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"街の顔的"建築「ホーチミン市人民委員会庁舎」

初訪 2012.06  更新 2021.11.10


ホーチミン市にあるコロニアル建築の中でも、
街の顔的な存在感を放つ、
「ホーチミン市人民委員会庁舎(UBND Thanh Pho Ho Chi Minh)」。

歩行者天国「グエンフエ(Nguyen Hue)通り」の端に建ち、威風堂堂とした姿で通りを見守る、豪華なコロニアル建築です。

ベトナムのコロニアル建築とは
半世紀以上にわたりフランスの統治下に置かれたベトナムには、その間に建てられた教会や劇場、邸宅などさまざまなフランス様式の建築物が残っています。当時、植民地化の拠点となっていた南部のサイゴン(現ホーチミン市)は、特に力作揃い。
今回紹介する「ホーチミン市人民委員会庁舎」のほか、「市民劇場(オペラハウス)」や「聖母マリア教会」などがその代表格です。
※ コロニアル = 植民地様式 の意味


ホーチミン市人民委員会庁舎とは

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1908年に、駐在フランス人用のワーキングホールとして建てられた、元サイゴン市庁舎。(サイゴンはホーチミン市の旧名)


パリの市庁舎をモデルに、設計をフランス人建築家ギャルド(Fernand Gardes)、彫刻は彫刻家のリュフィエ(Antoine-Justin Ruffier)とボネ(Bonnet)、建設はLailhacarが担当し、10年の歳月をかけて建てられました。

現在は、人民委員会の本部として利用中のため、残念ながら内部の見学はできませんが、緻密で豪華なレリーフは外から眺めているだけで、うっとり。

ロココ風のレリーフや、アールヌーボーのアイアンドアなど、ヨーロッパのさまざまな様式が混在する折衷スタイルで、あちこちに見応えが散りばめられています。

2020年4月には、国家級芸術建築遺跡に認定。
"東洋のパリ"といわれたホーチミン市の、遺産的名建築です。


建設までには長い道のりが
もともと建設計画が持ち上がったのは1870年頃でしたが、
土地の整地や許可に関わる問題が重なり、プロジェクトは長期化。
結局、市議会が建築家ギャルドの案を承認したのは、それから26年後の1896年でした。
そして、2年後に着工(1898年)するものの、過剰な装飾が論争を呼んだり、彫刻家の契約が無効になり引き継いだりしながら、10年をかけて完成に至る(1908年)という、なかなか困難の多かったこの建築。

竣工当初は、フランス語で市庁舎を意味する「Hôtel de Ville」もしくはベトナム語の「Dinh xã Tây」と呼ばれ、建物の前には、石のベンチと広い芝生、トランペットの舞台が設置。フォーマルな機会にはフランス軍のバンドが演奏することもあったそうです。


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政府機関のため、建物に接近しての撮影はNGなので注意が必要です。

撮影は、通りを挟んだ向かい側(上の写真でいう右側)から。
グエンフエ通りのホーチミン像前も、絶好の撮影スポットです。


装飾について


1番の見どころは、シンメトリーな建物に散りばめられた豪華なレリーフ。
まずは、建物の正面に配置された3体の女性像から見ていきましょう。

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中央の彫刻は、野獣を従える強い女性と子ども。


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左右の彫刻は、それぞれ長剣を携えた女性で、
統治国フランスの力を表しています。

紋章や柱の装飾など、各所で威厳を示す装飾は、アンピール(帝政)様式の特徴ともいわれ、彫刻の表現は細部まで精巧。
たとえば風にはためく布の表現もとても繊細で、像の周辺に散りばめられた植物のモチーフも華やかです。


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建物両側の天井モチーフ

フランス風モチーフの両側には、よく見ると人型の彫刻も施されています。

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ゲートの上部にある浮き彫り
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中央でアーチを描いて並ぶアイアンドア
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上部の時計部分
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最上部の鐘楼

中央に背の高い鐘楼を据えるのは、フランス北部の建築スタイル。
ここではベトナム国旗がはためいています。


見学不可の内部写真

通常は外から見るのみで、庁舎内に立ち入ることはできませんが、
今回調べてみると、息を呑むほど美しいホールの画像が…

ということで、現地メディアの写真を数点お借りして。

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©️VN Express/Photo by Hữu Khoa

こちらは、1階(日本でいう2階)のホール天井。
絵画や彫刻を組み合わせた特に煌びやかな仕上がりは、まるでフランスの美術館や宮殿のよう。
なんだか舞踏会でも始まりそうな雰囲気です笑

