出したら、また奥さんの「カワイイ」スイッチが発動された。
最近うどんを吸って食べることを覚えた次男。小さな口で頑張って吸うと「ちゅるっ」と音までなんとも可愛いのだ。
最初は、短かくカットしたうどんをあげていたが、奥さんも興奮しちゃって彼のチャーミングなうどん吸い見たさにどんどん、うどんが長くなっていく。
「それはさすがに危ないよ……」
「おっ!ほんとだ。これは危ない。カワイイは罪だな」
ちょっとわからないことを言いながら、ウドンをチョキチョキし始めた。
そして、一口あげるたびに「もうカワイイ!」
もう一口「カワイすぎる!」
もう一口「もうたまらん!」
もう一口「あー吸われたいぃ」
我が耳を疑い、奥さんにもう一度聞いてみた。
「うん、うどんになりたい」
「普段、あんなにもパイ吸われてるのに?」
「シッワシワになっちゃうね」
奥さんはそう言って、また泣きながら笑っていた。
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