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丁度良いワクチンアジュバントとは?

前回の記事ではワクチンに使うアジュバントの選択について、その重要性と難しさを伝えた。免疫活性化が強過ぎれば免疫疾患のリスクが上昇し、弱すぎれば感染防御効果が期待出来ない。特に、感染防御についてはIgGではなく粘膜IgAの上昇が大事だということも過去に説明した通りだ。その点については、粘膜ワクチンの研究などが進んでいるが、効率良くIgAを誘導するのは難しく、粘膜ワクチンに使えるアジュバントもやはり課題である。

これらについて、少し面白いアジュバントを見掛けたので紹介しておこう。論文もあるが、下記の製品ページが良くまとめられていて、参考論文もページ下部に記載されているのでそちらも見てほしい。

このリピドAというアジュバントは物質としてはTLR4というパターン認識受容体を活性化するLPSの仲間である。まずLPSについて簡単におさらいしておくが、自然免疫の活性化において重要なTLRの中で、細菌の膜構成成分であるLPSを認識するものがTLR4である。LPSはTLR4を刺激して樹状細胞やマクロファージなどの自然免疫系細胞を活性化するのだ。アジュバントとしての価値も昔から研究されてきたし、実験的には似たような物質がよく使われている。強さで言えば、アルミニウムアジュバントよりは強く、核酸系のアジュバントよりは弱いという中間くらいの強さであろう。

このLPSの中でも、Alcaligenesという菌属に由来するものは毒性が低く、アジュバント性能は維持されているとして注目されたようだ。強めのアジュバントを使う場合に毒性が低いというのは非常に重要である。また特筆すべきは、粘膜ワクチンにも応用可能性があるという点であり、このリピドAをアジュバントとして鼻腔内免役を行うと、粘膜IgAの産生も大きく上昇する事が明らかとされている。粘膜IgAの上昇は感染防御という観点で非常に重要であり、これが実現すればワクチンとしての価値は大きく向上する。

いつも言っている通り、新型コロナウイルスに対して使われているワクチンは現状で粘膜IgAの産生が誘導されない。それ故に、感染防御効果は限定的であり(感染防御に効果があると言っているのは、重症化・発症予防効果が結果としてその様に見えているだけ)、呼吸器症状以外の、特に中枢神経系に関する症状は防げない事も分かっている。感染自体を防がないと神経系症状が防げないのだ。そのため、粘膜IgAの誘導が非常に重要であり、それを達成する事の出来るワクチンであれば大きな意味があると言える。

LPS関係のアジュバントの中には既に臨床応用されているものもあり、このリピドAも現在臨床試験を目指しているようだ。現時点での印象としては、比較的有望なアジュバント候補に思える。アルミニウムアジュバントでは対抗できない感染症について、それよりも少し強く、核酸系のアジュバント(核酸ワクチン含む)ほど強過ぎない。核酸ワクチンの様に無秩序なMHCクラスI抗原提示を引き起こさないし、リポソーム系のアジュバントやワクチンモダリティの様に、未知の機序を心配することもない。それが私の印象である。いずれにしても、アジュバントに関する知識と情報収集は、今後起こるであろう様々な感染症パンデミックにおいて適切な判断をするためには必須である。

(参考)


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