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本や映画や音楽について

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本や映画や音楽についてのあれこれ
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濱口監督は本当に悪い人だよなあ…と実感できる映画『悪は存在しない』

いやまあ、濱口竜介監督作品を観るのだから居心地の悪さを感じるに決まっていて。嫌だなあ…と覚悟して足を運んだのですが(褒めてます)そんな気持ちで太刀打ちできる訳もなく。いやはや凄い映画でした。最期のあの場所、あの空間をぼくはずっと忘れないと思う。放り出された。 『悪は存在しない』は解説も解釈も読みたくないなと思う映画でした。ぼくはもう受け取ったんだから。宙ぶらりんなままあの場所のことを考えていくんだと思います。たまたま読んだこの随筆でふとあの場所を思い浮かべたり。 映画好き

ゴールデンウィークに読んだ四冊。

『鴨川ホルモー』『ホルモー六景』万城目学恥ずかしながら未読だった万城目学の『鴨川ホルモー』『ホルモー六景』をゴールデンウィークで一気読み。何者でもない奴らの青春が埃っぽい京都を行ったり来たりしていました。ワクワクするホラ話と愛すべき登場人物たちの愛すべき日々。面白かったです。 『まとまらない言葉を生きる』荒井裕樹とても良い本でした。 心のポケットにいつも入れておきたい。 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆明治から令和に至るまでの「読書事情とその背景」をわかり

ぼくやあなたの映画。『夜明けのすべて』

いい映画でした。というか、とてもいい映画でした。タイトルやポスターの印象でよくある邦画恋愛物かと思っている方こそ観た方がいいと思います。全然ちがうので。恋愛の要素を丁寧に省いた姿勢に作り手の矜持を感じます。こういう映画が作られること自体が素晴らしい。 『夜明けのすべて』はとても良い映画です。それは間違いない。では、どう良い映画なのか?となるとぼくはまだ語るべき言葉を持ちません。ひとつだけ確かなのはここには何か新しいチャレンジや取り組みがあり、それを見事に達成しているという手

ビジネス書の読み方。

小説やノンフィクションを読むのが好きなのですがビジネス書も読みます。そういうお年頃なので。ビジネス書の中には「こりゃあ話半分だな」とか「この章は手を抜いているな」とか色々ある。「内容的には半分で終われるのにベージ数を稼ぐために薄めて伸ばしたな」とか、「後半はダレて作者の手癖が出てるな」とか。それがダメだとは思いません。そういう本だってある。 大切なのは第三者的な視点だと思います。ぼくたち読者は第三者なんだから。「本に書いてあるから」とそのまま受け入れたり真面目に捉えるのはち

2023年に観た映画

2023年に観た映画リストです。 ◎は心を揺さぶった作品 ⦿は面白かった作品 リンクが貼ってある作品は感想noteを書いたものです。よかったらご覧ください。 『PERFECT DAYS』⦿ 『TALK TO ME』⦿ 『窓ぎわのトットちゃん』◎ 『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』 『ゴジラ -1.0』 『オープニングナイト』 『アメリカの影』 『さよならほやマン』◎ 『君たちはどう生きるか』⦿ 『オオカミの家』⦿ 『王立宇宙軍オネアミスの翼』 『ウィシェフ

泣くしかないから笑うしかないじゃないか。映画『PERFECT DAYS』

泣くしかないから笑うしかないじゃないか。そんな映画でした。ぼくは好きです。小津安二郎の雰囲気を感じさせつつも、ジム・ジャームッシュの『パターソン』にも通じる感じ。ラストの役所広司はさすがの圧巻。グッときました。 Webサイトも良くて。キャストページに掲載される登場人物の説明を読むとちょっとしみじみするので映画を観てからがお薦めです。美術館の作品の脇によくある解説のような役割。写真屋の店主が翻訳家の柴田元幸さんみたいだな…と思っていたらまさかの本人だった。

引きずり込まれました。映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』

いやいや、ちょっとこれはとんでもない。引きずり込まれました。「これぞ映画!」の王道感にあふれているのに「新しい才能に直面している!」という観客としての高揚感もあって。最高でした。主役のソフィー・ワイルドもめちゃくちゃ魅力的で。だからこそ切ない。 監督のダニー・フィリッポウ、マイケル・フィリッポウ兄弟は映画制作の第一歩としてYouTubeで名を成した方らしいのですが、まさしく新しい才能の登場だと思います。お近くの映画館でやっていたらぜひ。お薦めです。 主人公の軽率さが気にな

