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解析系研究者が使うObsidian ―Output編―

タイトル画像はImage Creator from Designer(Edge)を使用しました。


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目的と概要

研究成果が概ね得られた段階では、大体の研究者は論文として発表することを検討すると思います。
論文にすることで、その研究成果は国内外の研究者の目に触れ、それが次の研究に繋がり、科学の発展の一端(私は末端ですが)を担うことができます。

このため、論文は分かりやすい論理的な構成で、全体を通して主張を統一しておく必要があります。また、細かい表現等もなるべく統一感を持たせておく方が良いと言われています。
そして、当然ながら、データ的・論理的・文章的な意味で、間違いが無いようにすることが求められます。

上記は、読者の立場であれば当然のことに感じられると思います。
しかしながら、執筆する側からすると、そんなに簡単なことではないのです。
論文執筆には多大な労力を必要とします。簡単に書ける天才肌の方もいると思いますが、私にとっては難しいことです。
新しい論文を書くたびに、「この論文は今までで一番書くのが難しい」と思いながら書いています。

このnoteでは、こういう課題を抱えながらどうにかこうにか論文を書き続けてきた副業系研究者が、最近やっているOutputに向けた論文執筆マネジメントの概要を紹介します。
なお、Obsidianをタイトルに載せてはいますが、マネジメントの一部を担っている感じなので、前回同様Obsidian味は薄めです。この点ご了承の上、お読みいただければ幸いです。

関連する私の状況

Introduction等で触れていますが、研究に専念できる環境ではなく、副業に近い位置づけで取り組んでいますので、論文執筆に充てる時間は短いときは1日30分未満の時があるような状況です。
このため、今何に取り組むべきか、次に何に取り組むべきか、を常に意識して明確にしておかないと、執筆が進まない状況です。

使用するツール等(Obsidian以外)

Word

説明不要なぐらい世の中に浸透しているMicrosoftのWordですが、原稿執筆は主にこれで実施しています。
執筆を生業としている人達からは、評判悪い印象もあるのですが、使っている理由は2つあります。
1つ目は単に使いやすいからです。機能が多すぎるといった意見もありますが、アウトライン機能等、ちゃんと使えば重宝する機能も多いと思います。
Reference編で触れたZoteroとの連携も問題なくできます。
2つ目は世の中にWordを求められるからです。論文の投稿先の雑誌にWordファイルでの提出を指定されていることも多いですし、共著者にファイルを共有する際にもWordならば説明不要で修正等を追記してもらえます。

2つ目の理由が大きいですかね。適切な表現ではないかもしれませんが、世の中に迎合した方が、私の環境では合理的ということだろうと思います。

PowerPoint

こちらも説明不要なMicrosoftのPowerPointで、作図に使用します。
これもプロの人たちからは好かれていないイメージがありますが、使う理由は2つあります。
1つ目は私にとっては必要十分だからです。それほど複雑な図は作りませんし、グラフ作成は後述のR&Rstudioを使うので、若干の手直しや模式図作成程度であれば、PowerPointで十分なのです。
2つ目はプレゼンに図を流用する(もしくはプレゼンの図を流用する)ことが多いからです。論文執筆と並行、もしくは前後して、何らかの学会発表等をすることが多く、発表資料と相互に流用できると便利です。

こちらも2つ目の理由が大きいと思います。

R&Rstudio

Rは統計解析用の言語で、自然科学分野では非常に多く使われています。Rstudioはこれを使いやすくするためのアプリで、コードの補完等の便利な機能を提供してくれます。
統計的な解析が必要な場合は、大体はこのセットを使って解析をしています。
グラフ等の作図もかなり細かい調整までできるので、画像ファイルとして出力するところまでをまとめてする場合が多いです。そこまでしてしまえば、後は投稿用サービスにファイルをアップロードするか、Wordの原稿に図を貼り付けるだけで作業が終わります。

ネット上に解説記事がたくさんありますので、興味のある方は検索されてみてください。


Zotero

文献管理アプリです。詳細はReference編を参照ください。

Toggl Track

時間管理アプリです。Startをクリックするとカウントがスタートして、Stopをクリックするまでの時間を計測してくれます。
研究以外も含めて全ての時間をこれで計測するみたいな使い方が普通かもしれませんが、後述のとおり私の場合は論文執筆に充てた時間だけを計測しています。

Dynalist

頭を整理するためのアウトライナーです。
使う場面は主に2つあります。
1つ目は、論文作成の最初期に全体の構成を考えるときです。章、節、項といった項目立てを考えるのに加えて、段落レベルで何を記載するかをざっくり書いていきます。
2つ目は、作成途中で迷子になったときです。私の場合、書いている途中で「これ、何を言いたかったんだっけ?」となることが多いんですよね。経験上、そういう時は文章の構成が悪い場合が多いので、段落レベルで書いていることを要約して記載→全体を眺めて、順番を並び替えたり、記述の追加や削除を行ったりします。論文作成の終盤ではWord上で同様のことをする場合がありますが、大幅な構成変更になりやすい中盤までは多少面倒でも他のツール上に書き出す方が私の場合はやりやすいと感じています。多分ですが、改めて要約して記載する過程が頭の整理に役立っているのではと思います。

