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かしわと白菜

「思い出に残っている料理?やっぱりかしわと白菜やな」

久しぶりに実家に帰りご飯を食べていたら、なんとなく印象に残っているご飯の話になった。

「なんでやの?あんな美味しいもんたくさん食べさせてきたのに……」

何気なく言った私の一言に母は小鼻をぷくりと膨らませていた。

ステーキでも中華でも鰻でもなく” かしわと白菜 "なのだ。母が怒るのも無理はないかもしれない。かしわ=とり肉で、その名の通り、とりのもも肉白菜だけのシンプルな鍋料理。我が家ではそれを” かしわと白菜 "と呼んでいた。

作り方もいたってシンプル。

鍋にごま油を入れ、ぶつ切りにしたとり肉を炒め、焼き目をつける。

そこに醤油、酒、砂糖、みりんを加えてグツグツきたら、中火にしてざっくり切った白菜1/2玉をどさっと入れてしんなりするまで煮込む。白菜から水分が出るので最後に醤油と酒でまた味をととのえる。

こんな感じになったら食べごろ

とりの旨味が白菜にしみ込んで、白菜の甘さとあいまって旨味たっぷりの優しい味わいとなる。これを家族みんなご飯の上に直接のせて食べる

「やっぱりかしわと白菜は冷や飯に限る」

こんな事を言って冷やご飯と一緒に食べるのが私の定番だった。ほかほかの炊きたてご飯ではなく、冷や飯であつあつのかしわと白菜を少しクールダウンさせて一気にかきこむのだ。

イメージ的にはつけ麺みたいな感じだろうか?いやバーニャカウダか?いやどっちも温・冷逆か?どうでもいいか……。

ジューシーな鶏肉、旨味たっぷりの白菜、そしてそのダシが染みついたご飯が奏でる絶妙な常温のハーモニー。

ご飯と白菜ののど越しを楽しみながら食すことさえも可能になる。しかし油断するとマグマのように熱された白菜で火傷するから注意が必要だ。


皮めくれちまうから気をつけよう

みんな温かいご飯を食べていたが、私だけが「冷やでよろしく」と居酒屋の常連客のようなオーダーをして「お前は変わっとる」と父からよく笑われていた。

このかしわと白菜。私が小学生の時から共働きで、両親はいつも忙しくしていた為、ちょっと遅くなった時や、さっと食べたい時の定番メニューだった。

あまりによく食べたので、

「またかしわと白菜かいな……」

なんて生意気なことをよく言ったものだ。家族揃って鍋をつつき、みんなご飯の上にのせ黙々と食べる。飲むように食べるから鍋はあっという間になくなるし、盛り上がるわけでもない。でもこれを食べると心も体も温まり、腹の底にギュっと力が籠る。

もう誰も覚えていなかったけど、18歳の時、阪神大震災で被災してから数週間後、火を使った初めての料理も” かしわと白菜 "だった。

ガスコンロに紙鍋で作ったそれを口にした瞬間、温かさが身体中に染みわたり、鼻の奥までカッと熱くなったことを今でも鮮明に覚えている。

子どもの頃の思い出の料理ではなく、自分も親になってありがたみを感じた思い出の料理だと両親にちゃんと説明できればよかった。

先日、これを奥さんや子どもたちに振舞った。私がおすすめした通り、みんなご飯の上にのせ食べてくれたが、うまい・まずいといったリアクションもなく黙々と食べ10分も経たないうちになくなった。


ここまで煮込むと最高。

足りないというので最後にうどんを追加したが、これがまためちゃくちゃ旨かった。というか、こっちの方が喜んでいた。なんでやねん!

昔食べたものと全く同じ味を再現できた” かしわと白菜 "はとても優しい味わいだった。「またかしわと白菜かいな……」子どもたちに言われるかもしれないが、また作りたいと思う。

色んな想いが染みこんだ” かしわと白菜 "はいつまでも私を元気にしてくれる思い出の料理だ。

冷や飯でぜひお試しあれ。




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