とても素晴らしかった映画。『窓ぎわのトットちゃん』

世間の評判がよく、「この人の目利きは参考になる」といつもTwitterを楽しみにしている方々の評判も高いのに自分は全然ダメでしょぼんとして帰るという映画が続きました。『ゴジラ-1.0』『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』ぼくは両方ダメでした。 がっかりしながら観終わってTwitterで感想を漁るも絶賛ばかりでさらにしょんぼりするという負のループ。みんなが「いい!」と評しているところが自分にとっては「あまり好きじゃない」ということばかりで。信頼している方の絶賛コメントを読んでも全然共感

誰もが好きになる映画じゃないかもだけど、ぼくは大好きだし、ぼくが好きな人に観てほしい映画だったし、こういう映画が好きという人が好き。#さよならほやマン

誰もが好きになる映画じゃないかもだけど、ぼくは大好きだし、ぼくが好きな人に観てほしい映画だったし、こういう映画が好きという人が好きです。相生座ロキシーで上映中なので長野市近郊の方はぜひ。 キャスティングが奇跡のように機能している映画でした。アフロ(MOROHA)、呉城久美、黒崎煌代、松金よね子の存在感が素晴らしかった。特に呉城久美さんが凄かった。同じ台詞を他の俳優に言われてもこんなに揺さぶられないと思う。後半ボロボロ泣いてしまった。弟役の黒崎煌代さんも本当に素晴らしかった。

冬の閉じ籠りモードと音楽

基本的にのほほんと生きているのですが、寒くなると気持ちが落ち込みネガティブになります。閉じ籠もりモードになる。毎年なので慣れてはいますが対策は必要になる。漫画や本も読めないし、親しい人としか会いたくない。こういうとき音楽が助けになってくれるのを実感します。音楽ってすごいですよね。 ぼくは本や漫画が好きでほぼ毎日本屋に寄ります。本棚の背表紙を眺めているだけで幸せなんですよね。妻からは「そんなに毎日本屋に行っても変わらないだろう」と言われますがそんなことない。何かしらの変化があ

異邦人である二人と現代に生きるぼくら。星野源とオードリー若林の『LIGHTHOUSE』が素晴らしい。

動画のサブスクを自分に禁じていたんです。時間が溶けるに決まっているから。でも、星野源とオードリー若林が「悩み」について語る数ヶ月なんて。しかもプロデューサーは佐久間宣行で。この番組を観るためにNETFLIX に初めて加入しました。一気に観ました。本当に素晴らしかった。 生きづらさと異邦人『LIGHTHOUSE』でオードリー若林が周囲と馴染めない自分を「来訪者」と称していました。その気分はとてもよく分かる。共同体の中にいるけれど自身が異分子な感じ。ぼくもあります。来訪者という

『君たちはどう生きるか』と手触り。

連休明けに出社したら、同僚から「稲田さん、『君たちはどう生きるか』どうでしたか?ぼくはまだ観てないんですけど、難しいとか分からなかったという感想ツイートもよく見かけるんですよね。稲田さんはどうでした?」と聞かれました。きっとこういう会話は日本中で交わされているんだろうなあ…と思いました。 難しい/分からないという気分もわかるけれど、それだけで判断してしまうのはもったいないと思うんですよね。 以前、谷川俊太郎さんが鶴見俊輔の言葉を紹介していたのが印象的で。 "手触り" はそ

見逃すべきではない傑作『怪物』

『怪物』監督 是枝裕和/脚本 坂元裕二 本当に素晴らしい映画でした。重いテーマを扱っているので最初の一章は帰りたくて仕方がないんですが、二章、三章と進むに連れてそんな自分を恥じるような優れた映画でした。 三部構成で視点が変わることについて「技巧が鼻につく」といった感想や、いじめやハラスメント、LGBTについて「物語のために利用している」といった批判をたまに目にしますがぼくは全くそう思いませんでした。 この映画は基本的に観客巻き込み型だと思います。「安全な場所でエンタメを

祝祭感あふれる渋谷文泉閣の『旅する製本展』

デザイナーの森澤さんに教えて頂いて渋谷文泉閣の『旅する製本展』へ行ってきました。すごーく面白かったです。 内容が面白いのはもちろん、会場の雰囲気にキュンときました。来場者の表情や雰囲気からも愛されている会社なのが伝わってくると同時に、社員さん皆さんの何とも言えないエモーションが会場全体に充満していて。この会社ならではのマジックがあると思いました。素晴らしかったです。 この独特な雰囲気は何だろうな…と考えるに、一番近いのは「祝祭感」なんですよね。しかも、収穫祭や秋祭りといっ