見出し画像

論文紹介:核酸ワクチンによる心臓への影響

これが今年最後の記事になると思うが、ここのところ少し話題になっている重要な論文を紹介しておこう。これは核酸ワクチンによる免疫疾患リスクの向上について非常に重要な知見である。興味深い研究なので是非皆さんも拡散してほしい。件の論文は慶応大から出されている以下のものだ。

「Assessment of Myocardial 18F-FDG Uptake at PET/CT in Asymptomatic SARS-CoV-2-vaccinated and Nonvaccinated Patients」
Radiology. 2023 Sep;308(3):e230743.

この論文では18F-FDGという標識分子の心臓への取り込みを測定している。心臓MRI検査や18F-FDGのPET/CT検査は、ウイルス性心筋炎、心臓サルコイドーシス、がん治療に関連した心機能障害など、さまざまな原因による心筋炎症の非侵襲的診断に日常的に用いられている。心筋炎が疑われる患者においては心臓MRI検査の後期ガドリニウム増強またはT2高強度とPET検査の18F-FDG取り込みがよく一致することが報告されている。この18F-FDG取り込み増強は新型コロナウイルス感染後の心筋炎やワクチン接種後の心筋炎でも認められている。今回の重要なポイントはSARS-CoV-2ワクチン接種後の無症状者における18F-FDGの取り込みを評価した点である。

結論として、この研究では以下の事が示されている。心筋炎症以外の適応でPET/CTを受けた患者群において、SARS-CoV-2ワクチンを接種した患者は、SARS-CoV-2ワクチン接種前に撮影した患者と比較して、2回目のワクチン接種から180日後までの画像で心筋18F-FDG取り込みが増加していた。ワクチン接種患者は非接種患者と比較して、性別、年齢、受けたmRNAワクチンの種類に関係なく、PET/CTスキャンで心筋の18F-FDG取り込みが高かった。

つまり、症状が無くても心筋における炎症に関連すると思われる事象が、接種者の年齢や性別に関係無く長期に渡って観察されたということだ。これは核酸ワクチン接種者は自覚症状の有無に関わらず、一定の免疫学的リスクを負っている証明に他ならない。ただしいつも言っている通り、自己免疫疾患の発症は様々な要因の積み重ねによるものであり、すぐに全員がどうこうという話ではない。核酸ワクチンの接種は明確に自己免疫疾患リスクの一要因となる、ということだ。そしてそれは確実に証明されてきている。

また、この論文では単一の指標を用いた現象の解析を行っているだけになるため、筆者らも本研究の知見を検証するためには、その他の指標も含めた前向き研究が必要であろうとしている。しかし、ここで認められている現象はその背景にある免疫学的機序や核酸ワクチンの分子生物学的特殊性を含めて考察すれば重要な意味を持つ。

過去に説明した通り、上記の様な組織に対する免疫系の攻撃は核酸ワクチン特有の免疫学的リスクと関係している。通常のワクチンは細胞外の抗原をMHC-II経路で抗原提示するため、細胞性免疫の誘導は弱い。それに対して細胞内に抗原を発現し、MHC-I経路によって抗原特異的キラーT細胞を誘導する核酸ワクチンは効果という面で非常に大きな寄与をしている一方で、非常に強力な炎症性悪影響を及ぼしている。そして、核酸ワクチンによるキラーT細胞活性化に関して最大の問題点は「あらゆる自己の細胞に抗原を提示させ、それに反応するCD8T細胞が活性化されている」という状況の出現である。CD8T細胞の標的となった細胞は当然ながら破壊の対象となる訳で、それが様々な臓器の炎症に結びついているのだ。また、自己の細胞が破壊されるという現象も、以前に書いた細胞死による細胞内物質の漏出という自己免疫疾患リスクに直結する。ずっと昔から、CD8に自己細胞を標的に反応させるだけで炎症性疾患や自己免疫応答状態になる事は実験されているのだが、類似の減少がそこかしこで起こる事になるのだ。心筋炎や自己免疫性肝炎など含め、臓器特異的自己免疫疾患ではCD8の活性化・浸潤が多くみられ、主要なエフェクター細胞と考えられているが、ワクチンの副反応としてこれらの臓器特異的炎症性疾患が多いのはこの機序が関係していると考えても不思議はない。実際に核酸ワクチンによって引き起こされた心筋炎や自己免疫性肝炎においてはCD8陽性キラーT細胞の浸潤が確認されているが、症状の有無に関わらず炎症そのものは一定の割合で生じていると考えるのが妥当だということが、核酸ワクチンに特有の免疫学的機序の面からも想定される。

重要なことなので、何度でも言っておこう。核酸ワクチンに特有の分子生物学的機序と免疫活性化能は自己免疫疾患の明確なリスク要因であり、その蓄積は自己免疫疾患の発症確率を上げることは間違いない。多くの場合、自己免疫疾患の発症と言うのは一つの要因で即時引き起こされるというものではなく複数の要因の積み重ねで発症が引き起こされる。今回の研究で明らかなことは、現時点で発症していなくても自己免疫疾患リスクの蓄積は間違いなく起こっているということだ。核酸ワクチンの長期的リスクを軽視している人間は正しい免疫学的知識を学習し、よく考えた方が良い。

(参考)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?