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©️Dân Tri

階段の装飾も、重厚感のある造形。
荘厳な雰囲気を放っています。

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©️Dân Trí

手すりや踊り場にも手の込んだ装飾が。
もし、一般公開の機会があれば、ぜひ見に行きたいところです。


ホーおじさんの像

先ほど「絶好の撮影スポット」と書いた、ホーチミン像前。

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建国の父といわれる「ホー・チ・ミン(Ho Chi Minh)」氏の銅像と、人民委員会庁舎が同時におさまる撮影スポットとして、ガイドブックなどで度々登場する場所。街の象徴的な写真が撮れます。

「ホーおじさん(Bac Ho)」の名でも親しまれるホーチミン氏の像は、台座を含めて高さ7.2m(台座を除くと4.5m)。


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現在の手を上げた像は、
ホーチミン主席生誕125周年(2015年)の際に変更された新デザイン。

以前、この場所にあった先代のホーチミン像「児童を抱えたホーおじさん」は、3区ナムキーコイギア(Nam Ky Khoi Nghia)通りの児童文化会館前に移設されています(写真上)。

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ちなみに、ホーチミン像の交代中はこんな感じで囲われていました。


目の前は歩行者天国

そんなホーチミン像が立つグエンフエ通りは、2015年4月に開通した、ベトナム初の歩行者天国。

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気温の落ち着く夕方以降は、通りに座っておしゃべりしたり、ギターを弾いたりと、多くの人で賑わう夕涼みスポットになります。

人が集まれば、どこからともなく屋台やストリートパフォーマーが登場するのが、商魂たくましいアジアらしいところ。
そして、毎晩お祭りのような歩行者天国が完成します。

(時期によってはベトナムの国技ともいわれるサッカーのパブリックビューイングがあることも。そんなときは、通りが隈なく人で覆いつくされます。)


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流れる音楽に合わせて水と光が変化する "音楽噴水”

特に賑やかなのは、蓮のガラス製モニュメントが目を引く噴水あたり。


また、多くのカフェやショップが入居する古アパート「42 グエンフエ」
もこの通り沿い。
周辺にはミルクティなどテイクアウトできるお店も多いので、憩う市民にまみれながら、アジアの活気を肌で感じてみるのもオススメです。(スリにはご注意を)

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ライトアップされる夜は、人民委員会庁舎も雰囲気が一変。
ドラマチックにその美しさが際立ちます。
(新正月の年末には、庁舎に映像を映し出すプロジェクションマッピングが行われることもあります。)



かつて運河だった歩行者天国

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©︎ NXB Tổng Hợp TPHCM 「Di Sản Sài Gòn Thành Phố Hồ Chí Minh 」

いまは多くの人で賑わうこのグエンフエ通りも、かつては「キンロン(Kinh Long)」という名の運河でした。
後に埋め立てられ、フランス語で「シャルネ(Charner)大通り」、ベトナム語では ”埋め立てられた運河“ を意味する「キンラップ(Kinh Lap)通り」と呼ばれるように。

現人民委員会庁舎を建てる際には、元運河近くということもあり、整地の面でも時間がかかったようです。

拡張計画も

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©️ ĐÌNH PHÚ CHỤP LẠI TỪ TRIỂN LÃM

2017年には人民委員会庁舎の拡張計画とともに、選考によって選ばれた案(写真上)が公表され、意見を集めて修正するための場が設けられました。

ただ、建設予定地に築100年超のコロニアル建築(Dinh Thuong Tho)があること、モダンな外観などから否定的な意見も多く、現段階で工事は始まっていない模様。
今回もまた、庁舎の建設と同様に長い道のりになるのかもしれません。

ちなみに上の写真の拡張案は、アメリカのGensler社(世界最大の建築会社100社のうち2位に選出された建築設計コンサルティング会社)が手がけたもの。地下4階、地上6階建てで、拡張部分にはダイナミックな現代性をプラスしながら、省エネや環境にも配慮。屋上庭園やヘリポートの計画も盛り込んだものだそうです。



仏領時代に建てられたコロニアル建築と、都会的なビルが共存する商業都市ホーチミン市。

過去と現代が交錯する街を歩きながら、コロニアル建築の美しさにしばし見惚れてみては。


ホーチミン市人民委員会庁舎
UBND TP. HCM(Uy Ban Nhan Dan Thanh Pho Ho Chi Minh)


住/86 Le Thanh Ton, Q,1. HCMC
※内部は見学不可


[参考]
VOV World
・VN Express
 01
 02
Dan Tri
Bao Lao Dong
Bao Nguoi Lao Dong
Kien Viet
Vietjo
(書籍)Di Sản Sài Gòn Thành Phố Hồ Chí Minh  ©︎ NXB Tổng Hợp TPHCM

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