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趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.358 映画 吉田喜重「秋津温泉」

こんにちは、カメラマンの稲垣です。

今日は映画 吉田喜重の「秋津温泉」(1962/日)についてです。


文学の香りがする物語だが、単なる恋愛文学だけではなく結構斬新でそこは松竹ヌーベルバーグの実験精神を感じさせる。

まずは撮影成島東一郎の映像が抜群に素晴らしい。日本の美しい四季と、日本家屋の中で陰影に満ちた映像、外に出ると移動撮影のダイナミックさ。そして女優の美しさ色っぽさをとことん引き上げる照明の妙。

そして、やはり主演女優の岡田茉莉子さんの魅力が、この映画を支えている。

あえて男主人公の長門裕之さんは伏せておきたい。もちろんダメな男として演じていると思いますが、あまりにもダメすぎてもう見るのも嫌になる程。桑田佳祐さんに似すぎて変な感じにw

そうこの映画は美しい岡田茉莉子さんを堪能するためにあると思います。

最初病弱で自殺願望がある男を助け、恋愛をし、最後はその愛ゆえに自殺してしまう。

まさに愛によって愛するあまり、深い沼にハマっていく女性。

可憐な元気な少女から歳を重ねて妖艶な色気、最後は死へ向かう狂気まで。

もう女優としたら一番最高なシチュエーションでしょう。

岡田さんは衣装まで担当したらしく、ビジュアル的にも見事です。



物語は、岡山県の山奥の「秋津温泉」。学生の主人公周作(長門裕之)は肺結核を患い叔母を頼ってやってきた。

療養のために秋津温泉で過ごすが、自分の病気や戦争などで弱気になり自殺したいと言う。

そんな周作を宿の娘新子(岡田茉莉子)は励まし支える。そして戦争も終わり日本は明るい時代に。

数年後、再び周作は秋津温泉にやってくる。

荒れた生活によって体の調子がおかしくなった療養のためだが、文学仲間とタバコも吸いお酒も飲み、しまいには新子に心中してくれと頼む。

周作に惹かれる新子は、二人で心中を図るが、新子の健康的な心身に周作は生きることの美しさを知り東京へ帰って行った。

また周作は秋津に来た。新子は喜ぶが、周作は文学仲間の妹と結婚したことを告げて帰っていった。

四度目、二人が出会ってから10年目。また周作は秋津にやってきた。その夜初めて二人は結ばれた。

それから10年後、周作は取材旅行で秋津にやってくる。新子は旅館を売り、一人孤独に過ごしていた。

2人は静かにお酒を飲み、新子は初めて自分から「一緒に死んで」と頼む。周作は肉体だけが目的で翌朝東京へ帰る。

新子は途中まで見送り、周作の姿が見えなくなるとカミソリで手首を切る。周作は心配になり戻り新子を探すと岩場で息を引き取った彼女を発見する。



まさに文学。男女のすれ違いを描いている。

主人公の男がエセの文学に傾倒しているから余計に薄っぺらさを感じる。そこには愛はない。本当に自分勝手で映画鑑賞中嫌になっていた。多分その自分勝手さが自分の中にもあるのでしょう。

そして愛によって男を救い、そして愛によって裏切られ、10年間も待ち続けて
、最後愛によって死んでいく。

新子がしみじみと「10年たってしまったわ」という台詞が印象に残ります。

男を愛して、何もせず10年間待ち続ける。女性の人生を10年もほっておくなんて。

なんという罪深いことなんでしょう。

ただ、長門さんは嫌な男をちゃんと演じたと思いますが、やはり10年間も待ち続ける説得力のあるイケメンじゃありません。そこが残念でした。

最初は芥川比呂志さんでクランクインしたらしいですが病気で降板して、急遽長門さんが代役になったらしいです。

芥川比呂志さんだったらより文学の香りが充満し、10年も待っても説得力があったのに。



まあとにかくこの映画は女優岡田茉莉子さんを見る映画、岡田茉莉子さんが演じた新子の女の人生を見る映画です。

世の男性諸君、女性を待たせてはいけません。

今日はここまで。




「私後悔するとか諦めるとか そんな辛い思いするくらいなら死んだほうがよっぽどまし それなのにとうとうそうなってしまった 私にはこれ以上出来ない 何にも出来なかったのよ 私に残ったのはこの秋津荘だけね」
/「秋津温泉」より







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