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日本と海外のイマーシブシアター



クリエイティビティの焦点


前回の記事で、海外では「観客が作品世界の一部になる演劇体験」を総称して、イマーシブシアターと呼んでいると書きました。

そのため、イマーシブシアターのクリエイティビティの焦点は、
どのように観客を作品世界の一部にさせるのか」という点にあります。

よくイマーシブシアターについて語られる切り口として、
表現方法が芝居、ダンス、歌であるか、観客は自由に回遊するか、誘導されるか、などがあります。

しかし、質の高いイマーシブシアターは
観客を「どのように作品世界の一部であると感じさせるのか」を追求していくことが、クリエイターに求められます。

例えば、言わずと知れたSleep No Moreは観客全員が、白いマスクを着用します。観客自身が作品の中にいながらも、自分の存在を消す「Anonymus」(匿名)な存在になることで、作品世界に溶け込ませています。

観客は全員白いマスクを着用する

同じ仕組みを活用しているのが、イマーシブフォートザ・シャーロック。180人程度の観客が、自由に元ビーナスフォートの一角を歩き回りながら、シャーロックが謎を解決していく姿を追っていきます。観客は配布されたバンダナで顔を隠し、作品に参加することで、シャーロックの事件の目撃者になるというわけです。

どのキャラクターを追っても良い仕組み

Hotel Sheさんが主催する「泊まれる演劇」では、観客は作品鑑賞中に役者へ直接話ができます。役者から得た情報を元に、観客同士て話し合い、物語を紡いでいくことで、観客は作品世界での出演者のような感覚に陥ります

登場人物たちが直接話しかけてくる

DAZZLEさんの作品では、作中に謎解きタイムがあり、観客は会場内を歩き回り謎を解いていくことで物語、作品世界に能動的に入っていきます。

「Venus Of Tokyo」ではビーナスの謎を解いていく流れだった。


現状、日本のイマーシブシアターの作品は、自由に会場を歩き回りながら、「謎解き」や「脱出ゲーム」のような要素を演劇的な空間に組み込み、能動的に観客を作品に参加させることで「観客を作品世界の一部にさせる」ようにしている傾向が強くあるようです。

海外のイマーシブシアター


海外のイマーシブシアターで、さまざまな手法を使い「観客を作品世界の一部にさせる」試みがされています。今回はその一部をご紹介します。


Say Something Bunny

たまたま、道に落ちていた60年前の家庭用音声録音機を拾い、録音機に残っていた会話を分析し、作品化した "Say Something Bunny" 24人の観客は、その録音に登場する家族の役を与えられます。(私は、親戚のおじさん役…笑)実在した家族の録音音源を通して、その家族の3年間を、与えられた役視点で追体験することで、擬似的にその家族の一員になった感覚を作っていました。

・観客の動き:着席
・表現方法:録音を聞く、補足的な演技
・物語:起承転結を追う

作者のAlison S.M. Kobayashi


👇 6:10分位から見ると、作品の様子が見れます。


Then She Fell

精神病院を舞台に、鏡の国のアリスと、作者のルイスキャロルの世界が融合していく作品。たった15人の観客が、それぞれ1-3人のグループに別れ、小さな部屋を誘導されながら巡っていくことで、観客同士がはちあう事なく、世界には自分たちしかいない感覚を作っていました。

・観客の動き:誘導形式
表現方法:ダンス、ややセリフ、一部飲食
・物語:オムニバス形式

例えば、以下の写真のシーンでは、観客は1人で小部屋に入ります。トランプ役の男性に、目の前にある白い薔薇に、赤い絵の具を塗れと指示されます。観客は薔薇を赤く塗りつぶし、トランプ役に戻します。しかし、アリスの物語のごとく、赤の女王の命令で、薔薇の頭を切り落とすというシーンです。このように、少人数での体験、そして観客自ら何かしらアクションを起こすという行為によって、作品世界の一部になっていく感覚に陥りました。


Burnt City

いわずとしれたSleep No Moreのプロダクションが作った新作Burnt City。東京ドーム2個分の広大な施設に作り込まれた、神話の世界。一つ一つのセットが圧倒的に作り込まれていて、映画の中に入ったような感覚になります。

・観客の動き:自由回遊
・表現方法:ダンス、ややセリフ
・物語:ややオムニバス形式(起承転結はあるが観客視点ではオムニバス)

この動画のように、ハリウッド映画の撮影セットレベルに非常に緻密に作り込まれた広大な敷地が、観客を物語世界に没入させます。

👇 観客視点だとこんな感じです。感覚的には、屋内のダークなディズニーランドを自由動き回るようなイメージです。


daisydozeのイマーシブシアター

Dancing in the Nightmare

私たちdaisydozeが作るイマーシブシアターは「どのように観客を作品世界の一部にさせるのか」を大切にしています。例えば、昨年日本橋BnA_WALLで実施したイマーシブシアター。今も残る「日本橋 竜宮城の港なり」という言葉を元に、浦島太郎のみる夢を追っていく作品を作りました。

・観客の動き:誘導
・表現方法:ダンス、ややセリフ
・物語:ややオムニバス形式

例えば、作品のクライマックスで、長い螺旋階段を活用しました。目の前のパフォーマンスを「同じ視点で見る」という行為でなく、「覗き込む」という行為をさせることで、観客の視点を大きく変え、海中に落ちていく感覚を作りました。

海の底で出会う浦島と乙姫
竜宮城から陸に戻る途中で玉手箱を受け取る

また、わざと様々な部屋を移動させることで、自分がどの部屋の何階にいるのか混乱させる作りにしました。これにより、夢なのか現実なのか分からない不思議な感覚を生み出せたと思います。

真っ赤な部屋で踊る踊り子
無機質な冷たい部屋で踊る、白の海神
洞窟のような真っ暗な部屋で、黒の海神に出会う


このように、イマーシブシアターのクリエイティビティの焦点は「どのように観客を作品世界の一部にさせるのか」という視点にあるのではないでしょうか。


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