Obsidianを核とした執筆マネジメント

これらのツールの核となるのがObsidianです。具体的には、以前の記事で紹介した「執筆メモ」を使います。

執筆メモには、Logという見出しがあり、そこに日付(+たまに主な内容)を見出しとしたメモを記載していきます。
なお、見出しには、日付に加えてその日したことを1行ぐらいで記載することもあります。後で探しやすくするためですが、面倒でもあるので気が向いたときにしかしません。

毎日のLogに記載していることは主に2つです。
1つ目は、実施したことの記録です。
2つ目は、これから実施する予定の事柄や気になった事柄です。

次からは具体的な使い方の例を示します。
日付見出しの下に、大体は箇条書きで今日実施したことを記載します。


執筆メモのLogの記載例

各日付の見出しは、デイリーノートへのリンクになっています。ちなみに、これは、Natural Language DatesプラグインとVarious Complementsプラグインの合わせ技で、@マークを入力して、Todayを選択すれば今日の日付がリンクで入力されるようにしています。

@マーク入力による日付リンク

当然内容は日によって変わりますが、よくあるのは今日実施したことを記載しているうちに、「今後の進め方」が頭をよぎってメモをするというパターンです。

今後の進め方を今日記載したとします。時間の余裕があれば今日できる部分もあるかもしれませんが、できない部分については、翌日以降の日付の見出しを作って、その下に移動させます。
先の記載例で言えば、2024-03-01に今後の進め方を箇条書きでまとめて一旦記載していましたが、当日は4.1節の修正までしか終わらなかったので、それ以降の部分は2024-03-03の見出しの下に移動させています。

こうしておく利点は、デイリーノートからバックリンクで飛べることです。
Capture編で紹介したとおり、大体1日の最初にデイリーノートを開いて、Todoistへのメモなどを整理しています。
その流れで、バックリンクからワンクリックで執筆メモのその日付の箇所まで飛べます。
ここまでが、私の朝の習慣になっており、たいして意識せずに執筆メモに移動➡作業の進捗の思い出し+やらないといけない内容の確認➡執筆作業に入る、というフローができています。
「作業の進捗の思い出し+やらないといけない内容の確認」をまとめてできるのが個人的には結構大事なことに感じています。昨日の自分からの引き継ぎ書を読んでから作業に入る感じですね。こうするようになってから、執筆作業にスムーズに入れるようになった感覚があります。

執筆作業に入れば、内容に合わせて各ツールを使うことになりますが、特に自動化等をしているわけではないです。単に内容に合わせて必要なものを起動して使う、というだけです。Obsidianのプロの方々でしたら、この部分をシステム的に自動化するのかもしれませんが、私の場合は面倒でしていません。

Toggl Trackでの執筆時間の計測

執筆作業に入る時にはもう一つやることがあって、それがToggl Trackでの時間計測です。
Toggl Trackではプロジェクトの設定ができるので、そこで執筆のプロジェクト名を入力しておき、後はスタートボタンをクリックするだけです。
画面の例で「19792」となっているのは、本来は作業内容を記載する欄ですが、私の場合は原稿の文字数を記載しています。文字数だけで測れるものでもないのですが、原稿執筆の進捗の目安にしています。

Toggl Trackの画面

実のところ、スタートボタンを押し忘れることもちょいちょいありますが、ざっくりとした時間計測だけを目的としているので、特に問題には感じていません。
何のために計測しているかというと、年に1回程度ですが、自分の執筆ペース等をデータ解析的に見る、という趣味のためというのが主です。Toggl Track上でもある程度のグラフ化はできますが、データの出力も可能なのでRでも簡単にグラフ等を作成しています。やってみると結構面白いので、マニアックな趣味ですが研究者にはおすすめです。

もう一つのメリットは、週1回メールでWeekly Overviewが送られてくることです。今週は割と執筆できたな、今週はできなかったな、みたいなのを確認する習慣になっています。

Weekly Overviewの例

影響を受けた本等

ついでに、いくつか私の執筆マネジメントに影響を与えた本をご紹介しておきます。

一言でまとめれば「黙って毎日執筆しろ」という本です。
たくさん書くには論文執筆を習慣にすべきということが書かれていて、習慣にするためのノウハウも散りばめられています。また、著者は心理学者で、研究者にありがちな「書かない言い訳」を心理学的な観点を踏まえて論破していくパートは耳が痛いですが、納得させられます。
この本を読んでから、「黙って毎日執筆」を目指してきたことが、上記の執筆マネジメントにつながったように思います。ちなみに、執筆の文字数を計測するというのも、この本に書かれているのを真似しています。


アウトライナーを使うきっかけになった本です。マインドマップ等の他の方法もいろいろ試したのですが、論文執筆に関してはアウトライナーが一番使いやすいなと常々思っています。
また、Wordでのアウトラインの使い方も勉強になりました。


Obsidianの使い方に留まらず、情報管理術についても分かりやすく説明してくれている本です。我流でやってきた私に情報管理の基礎を教えてくれた本と言っても過言ではないでしょう。
全然そのままではないですが、一番Obsidianの使い方の参考にさせてもらった書籍です。
リンクにしているブログも大変参考になります。


参考にしたというよりも、後から読んで結果的に近いことをしていたなと感じた本です。
研究以外の仕事全般の話ですが、共通する点が多かったように思います。

今後について

一連の記事はこれで完結になります(終われてよかった…)。
読んでいただいた皆様、リアクションを頂いた皆様、ありがとうございました。何かしらの参考になっていれば幸いです。
今後また記事を書くかは気分次第ですが、いつか何か書ければと思います。

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